第15章:零の回収
壊れてしまった日常。
散乱する「赤」を拭い続ける男と、それを処理するために動く組織。
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◆ 【崩壊の部屋】
(いうこときくって……いったのに……)
真羽の小さな嗚咽が、血の匂いと混ざり合う。
光生の手を握りしめながら、震える声で泣き叫ぶ。
「ママ……ねぇ……おきて……」
隣で、翔真は無表情で血の拭き取りを続けていた。
床に落ちた髪、飛び散った血痕、頬に付着した赤黒い液体を、丁寧に指で拭い取る。
「綺麗にしないと……綺麗じゃないと……」
掠れた声で繰り返す。
その指先は震えていた。
(完璧じゃないと、愛されない。)
そう思い込むように、何度も何度も同じ場所を拭った。
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◆ 【モニタリングルーム】
研究所第3階層、モニタリング室。
モニターには、静かになった部屋と、光生の亡骸を抱える翔真が映っていた。
「……主任。」
甲斐の声は低く震えていた。
「これが……理想の社会復帰……ですか?」
返事はない。
結城維人は、灰色の瞳でただ映像を見つめていた。
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◆ 【榊原の指示】
背後で扉が開き、榊原廉也が入ってきた。
「回収部隊を送れ。」
短く冷たい声。
部下が無言で頷き、タブレットを操作する。
【隠蔽回収班 – 特殊任務コード:Z-0】
榊原はモニターに映る幼い少女を見やり、口元を歪めた。
「可哀想にな。母親を失い、父親は殺人者だ。」
甲斐が奥歯を噛み締めた。
「……もうやめるべきです、この制度は……」
榊原は冷たく笑う。
「“やめる”?医者なら分かるだろう。これは国家の臓器だ。切り離せば、この国は死ぬ。」
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◆ 【回収】
黒服と防弾ベストを着た隠蔽回収班が、無言で室内に突入した。
翔真は抵抗しなかった。
ただ、光生の亡骸を抱き締めたまま、動かない。
「離せ。」
隊員が腕を掴むと、翔真は微かに笑った。
「……駄目だ。まだ、綺麗になってない。」
その声はどこまでも静かだった。
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◆ 【結城の冷徹】
モニタリング室。
結城は呟いた。
「……失敗ではない。」
甲斐が顔を上げる。
「何を言ってる……!これで何が……」
「雑音の光は、消えた。」
結城の瞳には感情がなかった。
「これでいい。理想の結果だ。」
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◆ 【甲斐の覚悟】
甲斐は震える指で、カルテ画面を閉じた。
(辞めよう……この場所を。だが……)
脳裏に浮かぶ、今まで救えなかった改訂者たちの顔。
(……俺が去れば、何も残らない。)
そして、自分が辞めるときには必ず改訂される。
(記憶を奪われる前に……届けなければ。俺の“本当の記憶”を……誰かに。)
甲斐の瞳に、わずかな決意の光が灯った。
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第15章・完
ここまでお読みいただきありがとうございます。
幸せな家庭が崩壊し、妻を失い、罪を背負った男・不破翔真。
彼が回収され、記憶を消され……そして
研究所の冷徹さと、唯一良心を残している甲斐先生の覚悟。
甲斐が最後に抱いた「本当の記憶を誰かに届ける」という決意が、現代編でどう関わってくるのか。
そして、残された娘・真羽の運命は――。
全ての点と線が繋がり始めた『ECHO-記憶の残響-』を、これからもよろしくお願いいたします!
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