第14章:疑念の果て
信じようとした心と、疑ってしまった一瞬。
その亀裂から、狂気が溢れ出します。
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◆ 【疑念の始まり】
(ごめん……今、私……疑った……)
震える指先で真羽の髪を撫でる。
「大丈夫よ。ママがいるからね。」
その声は震えていた。
真羽は嗚咽を漏らしながら、母の胸元にしがみつく。
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◆ 【翔真の狂気】
不意に、背後から気配がした。
キッチンの暗がりから、翔真がゆっくりと現れる。
無表情。だがその瞳は、深い闇で渦巻いていた。
「……誰だ?」
光生は顔を上げる。
「……え?」
「誰だよ、お前は……そんな顔の女、知らない……知らない知らない知らないッ!!」
声が震え、荒れ、壊れていく。
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◆ 【光生の心理】
頭が真っ白になる。
(ダメ……私は信じるって決めたのに……
疑ってしまった……)
胸の奥で、何かが裂ける音がした。
真羽が泣き叫ぶ。
「ママ……ママぁ……やだぁ……」
光生は真羽を庇うように抱き寄せた。
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◆ 【翔真の崩壊】
翔真は拳を握りしめ、何度も何度も自分の頭を叩く。
「疑ったんだろ?俺を……疑ったんだろ……
疑うな……疑うなよ……!!」
額から血が滲んでも、彼は叩くのをやめない。
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◆ 【光生の最後の想い】
涙が止まらなかった。
(私は……間違っていたの……?
この人を信じるってことは……
記録改訂を、許すってことじゃなかった……
私は……)
震える声で真羽に囁く。
「ごめんね……真羽……
ママ、あなたを守りたかったのに……」
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◆ 【惨劇】
次の瞬間、視界が横に跳ねた。
翔真の振り下ろした拳が、光生の頬を打ち、床に叩きつける。
真羽が悲鳴を上げる。
「やめてぇ!! まう、言うこと聞くからぁ!!やめてぇ!!」
幼い声が震え、涙で濡れた頬が引き攣る。
その声に、翔真は顔を歪めた。
「じゃあ、泣くな。泣き止むまで続くぞ。」
拳が何度も振り下ろされる。
夜の住宅街に、短く鋭い悲鳴が響き渡った。
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◆ 【モニタリングルーム】
無機質な光に照らされたモニタリング室。
アラームが鳴り響き、甲斐仁と結城維人が無言でモニターを見つめていた。
「……主任。」
甲斐の震える声。
「第1号被験者……抑制限界値を超えています。」
結城は答えなかった。
灰色の瞳に映るのは、画面の中で泣き叫ぶ幼子と、その傍らで狂気に沈む男の姿。
(……理想など、ない。)
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第14章・完
読んでいただきありがとうございます。
あまりに救いのない結末でした。
真羽の「言うこと聞くから」という悲痛な叫び。それは、父が望んだ言葉でありながら、決してこんな形で聞きたくはなかった言葉だったはずです。
「疑うな」と叫びながら自傷する翔真。
彼の精神の中で、「理想の夫」というプログラムと「本来の凶暴性」がショートしてしまった成れの果てかもしれません。
そして、それをただ見つめることしかできない(あるいは、しない)研究所の面々。
この悲劇の果てに、第1章の「記憶喪失の男」がどう生まれたのか。そのミッシングリンクが繋がります。
胸が痛くなる展開でしたが、物語の核心に触れる重要な回でした。
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