第11章:結び目
確かに存在した、永遠のような一瞬。
差別や偏見を乗り越え、結ばれた光生と翔真。
ささやかな食卓、重なる手、そして新しい命。
これは、悲劇が幕を開ける直前の、
あまりにも眩しく、優しい日々の記録です。
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◆ 結婚準備の春(2041年)
「光生さん、おめでとうございます!」
職場のナースステーションには、春色の花束とケーキが並んでいた。
「ありがとうございます。」
光生は頬を赤らめ、小さく頭を下げた。
その指には、細いシルバーリングが光っている。
「彼、優しそうだよね。」
「うん、無口だけど……優しい人。」
同僚たちはひそひそと微笑み合う。
ステーションの奥、薬品棚の影で灯はその光景を見つめていた。
(光生さん……本当に、幸せそう。)
でも、その胸の奥で、小さな不安が泡立つ。
(不破翔真……記録改訂者。白帳。……でも、そんなこと関係ないのかな。)
灯は唇を噛み、そっと瞼を伏せた。
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◆ NOISE内部 – 不安の声
「……結婚?」
暗い会議室に、透也の低い声が響いた。
「はい。翔真さんと。」
光生はまっすぐ兄を見つめた。
真田剛志が腕を組む。
「お前さん、わかってるよな? 改訂者と結婚するってことは――」
「分かってる。」
光生の声は揺れなかった。
「でも、私は彼を信じたい。」
透也は何も言わなかった。
ただ、苦しげに眉をひそめた。
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◆ 2042年 – 結婚生活
小さなダイニングテーブルに、湯気の立つ味噌汁と焼き魚。
「いただきます。」
光生が笑顔で箸を合わせる。
翔真は黙ってそれに倣い、味噌汁をすする。
「どう? ちょっと薄かったかな。」
「……美味しい。」
短い返事。それでも、その声色には優しさがあった。
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夜、布団の中。
光生の寝息が規則正しく響く。
翔真は天井を見つめていた。
(……俺は、誰だ?)
分からない。
記憶はない。過去もない。
あるのは、“不破翔真”という名前と、この穏やかな生活だけ。
(でも……この時間を守りたい。)
無意識に光生の髪を撫でると、彼女が寝言のように呟いた。
「……翔真……ありがとう……」
胸が痛むような温かさで満たされた。
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◆ 灯の視点 – 結婚式の日
白無垢に身を包んだ光生は、柔らかな笑みを浮かべていた。
(綺麗……)
祭壇の後方から、灯はそっと祈った。
(どうか……どうか、幸せになってください。)
しかし、その心の奥底で、拭えない恐怖が蠢いていた。
(でも……もし何かあったら。
私が、光生さんを守らなきゃ。)
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◆ 2044年 – 真羽誕生
病室に、弱々しくも元気な産声が響く。
「……女の子ですよ。」
助産師の声に、光生は涙を浮かべながら赤ん坊を抱いた。
「……真羽……真羽……」
傍らで翔真が、まだ濡れた赤子の小さな手に触れる。
「真羽……可愛い名前だな。」
光生が泣き笑いで頷く。
「この子は、大丈夫。きっと、大丈夫だよ。」
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◆ 翔真のモノローグ
赤ん坊の頬に指先でそっと触れる。
(俺は、この二人を守れるのか?)
問いは宙に消えた。
だが、その瞳の奥には、確かな微笑みが宿っていた。
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第11章・完
第11章をお読みいただき、ありがとうございます。
幸せな時間が描かれれば描かれるほど、読者の皆様には胸が苦しい展開かもしれません。
• 光生と翔真の結婚。
• 元犯罪者(白帳)としての葛藤を抱えつつも、家族を守ろうとする翔真。
• そして生まれた娘、「真羽」。
この「真羽」という赤ん坊。
2044年生まれということは、現代(2050年)では6歳になります。
そう、第1章に登場した新太の娘・**月陽**と同い年です。
この符号は何を意味するのか。
そして、この幸せな家族を壊したのは「誰」なのか。
ついに、運命の歯車が狂い出します。
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【読者の皆様へのお願い】
この幸せが続いてほしかった……と感じてくださった方、
「切ない…」「続きが怖いけど読みたい」 と思っていただけましたら、
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光生たちの物語の結末を、どうか見届けてください。




