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天災扱いの天才、封印される  作者: モッサン
武術大会編

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第6話 商国ジャパの策士(さくし)

アレンの勝利から数時間後。

アリーナの空気はまだ熱気を残していた。


次の対戦カードが告げられる。


「ラグナ王国代表――アレン!」

「商国ジャパ代表――シラヌイ=コハク!」


ざわめきが起きた。

ジャパといえば商国。

戦争もしない。力自慢もいない。

しかし――知略・交渉・策略ではいずれの国も勝てない。


その代表が、細身の少年として姿を現した。


アレンと同じ年頃だが、雰囲気は真逆。

薄い笑みを浮かべ、手には商人特有の算盤型の魔導具を握っている。


(武器……じゃないよな?)


アレンが眉を寄せると、シラヌイは軽く会釈した。


「はじめまして。噂の“ラグナの天才”さん。

あなたの戦闘データ、全部計算済みです」


「計算、ね……」


アレンは小さく首をかしげる。


「戦いってそんな単純じゃないと思うけど」


シラヌイは口角を上げた。


「だからこそ、計算で勝つんですよ。

僕らジャパは、“情報”で戦う国ですから」


審判の合図が響く。


「第三戦――開始!」



開始と同時に、シラヌイは距離を取りながら数式を唱え始めた。


「《損益計算式ロス・アンド・ゲイン》起動」


算盤型魔導具の珠が勝手に走り、光の数字が弾ける。


次の瞬間――


アレンの視界に、奇妙な魔法陣が浮かんだ。


(……これ、魔力の“動き”が読まれてる?)


シラヌイはすでに距離をとり、安全圏からアレンを観察している。


「ドワルゴ戦、速度魔法三種。

初動の癖、魔力の流し方、攻撃パターン……

全部バレバレですよ」


そして――


シラヌイが指を鳴らす。


「《見切りアナライズ・フィールド》!」


足元に広がったのは、魔法陣……ではなく、網目状の情報式。


アレンが動いた瞬間――


ビッ!


不可視の束が足を止めた。


(……っ! 速度が削られてる?)


「あなたの“最適行動”も“最大火力”も、

全部この場で計算済みですよ、アレン君」


シラヌイの瞳が細くなる。


「――だから、僕は絶対に攻撃を当てさせない」


ジャパの戦闘スタイル。

それは、“戦う前に勝つ”。


魔法式を読む。

動きを読む。

思考を読む。


そして、相手の選択肢をすべて“無価値”にしていく。


だが――


(……面白い)


アレンの目が、静かに光った。


「それ、分析しながら戦ってるんだよね?」


「ええ。あなたの反応を見ながら常に更新します」


「じゃあ……」


アレンは笑った。


「本気の“速度”についてこれる?」


シラヌイの表情がわずかに固まる。



アレンの周囲に、薄い雷光が滲んだ。


さっきの“雷纏”とは密度が違う。

魔力密度、回路速度、圧縮比……

すべてが桁違い。


「……まさか、それを大会で使うつもりですか?」


シラヌイの声が揺れる。


アレンは軽く息を吐いた。


「観察してよ。僕の“本当の初速ゼロ”」


次の瞬間――


パッ!


アレンの姿が“消えた”。


いや――見えない。


シラヌイの情報魔法が、追えていない。


「なっ……!?

情報式が……追跡不能トラッキングロスト!?」


“見えない速度”。


アレンが真横に現れる。


「雷纏――零式ゼロ


――情報処理よりも速い。


――計算を上回る。


――予測できない。


シラヌイが慌てて指示を出す。


「《損益計算式》再構築、式を立て直し――」


もう遅い。


アレンの人差し指が、シラヌイの額の前に止まっていた。


「終わりだよ」


雷光が弾ける直前、シラヌイは目を閉じた。


審判が叫ぶ。


「勝者――アレン!!」


雷光は放たれなかった。

アレンはギリギリで魔力を収めていた。



シラヌイはゆっくり目を開く。


「……勝てない、か。

計算ではどうしても届かない……“化け物領域”だね、君は」


アレンは首を傾げた。


「でも面白かったよ。

僕の魔法を“数式”で捉えたの、あなたが初めて」


しばらく沈黙した後、シラヌイは笑った。


「ラグナ……恐ろしい国だなぁ」



観客席。

ヴァルデール師団長は腕を組んだまま呟いた。


「……アレン。

“零式”まで大会で使うとは、らしくないな。

それほどの相手だったか?」


アレンは無言で、小さく頷く。


――初めて、自分の“速度”をデータ化しようとしてきた相手。


――研究対象として、最高だった。


その戦意の火は、まだ消えていない。


アレンは次の相手へ視線を向ける。


軍事国家ロスア。


その代表は――

これまでのどの国よりも、アレンを静かに睨みつけていた。

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