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天災扱いの天才、封印される  作者: モッサン
武術大会編

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第5話 鉄国ドワルゴの巨戦士(ごせんし)

観客席が震えた。

次に戦場へ姿を現したのは、全身を黒鉄の装甲で覆った――まるで山のような男だった。


「ドワルゴ代表、ガルド=バルム!」


身の丈はアレンの倍以上。

鍛え上げられた肉体は鎧の隙間からでも分かるほど分厚く、歩くたびに地面が揺れる。


ドワルゴ――それは“力”を哲学とする国。

魔法よりも筋力、鍛錬、武技を重んじ、

**肉体そのものを武器とする“戦闘種族”**として知られている。


「ちっさいな、おまえ」


ガルドはアレンを見下ろし、鼻で笑った。


「学園も出てねぇ小僧が、俺と戦う? 冗談だろう」


アレンは肩をすくめる。


「まぁ……やってみないと分からないですよ」


「ハハッ、言ったな。後悔するなよ?」


審判が手を上げる。


「両者――構え! 第二戦、開始!」



開始と同時に、ガルドの足が爆ぜた。


「“土走どそう”ッ!!」


大地の魔力を脚に流し込み、爆発的な推進力を生む武技。

ただのダッシュとは比べ物にならない速度で、巨体が弾丸のように迫る。


(速い……!)


アレンの髪が衝撃波で乱れた。

ガルドの拳が横殴りに迫り――


轟ッッ!!


一撃で石床がえぐれ、大量の砂埃が舞い上がった。


しかし。


「……かわされたか」


ガルドの眉がわずかに上がる。


アレンの姿は拳の軌道から、ほんの紙一重でずれていた。


(力は……エルフの比じゃない。まともに受けたら骨が砕ける)


アレンは距離を取る。


ガルドは不敵に笑った。


「逃げるなよ? “鉄国てっこく”には後退の概念はねぇんだ!」


再び地面を蹴り、ガルドが突進する。

ただの重量ではない。

魔力の奔流が大地を砕きながら前へ押し出している。


(あれをまともに受ければ……試合終了。なら――)


アレンは指先を軽く合わせ、魔力線を描いた。


「“雷纏らいつむ”」


空気が震え、小さな光が弾けた。


魔法式は極小。

だが瞬発力は最大。


ガルドの拳が降りかかった瞬間――

アレンの身体は一気に弾けるように横へ跳ぶ。


バチッ!


雷速の回避。


ガルドの拳が空を裂き、地面に深い亀裂が走る。


(今だ)


アレンは低く息を吸い、魔力を圧縮する。


「“雷縛らいばく”――!」


細く鋭い稲光が地面に走り、蜘蛛の巣のように広がる。

その中心にガルドが乗り込んだ瞬間――


バチバチバチバチィッ!!


雷が足元から巨体を飲み込んだ。


「ぬっ……ぐぅ……!」


ガルドの筋肉が硬直し、一歩、二歩とよろめく。


だが――


「甘ぇよ」


ガルドは全身に力を込め、雷を強引に断ち切った。


筋肉が膨れ上がり、鎧が軋む。


「雷なんざ……力で押し切れば十分だ!」


(さすがドワルゴ……! 雷すら筋力で相殺するなんて)


アレンは距離を取りながら魔力を練る。


ガルドは全身から蒸気のような魔力を噴き上げていた。


「次で終わりだ、小僧!」


巨体が一気に跳躍する。


石床が砕け、砂煙が舞い、アリーナ全体が震えた。


(きた……!)


アレンは手をかざす。


ガルドの体が真上から落下する――


その瞬間。


アレンの周囲に薄い魔法陣が複数展開した。


「“圧縮雷球コンデンス・ボルト”」


魔力を極限まで圧縮した雷球が、空へ向かって数十発。


ドドドドドドドドッ!!


空中のガルドへ連撃が浴びせられる。


避けられない。

空は逃げ場がない。


「ぐおおおおおおお!!」


巨体が雷撃に貫かれ、落下速度が一気に鈍る。


そして――


ドォン!


ガルドは地面に沈むように倒れた。


審判が駆け寄る。


「……勝者! ラグナ王国、アレン!!」



観客席が爆発したように沸いた。


だがアレンは肩で息をしながら、倒れたガルドを見つめる。


ガルドは苦しそうに笑った。


「は……はは……。小国の……魔法使いが……ここまでとはな……」


アレンは手を差し出した。


「あなたの力こそ……本物でした」


ガルドはその手を掴み、豪快に笑う。


「次は負けねぇぞ、小僧」


二人の手が固く結ばれる。



アレンは観客席の最上段で腕を組んでいたヴァルデール師団長の視線に気づく。


ヴァルデールは薄く笑った。


――「まだ行けるな、アレン?」


その無言の圧力に、アレンは小さく息を呑んだ。


(……次は、もっと強い相手か)


その予感とともに、第二戦は幕を閉じた。


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