第4話 世界大会・初戦──“小国の天才”と呼ばれた日
世界武術大会──五大国と選抜された小国の代表が、魔法と武技の頂点を争う場。
その初日、観客席はすでに満席に近く、熱気が充満していた。
アナウンスが響く。
「続いての試合! 五大国エルガンド代表──ラウフェン選手!
対するは──ラグナ代表、アレン選手!!」
ざわつきが広がる。
「……ラグナ? 小国だぞ?」
「なんで十五歳の子供が選ばれてんだ?」
「エルガンドのラウフェンはSS級だぞ!? 相手にならん!」
しかし、アレン本人はその声に興味を示さない。
視線はただ、対面にいるエルフの青年──ラウフェンだけに向けられていた。
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■ 開戦前の駆け引き
ラウフェンは鼻で笑った。
「お前が小国の天才とやらか。……随分と可愛らしいな」
「そう? よく言われるよ」
アレンは無表情で答える。
挑発が通じないことに、ラウフェンは表情をわずかに崩した。
観客席ではエルガンドの応援団が叫ぶ。
「ラウフェン様ー! さっさと終わらせて!」
「小僧なんて瞬殺だ!」
その声を聞いても、アレンは肩すら揺れない。
ただし、興味だけはあった。
(エルフの魔法……近くで見たことはない。どれだけ効率がいいんだろう)
師団長ヴァルデールは観客席からアレンを見つめ、心の中で呟く。
(……頼む。やりすぎるなよ)
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■ 試合開始──エルフの高速魔法
「試合──開始!!」
その瞬間、ラウフェンが一瞬で距離を詰める。
「風よ、縛れ──《ウィンド・ロック》!」
エルフ特有の高速詠唱。
観客席から歓声が上がる。
「出た! エルガンドの高速魔法!」
「反応できるわけがない!!」
だが──
アレンはすでに動いていた。
魔法陣も詠唱もなし。
ただ、ラウフェンが魔力を練った瞬間、アレンはその流れを読み切っていた。
「はい、解除」
“風の束縛”は、触れる前に霧のように消えた。
ラウフェンが目を見開く。
「……なにをした?」
「魔力の向きが悪かった。構築が甘いよ。ほら……ここ」
アレンは指で虚空に淡い軌跡を描く。
見える者には、ただそれだけで彼が魔法式を上書きしたことが分かった。
「────っ!?」
観客席が静まり返った。
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■ エルガンドの奥義
怒気を帯びたラウフェンが魔力を全開にする。
「小僧……調子に乗るなよ」
「乗ってないけど」
ラウフェンの足元に巨大な魔法陣が展開される。
観客席が再びざわめき、歓声が上がる。
「エルガンドの奥義だ!」
「SS級の《風刃乱葬》! これは避けられない!」
ラウフェンは空間に刃を無数に刻み、アレンを囲む。
「消し飛べ──《風刃乱葬》!!」
凄まじい刃風がアレンに襲いかかる。
アリーナの床が斜めに切断され、石片が舞った。
土煙が上がる。
観客席が沸く。
「勝った!!」
「子供にしてはよく頑張ったが──」
その瞬間。
「うわ、危ないなぁこれ。威力が無駄に高い」
土煙が晴れると、アレンがそこに立っていた。
衣服一つ乱れていない。
ラウフェンの顔から血の気が引く。
「……な、ん……?」
アレンは淡々と言う。
「魔法陣の“根本式”が丸見えだよ。穴だらけ。
効率は素晴らしいけど、攻撃式が片寄ってる。
こうすれば、ほら──」
指先で空間を軽く押す。
風刃が逆流し、ラウフェンに向かって突き刺さった。
「──がっ!?」
ラウフェンは膝をつく。
大怪我ではない。だが、完全に戦意を奪われた。
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■ 小国の怪物、世界を驚かせる
審判が叫ぶ。
「勝者──ラグナ王国代表、アレン・ラグナ!!!」
観客席に静寂が走る。
次の瞬間、大歓声が爆発した。
「なんだあれ……!」
「小国だぞ!? なんであんな規格外が……!」
「魔法を解析して、逆流させただと……!?」
アレン自身は特に興奮もなく、ただの研究結果として頷いていた。
(エルフの魔法、確かに効率的だった。もっと近くで見たいかも)
ヴァルデール師団長は頭を抱える。
(……やりすぎるなと言ったのに!!)
しかし、王国席は沸き立っていた。
「ラグナの希望だ!」
「世界に名が知れたぞ!」
「凄いぞアレン!」
アレンは観客の声を背に、静かに歩きながら呟いた。
「……次は、どういう魔法を見せてくれるんだろう」
その目に宿るのは、戦意ではなく──限りない探究心。
世界はまだ知らない。
この少年が、魔法の常識そのものを変えていくということを。




