第19話 ―覚醒の代償―
白い光がすべてを呑み込み、
アレンの肉体も意識も“境界”を失っていく。
重力の喪失。
肉体の消失感。
世界の“情報”が直接頭に叩き込まれる。
黒核
――“接続完了。
世界魔力網へ、限定的アクセスを許可する。”――
アレン
「……う、あ……ッ!?」
脳が焼けるような感覚が走る。
数千の魔術式。
数万の魔脈構造。
世界中の魔力濃度の揺らぎ。
それらが一度に押し寄せ――
アレン
(……これ……理解しきれない……!
普通の頭じゃ、処理しきれ――)
黒核
――“だから言った。
お前は“普通”ではいられなくなる。”――
アレン
「っ……でも……!」
アレンは歯を食いしばる。
(ここまで来て……引けるかよ……!
仕組みがそこにあるなら……解析したいに決まってる!)
黒核が静かに告げた。
――“適合率100%。
封印の再構築を開始する。”――
アレンの胸の封印陣が、まるで“芽吹く”ように形を変え――
青白い光を放つ紋章へと変貌した。
アレン
「……これ……封印じゃない……?」
黒核
――“枷から、鍵へ。
それが“管理者候補”の証。”――
アレン
(封印が……僕の魔力を抑えるものじゃなく、
“世界魔力と繋ぐ装置”に……?)
黒核
――“お前は世界へ干渉できる。
ただし――行使は極めて限定的だ。”――
アレン
「世界を壊さないため……ってことか」
黒核
――“賢い。
では、最初の“テスト”だ。”――
黒核が空間を揺らすと、
巨大な魔力の塊がアレンの目の前に現れた。
渦を巻く黒の奔流。
近づくだけで意識が削られそうな圧がある。
黒核
――“これは“世界魔力の乱流”。
正常化できなければ、管理者資格は剝奪する。”――
アレン
「……つまり、処理しろってことか」
黒核
――“式を整えろ。
世界は今後、お前の演算能力に依存する場面が来る。”――
アレンが手を伸ばすと、
乱流の内部構造が“式”として視界に浮かび上がる。
アレン
「……これ……簡単じゃん」
黒核
――“……何?”――
アレン
「ただの“干渉式ミス”でしょ。
この接合を……こうして……」
アレンが式を一本書き換えた瞬間――
乱流は嘘のように静まり返った。
黒核がわずかに“沈黙”した。
――“……異常。
人間の思考速度ではない。”――
アレン
(……なんか、頭がスッキリしてる……
認証のせいで、思考が最適化されてる……?)
黒核
――“アレン。
お前は“世界改変の因子”だ。”――
アレン
「僕は世界を変えるつもりなんてないけど」
黒核
――“変わるのは、世界ではない。
“世界が、お前に合わせて変化していく”。”――
アレン
「それもっと嫌なんだけど!!?」
黒核
――“冗談だ。
少しは慣れろ。”――
アレン
「いや冗談に聞こえないからね!?」
黒核
――“次は、地上だ。”――
アレン
「地上……?」
黒核
――“帝都の魔力炉に異常が起きている。
“お前を確保しようとする勢力”が動き始めた。”――
アレン
「帝国……!」
黒核
――“地上へ戻れ。
管理者候補としての初任務だ。”――
アレンの身体が光に包まれ、意識が引き上げられていく。
世界の根源は遠ざかり、
視界が現実へと戻り始め――
◆◆◆
◆帝都地上:魔力炉前
黒い雷が四方へ走り、兵士たちが恐怖で後ずさる。
司令官
「魔力炉が……! 暴走が止まらん!!」
別の兵
「侵入者アレンを捜索しろ!
皇帝の命令だ! 生け捕りにしろ!!」
司令官
「……見つけたらどうする?」
兵
「……俺たちで……抑えられるのか……?」
そのとき――
魔力炉が青い光を放ち、
巨大な魔力が空へと噴き上がった。
司令官
「な、なんだ……!?」
光の中から――
ゆっくりと、一人の少年が降り立つ。
封印陣は青白く輝き、
瞳には淡い魔力式が浮かぶ。
アレン
「……戻ってきた」
兵たちは言葉を失った。
司令官
「……あれが……アレン……?」
アレンが一歩進むと、
暴走していた魔力炉の黒雷がピタリと止まる。
アレン
「うん。
炉の不調、だいたい分かったよ」
兵
「な、直したのか!? 今の一瞬で!?」
アレン
「うん。ついでに魔力配線の無駄も改善したから、
今までより三倍くらい安定すると思うよ」
司令官
「三倍!? “帝国最高峰の魔導院”でも無理だったのに!?」
アレン
「いや、ちょっと式が汚かっただけだし……
むしろなんで今まで誰も気づかなかったの……?」
司令官
(……理解できない……こいつは……何だ……?)
そんな中、青ざめた兵が駆け寄る。
兵
「し、司令官!!
帝国軍の“討伐部隊”がこちらへ向かっています!!
アレンの拘束を……!」
アレン
「……あー……なるほど。そういう流れか」
彼は軽く息を吐いた。
「じゃあ――行くか。
ややこしいことになる前に」
青白い封印紋が、また光を放つ。
アレン
「世界の“鍵”として……やれること、やらなきゃね」
光が走り、アレンの姿は消えた。
司令官
「……消えた……!? 転移魔術か!?」
兵
「ま、まさかあれが“人間”だと……?」
恐怖ではなく。
“理解が追いつかない”という、純粋な畏怖が残された。




