第18話 ―選ばれし“異質”―
アレンの意識は、黒核の中心へ深く、深く沈んでいった。
視界は完全な暗闇――しかし“情報”だけは洪水のように流れ込んでくる。
魔力の律動。
大陸の下を走る巨大魔脈。
空気の循環すら、魔力法則で制御されていること。
アレン
(……すごい。これ、全部“世界の構造式”だ……
こんなの、研究者なら興奮するに決まってる)
胸の封印陣は悲鳴をあげながらも、同時に“適応”を始めていた。
黒核
――“受容率42%……58%……上昇中。”――
アレン
(封印が……勝手に僕に合わせて形を変えてる?
いや、違う。これは……僕が封印を上書きしてる?)
黒核
――“やはり異質。
本来、世界に存在しない“外部思考体”。”――
アレン
「外部? 僕はただの人間だよ?」
黒核
――““理屈で世界を解体し理解しようとする人間”は稀だ。
大抵は魔力の流れを“感じる”だけで終わる。”――
アレン
「感じて終わるなんて……もったいないじゃん」
黒核が静かに脈動し、アレンの思考に更なる深度を許可する。
――その瞬間。
◆◆◆
◆五大国同時刻:アレンを巡る動き
【ジャパ商国】
交渉官たちが集まり、長机で慌ただしく書類を広げていた。
商国代表
「アレン君を“守る”名目で接近する。
彼の知識を商業魔具に落とし込めば……利益は跳ね上がる」
秘書
「……でも、彼が帝国に捕まったら?」
代表
「なら先に交渉だ。
人材の先取りもまた商戦よ」
ジャパは“利用価値”を誰よりも早く理解していた。
⸻
【エルガンド】
エルフの長老会は深い森の泉の前に集まっていたが――
長老
「……干渉しない。
あれは“世界そのもの”との対話。
我らが口を出す領域にない」
若いエルフ
「しかし、ラグナ王国は……滅びるかもしれません」
長老
「それもまた、流れだ」
彼らは世界の変動を、ただ静かに観察するだけだった。
⸻
【ドワルゴ】
王は豪快に笑っていた。
王
「アレン坊のために武具を準備しとけ!
あいつ、きっとどデカいことをするぞ!」
家臣
「戦争の準備ではなく……?」
王
「んなもん後から考えりゃいい!
あの坊主の力は、本物だ!」
彼らは完全に“味方”の気でいる。
⸻
【魔国】
魔王は深紅の玉座で静かに目を閉じていた。
側近
「……魔力炉が暴走、との報告が。
アレン、危険かもしれません」
魔王
「危険……か。
だが、あれは“潰れる器”ではない」
魔王は薄く笑った。
「もし彼が世界魔力の主核に選ばれるなら……
我ら魔族は、最初の“後援国家”になる」
魔族はアレンに“賭け”を決めていた。
⸻
【ロスア帝国】
会議室では怒号が飛び交っていた。
将軍
「侵入者のアレンを確保し、主核として利用すべきです!」
別の将軍
「いっそ彼を“傀儡皇子”にして国を乗っ取るべきだ!」
皇帝
「……黙れ」
皇帝はただ一点、
魔力炉の映像を凝視していた。
「彼は――人類史の“変数”となる」
その言葉に、場が凍りついた。
皇帝
「アレンを連れよ。
どんな手段を使ってもだ」
ロスア帝国は、完全に“支配”を狙って動き始めた。
◆◆◆
◆帝都魔力炉:深淵での邂逅
アレンの意識は、ついに“根源領域”へ届いた。
そこは光の筋が無限に走る巨大空間。
世界中の魔力式が線となり、網となり、脈動している。
アレン
「……これが、世界魔力網……
複雑すぎる。美しすぎる」
黒核
――“理解したいか?”――
アレン
「もちろん。
でも……僕は神になりたいわけじゃないよ」
黒核
――“ならば、なぜ踏み込む?”――
アレンは迷わず答えた。
「分からないまま放置するのが、気持ち悪いから」
黒核が静かに波打つ。
――“その“異質さ”こそが、お前を選んだ理由。”――
アレン
「選んだ……?」
――“アレン。
“主核候補”として――認証を開始する。”――
封印陣が完全に光り輝き、アレンの身体を包む。
アレン
「……ッ!!?
これは……認証?
封印を……書き換え……て……」
黒核
――“適合率、92%。
人間の枠、突破。”――
アレン
「ちょ、ちょっと待って!?
僕、そんなつもりは――」
黒核
――“世界魔力の“鍵”として……
お前を登録する。”――
アレン
「鍵……!?」
黒核
――“アレン。
お前は今日から――
“世界魔力の管理者候補”だ。”――
アレン
「いやいやいやいや!!
僕ただの研究好きな一般人だよ!!?」
黒核
――“一般人が世界の根に触れられると思うな。”――
アレン
「そんな理不尽ある!?」
黒核
――“受諾完了。
“封印適合者――アレン”。
世界魔力網との接続を――承認する。”――
光が弾ける。
アレンの視界が真白に染まり――
新たな力が、静かに目覚め始めた。




