第17話 “黒核の間” ― 世界が恐れる異質の天才
アレンの視界が光に溶け――
次に開いたとき、そこはすでに“この世の空間”ではなかった。
黒い海のような魔力が、上下左右すべてを満たし、
奥で巨大な“魔力心臓”が脈動している。
ドクン……ドクン……。
音ではなく、脳へ直接響くような脈動。
アレン
(……やっぱり。これ、“自然現象”じゃない)
魔力の揺らぎは人工物ではなく――
まるで意思を持った生命体そのものだった。
封印陣が胸で震える。
(近づくほど強く拒絶してる。
僕に“取り込まれる”のを嫌がってる……?)
そのとき。
――“来たか、アレン”――
声が響いた。
空間のどこからでもなく。
“黒核”そのものが語りかけてくる。
アレン
「やっぱり、喋れるんだね」
――“人語ではない。これは魔力の波形変換。
お前の脳が勝手に“意味”へ置換しているだけだ。”――
アレン
(……勝手に翻訳。封印経由かな?)
黒核の中心に、ひときわ強い光が集まっていく。
――“お前は世界の魔力体系に“適応”している。
本来なら存在し得ない、特異点だ。”――
アレン
「だから僕を取り込もうとしてる?」
――“主核として迎える。
お前が中心となれば、世界の魔力は完全に安定する。”――
アレン
「それって――人の文明はどうなるの?」
沈黙。
次いで、冷たすぎる答え。
――“不要。”――
アレン
「……やっぱりね」
魔力炉は“世界”を優先し、人類を切り捨てる。
アレンは歩みを止めず、黒核に手を伸ばす。
「だから――調べる必要があるんだ」
――“拒絶する”――
黒核が震えた瞬間。
周囲の黒魔力が、一斉に形を変え始めた。
獣の牙を持つ影。
巨大な甲殻を持つ魔獣。
複数の目を持つ黒い人影。
――帝国軍の魔導兵器“黒魔獣”そのものだ。
アレン
「……なるほど。量産型の原型は、ここか」
黒獣たちが、咆哮もなく動いた。
一斉に、アレンへ。
アレンは手を軽く上げた。
「封印、調整」
胸の封印陣がギチィッと軋む。
ほんの少し――
“解放”される。
次の瞬間。
アレンの足元から、青白い魔術式が“花開く”ように広がった。
黒獣たちは踏み込んだ瞬間――
バチッ!!!
影の肉体が分解され、霧のように霧散する。
アレン
「……波長、全部見えたよ」
黒核
――“なぜ適応する?”――
アレン
「僕はただ、研究がしたいだけ。
君たちの仕組みをそのまま放置するのは……気持ち悪いんだ。」
黒核が轟音を放つ。
さらに巨大な魔力の渦が生まれる。
――“では試す。
お前が“主核に足る存在”かどうか。”――
空間そのものが反転し、
アレンの周囲に巨大な“目”が無数に開いた。
アレン
「これ……世界魔力網と接続してる?」
――“世界の“根”だ。”――
アレンの瞳がわずかに輝く。
「……見たい」
封印がきしむ。
黒核が震える。
――“ならば来い。
選ばれた“適合者”よ。”――
アレンは迷わなかった。
黒核へ――踏み込んだ。
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◆同時刻:帝都地上 ― クレア
クレア
「っ……! 魔力炉内部反応、異常上昇!?」
黒魔力網が暴走し、天へ向かって黒雷を放つ。
兵士
「監視官! 炉が……自動制御を失っています!」
クレア
(まさか……本当にアレンを“主核”にしようとして……!?)
クレアは震える手で端末を握り、叫んだ。
「帝国魔導院へ緊急報告!!
“黒魔力炉が未知の侵入者に適応”!!!
コード・オメガ――!」
兵士たちが青ざめる。
ロスア帝国にとって“オメガ”は――
国家崩壊寸前の事態。
クレア
(アレン……あなた、本当に何者なの……?)
⸻
◆さらに同時刻:ロスア帝国・皇帝会議室
重厚な扉が開き、将軍たちが駆け込む。
「こ、黒魔力炉が暴走を始めました!!」
「“適合者”を検知……詳細不明の侵入者です!」
皇帝レオグランスはゆっくり立ち上がる。
「侵入者の名は?」
「……アレン。
ラグナ王国の……ただの少年だと……」
皇帝の目が細くなる。
「――“天災”が人の姿で生まれることもある、か」
⸻
◆帝都中央魔力炉 ― 対話の核心
黒核の中枢で、アレンは“世界の根”と接触しようとしていた。
黒核
――“アレン。
お前が望むなら――世界の魔力を、すべて見せてやる。”――
アレン
「……いいの?」
黒核
――“ただし代償として――”――
アレン
「?」
黒核
――“お前は二度と普通の人間ではいられなくなる。”――
アレンは笑った。
「そんなの、今さらでしょ?」
黒核が揺れた。
――“……適合、開始”――
アレンの意識が深淵へと沈み――
世界の魔力網の、根源へと触れようとした。




