第14話 帝都潜入開始(ブラックアウト作戦・起動)
ラグナ王都の城門前。
夜空に薄雲がかかり、風が静かに吹いている。
その中央で――
アレンはひとり、外套を翻しながら空を見上げていた。
背後から重い足音が近づく。
ヴァルデール師団長だった。
「……行く前に、言わせろ」
アレン
「?」
「お前はまだ十二歳だ。
国背負って戦うなんて、本来はやらなくていい」
アレンは少し考え、首をかしげる。
「僕は別に、国のためじゃないよ?」
ヴァルデール
「知ってるよ……研究のため、だろ」
アレン
「うん」
その無邪気さに、ヴァルデールは苦笑した。
「……だがな。
その“研究”の結果で、うちの国が守られてる。
だから、帰ってこい。
絶対にだ」
アレンはふっと微笑んだ。
「うん。帰るよ。
だって、解析してない魔導書、まだたくさんあるから」
ヴァルデール
「そっちか!」
怒鳴りながらも、どこか安心した色が声にあった。
アレンが歩き出したその時――
ドォン……!
低い震動が地面を揺らした。
城壁の影から、小柄な影が現れる。
「……アレン様、装備を」
その声はかすれ、しかし厳かな響きを含んでいた。
ドワーフの国・ドワルゴから来た鍛冶師、
グロン・ハルド。
彼は布をめくり、黒鉄の腕輪を差し出した。
「“雷導腕輪”。
魔力を抑制するのではなく……
逆に“扱いやすく整える”ための触媒じゃ」
アレンの瞳が輝く。
「すごい……魔力回路の配置が理想的。
これつけたら、雷の分散率が上がる」
グロン
「そうじゃ。
あんたの魔力は桁外れじゃからな。
生身で扱うのは危険すぎる。
この腕輪で、せいぜい“出力を整えい”」
アレンは迷いなく腕に装着する。
カチリ。
魔力が腕輪に吸い込まれ、薄い青光が走る。
「……すごい。
これ、僕の魔力の“癖”を補正してる」
グロンは鼻ひげを震わせて笑った。
「天才は羨ましいわい……
じゃが、こいつは天才のためだけに作ったもんじゃ。
必ず役立て」
アレン
「ありがとう。
これ、壊したくないな」
「壊すんじゃないぞ!?」
そのやりとりに、周囲の兵たちの硬い表情が少しだけ和らぐ。
⸻
●ジャパ商国からの援助
街道脇には、すでに一台の馬車が待っていた。
あの派手なジャパ商国使者が、手を振っている。
「アレン君!
“帝都最新地図”と“魔力炉内部の断面図”、
そして“魔導警戒網稼働パターン”を届けに来ましたよ!」
アレン
「ありがとう。これで潜入ルートが完全に見える」
ジャパ使者はにやりと笑う。
「その代わり……
帰ってきたら、ウチの国と“ひとつ契約”お願いしますねぇ?」
アレン
「いいよ」
即答。
使者
「即答ぉ!? 商売の基本が分かってらっしゃる!!」
ヴァルデール
「……お前ら、ほんと何なんだ」
⸻
●魔国からの支援
さらに、黒い霧のような気配が背後に立つ。
魔国の使者だ。
「……アレン。
魔王陛下より、“瞬間転移符”を預かっている。
危険な時にだけ使え。
これは、君の存在を守るためのものだ」
アレンは受け取りながら言う。
「ありがとう。
使わないと思うけど」
魔国使者
「使えぇっ!!」
十二歳の少年に振り回される三国代表。
珍妙な構図なのに――
そこにいる全員が、どこか誇らしげだった。
⸻
●アレン、出発
アレンは空を見上げる。
夜の雲の奥で、魔力の流れがかすかに揺れる。
(ロスア帝都の魔力炉……
やっぱり共振させるには、現地で“波形”を取る必要があるな)
アレンは風の中で目を細めた。
「じゃあ――行ってくる」
ヴァルデール
「アレン!!」
王リドール
「アレン……必ず、無事に戻れ!」
アレンは軽く手を振る。
「うん。またね」
次の瞬間――
バチッ……!
雷光がアレンの足元から走り、
少年の姿が夜空へ跳ね上がるように消えた。
まるで雷そのものになったかのように。
誰も追えなかった。
誰も止められなかった。
アレン・ラグナ――
世界最強の魔術師は、
世界最強の軍事国家の心臓部へと向かう。
すべてを終わらせるために。
そして、すべてを“理解”するために。




