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第9話

「幸せなんだね」


私とイディスの姿を見て、デービス様は微笑んだ。



「ええ。あの時は色々ありましたけど……デービス様に勇気を頂きましたから」


「僕に?」


「はい。『一歩踏み出す勇気』です。私はずっと……本さえ読んで過ごせていれば良いって思っていました。

あの時は婚約者がどんなに自分を蔑ろにしていても、本さえあればって。

結婚するのかしないのか。結婚したとしても放っておかれる妻になるのか。それさえもどうでも良いというか……自分にはどうする力もないと思っていたんです」


私は本に夢中なイディスをチラリと見る。流石に父親の名前を口に出せば、イディスも気になるだろうと私はフェリックス様の名前を伏せた。


「でもデービス様が夜会に誘って下さって……思い切って一歩踏み出した時から、少しずつ何かが変わっていきました。旅に出ようとおっしゃっていただいてから、私は自立を考える様になったと思います。それが全ての始まりです」


「そうか……じゃあ僕は間接的にでも君を幸せに出来たというわけか」


デービス様は優しく微笑んだ。


「そうなりますね。それに……デービス様は私を主人公にしてくださいました」


「あの小説かい?気に入ってもらえた?」



そのデービス様の言葉に答えたのは……


「俺は気に入らない」


「おとうさま!!」


イディスが突然現れた父親に喜んで手を伸ばす。フェリックス様はそんなイディスを鼻の下を伸ばしながら抱き上げた。


「お久しぶりですね、近衛騎士団長殿。どの辺りが気に入りませんでしたか?」


デービス様が戯けた様にそう言った。



「俺は愛想を尽かされていない」


フェリックス様は不貞腐れた様にそう言った。


「いやだな。小説なんてフィクションですよ。真に受けないで下さい」


「それでも気に入らない。だが……メグが大切にしてるからな。メグが大切な物は俺にとっても大切だ。だから……君にも感謝している。俺の目を覚まさせてくれたのは君だ。ありがとう」


「……素直になりましたね」


「格好をつけるのは止めた。俺は毎日メグを他所見させない為に必死だ」


「まだ……そんな事を……」


デービス様とフェリックス様との会話に思わず口を挟んでしまった。

本の虫令嬢はいつしかこの国で初めての侯爵夫人と教師の二足のわらじを履くようになり、そして蔑ろにしていた婚約者とは『おしどり夫婦』とまで言われる様になった。

だけど、まだフェリックス様は時折不安そうにする。私がどこか遠くへ行くのではないかと。


「いいんじゃないですか?女性は追いかけるより追いかけられる方が幸せだと言いますよ」

小声でデービス様はそう私に言うと、


「明日この国を出ます。その後は此処から随分と離れた国に行くつもりです。次に戻って来るのはいつか分からない」

とデービス様は立ち上がった。


「……デービス様……」

私も立ち上がる。

大切な友人にもう会えなくなるのかもしれないと思うと、私は胸が苦しくなった。

すると、何故かイディスがデービス様に向かって手を伸ばした。戸惑うデービス様に、フェリックス様はイディスを預ける。



デービス様がイディスを抱っこすると、イディスはデービス様にぎゅっと抱きついて、


「また会いに来てね」

と笑った。


デービス様は


「困ったな……直ぐに戻って来なくちゃならなくなってしまったよ」

と困った様に微笑んだ。


フェリックス様はいつの間にか私の隣に立つと二人を見ながら私の腰をそっと抱いた。

そして、


「デービス殿はやはり気に入らない」

と小さく呟いた。





                ーFinー




これで「本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす」は番外編を含め全て完結となります。長い間お付き合い頂きました皆様に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。


糖度低めの恋愛小説しか書けない作者ですが、それでも私の作品を読んで下さる皆様のお陰で、また次も頑張ろうと思えます。また次の作品でお会い出来る事を楽しみにお待ちしております(◕ᴗ◕✿)


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