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第6話 Sideステファニー

「どうして?!どうして私が婚約破棄されなければならないの?!」


私は自分の部屋のクッションを何個も何個も壁に投げつけた。


「お、お嬢様落ち着いて!落ち着いて下さい」


「煩いわね!!あんた達に指図される覚えはないわ!!」



幼い頃から、蝶よ花よと育てられた。欲しいものはほとんど手に入ったし、皆が私のご機嫌を窺う。当たり前だ。私は次期王妃。私の機嫌を損ねる事はこれからの自分の将来に影がさす事だと、周りは皆、理解していた。


そんな私だが、ずっと不満に思っている事が二つあった。


『また、これだけ?本当は他にあるんじゃないの?』


『い、いえ。これだけでございます』


執事が私の前に差し出したのは、小さな宝石のついたイヤリングと、定型文の様な手紙だけだった。


そう……私の不満の一つ目は婚約者である殿下だ。

一応殿下は、婚約者としての務めは最低限果たしてくれていた。そうそれはあくまでも最低限。私の望むものには到底届かない。


留学中の殿下は、誕生日にはこうして贈り物をくれるし、毎月手紙は送ってくれる。

でも、ただそれだけ。


贈り物は質は良いのだろうが地味。手紙はお決まりの言葉ばかりが並ぶ。

私もそれに型通りのお礼の言葉を並べる。

殿下と私。全く他人行儀な婚約者同士だった。


それともう一つの不満。


それは幼馴染でもあるフェリックス・ハウエルだ。

正直言おう。私は彼と出会った瞬間恋に落ちた。その時、私は五歳、彼は八歳になったばかりだったっけ。

母の親戚筋の彼は母親譲りの美しい顔に、ぶっきらぼうな態度がちぐはぐな男の子だった。


しかし、私がいくらフェリックスが好きでも、私は殿下の婚約者。最終的に結ばれる事は絶対にない。そう理解はしていた。彼のあの言葉を聞くまで。


『俺はいつか近衛騎士団に入るんだ』


フェリックスの父親は近衛騎士団副団長。彼がそう願う事は必然の成り行きだった。



近衛騎士は王族を守る騎士。もちろん私が王太子妃になっても、王妃になっても側にいることが出来る、という事だ。


それならば、私はフェリックスと一緒に居る事が出来る!そう思った時、私の目の前はバァっと明るくなった気がした。殿下と結婚して、フェリックスを従える。なんて素敵でワクワクする未来なんだろう!!


しかしその明るい未来に邪魔者が居る。


マーガレット・ロビー……フェリックスの婚約者だ。






「フェリックス、私に訊きたい事ってなぁに?」


婚約者である殿下が留学してから、何故かフェリックスがいつも側に居てくれる様になった。


きっとフェリックスも私と同じ気持ちなのだと、思っていた。

殿下が留守の間だけでも私と一緒に居たいのだろうと……。それなのに……。


「なぁ……女の子ってのは……何を、その……贈ったら喜ぶものなんだ?」


私はピン!ときた。フェリックスったら……本当に不器用なんだから。当の本人に欲しいものを訊くなんて。


でもそこがフェリックスらしいと言えば、フェリックスらしい。

そして、照れた顔も美しい。



「そうねぇ……私だったら……」

「いや、お前の欲しいものは訊いてない」


喰い気味に否定された。え?どういう事?


「じゃあ、誰の事!?」


「そんなの……決まってるじゃないか。俺の婚約者だよ」



照れた横顔もやっばり美しい……ってそんな事じゃない!

婚約者?!そう言えば、数カ月前にフェリックスに婚約者が出来たと聞いたような聞いていないような……。


「婚約者?誰?」


「言ってなかったかな。ロビー伯爵のとこのご令嬢だよ。マーガレットって言うんだ」



「伯爵?しかもロビー伯爵って……大した事ないんじゃない?」


「ん?まぁ……確かに伯爵だけど。でもマーガレットには関係ないし……」


「花ね、贈るなら花束一択だわ。でもあまり女の子にデレデレしない方が良いわよ」


私はそれ以上フェリックスの口から何も聞きたくなくて、適当に返事をした。






結局、あの女はフェリックスの事を諦めるどころか、ちゃっかり結婚まで決めてしまった。


私は殿下との婚約も破棄され、父親が降格にまでなったと言うのに!!


どうして!?どうしてなのよ!?



毎日が面白くない。

イライラして侍女達に当たる毎日だ。


何だか侍女やメイドや使用人の人数も減った気がする。

本当にイライラする。






「お父様、どういう事ですの?!」


「王都に居る必要はもう無くなった。領地に戻るぞ」


「どうして?私は嫌です!」


あんな田舎に引っ込むのなんて真っ平御免だった。


「ステファニー……王都に居たってお前だって辛いだけだろう?」


「だからといって負け犬の様に尻尾を巻いて逃げろと言うのですが?」


「負け犬か……その通りじゃないか。私達は負けたんだ」


「お父様!それで良いのですか?」


「ステファニー……私達は一から領地でやり直す。それしかないんだ」




お父様はすっかり老け込んだ。お母様も毎日塞ぎ込んでいる。


屋敷に居てもくさくさするので、私の周りに侍っていた者達に連絡を取るも……


「また?断りの手紙は見飽きたわ」



私は返事を持って来たメイドの顔に、思いっきりその紙を投げつけた。



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