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魔法と魔獣の交わる世界を  作者: 傘瓜
第一章 魔法と魔獣
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第六話

 放課後、俺はグラウンドに行った。

 そこにあったのは生徒の群れで作られたリングだった。半径二十メートルほどの円で作られた決闘のリング。

 

 「噂ってのは広まるのが早いな」

 

 そして外野は俺の姿にほとんど見覚えがないようだ。


 「あいつ誰だ?」「まさかマジン5!?」「いやでもあんな奴見たことねえぜ」


 はいはいすみませんね。ったく、誰と誰が勝負するかぐらい調べてから来やがれってんだよ。

 すると外野の方から聞き慣れた声たちが聞こえてきた。


 「みなっち、手ェ抜くんじゃねえってんだよ!」「湊、死ぬんじゃないわよ!」「東川、やれやれ!」「魔法なんて蹴散らしちまえ!」

 「みんな……」


 誠也と華子、そしてクラスの皆だ。

 すると、俺の正面にいた生徒の群れがぞろぞろと動き始めて、それはやがて一本の道を作った。そこから現れたのはやはり工藤理だった。

 その姿を見るなり、群集が歓声を上げた。


 「「おおおお!」」

 「工藤理だ」「さすがマジン5、立ち姿が違うぜ」「工藤、そんなモブぶっ倒せ」


 工藤は俺と20メートルほど距離をとったところに立った。


 「遅かったな」

 「君と違って僕は暇じゃないんだ」

 「待ちやがれ!」

 「「っ!?」」


 突如、工藤の通ってきた道の方から声が聞こえた。そこに全員が視線を向けると、ヨシちゃんが仁王立ちで鬼の形相を浮かべていた。


 「お前たち、昼の話をちゃんと聞いていたのか!? っておい、お前たち何をする! やめろ、こんなの全員生徒指導行きだぞ!?」


 工藤が目で指示を出した瞬間、ヨシちゃんの近くにいた生徒たちが彼女を取り押さえ始め、彼女は群集に飲まれてしまった。

 そして工藤をふぅと息を長く吐いて、そして俺の方を睨んだ。


 「決闘者名、工藤理!」

 「……え?」


 ズコーっと群集全員が転がった。工藤は呆れたようにため息を吐いた。

 いやだって仕方ないじゃないか、決闘なんてしたことないんだし見たこともないんだしよ。


 「お互い名前を呼ぶ。そして二人の『デュエル』という声で始める……はぁ、そんなこともしらないのか」

 「お、おう。け、決闘者、東川湊……?」

 「自分の名前くらい自信持てよ……行くぞ?」

 「デュエル!」「あ、デュ、デュエル!」


 くそ、決まらねえな。

 なんて舌打ちしていると、工藤は地を蹴って俺の方に走ってきた。

 工藤は一瞬で俺の方まで来て、構えていた拳を俺に降り下ろした。

 

 「う、うわぁあ!」


 しかし俺はそれを間一髪で避ける……が、体制を崩してその場に尻餅をついた。その瞬間、群集の方から大きな笑い声がそこらから聞こえてきた。


 「何だあいつ」「ほんとにやる気あんのか?」「うわぁあ、だってよ」


 くそ、喧嘩なんてしたことないから仕方ないじゃないか。

 それを見ていた誠也や華子もあちゃーとでも言うように頭を抱えていた。


 「もう少し集中してくれないか? これじゃあ決闘にすらならない」

 「お、おう。すまんすまん」


 俺はその場に立ち上がり、数歩下がって工藤と距離をとった。

 集中しないとダメだな。

 大丈夫だ、アニメである程度の戦闘シーンは見てきている。シャドーボクシングだってめちゃくちゃ上手くなってる。大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせて、アニメの一つで見た戦闘の構えをとる。

 それを見た工藤も顔に気合いが入り、空手のような構えをとった。


 「来い!」

 「言われなくて、もっ!」


 工藤が再び地を蹴り、右手を放つ。

 それを右手で払って左に数歩横移動する。

 そして右手で払うと同時に腰で構えていた左拳を強く握り、工藤の顎目掛けて振り上げる。

 

 「ガハっ!」


 工藤は避けようとするが間に合わなく、見事にそれは彼の顎に直撃した。

 彼は宙に打ち上げられ、背中から地面に叩きつけられた。

 

 「くっ……」

 

 その瞬間、群集の方から歓声が上がる。


 「あの一年、やるじゃねえか!」「あの工藤を殴った!」「みなっちやるじゃねえか!」


 ふっと鼻で笑うような声が聞こえからそちらを向くと、工藤がにやりと口角を上げて顎を手の甲で拭いながら立ち上がっていた。

 

 「やるじゃないか。格闘技が何かしていたのか?」

 「アニメしか見てねえよ」

 「やはり嫌いだ」

 「お前こそどうなんだよ?」

 「僕は定番の格闘技は独学だが全て学んでいる」


 独学か……やっぱこいつはすげえ、尊敬できる。


 「さあ来い、東川湊!」

 「やってやるぜ、工藤理!」


 次は俺が先に地を蹴る。

 わかりやすく右拳を振り上げる。


 「甘い!」

 

 しかし本命は右脚。


 「フェイント――っがは!?」

 「ふんっ!」


 それは工藤の横腹に命中する。

 しかし彼の体幹の良さが現れたのか、彼は倒れずに済んだ。


 「だから甘いと――んぐっ!?」


 俺は少し怯んだ隙を見て工藤に握っていた右拳を放った。

 それは彼の顔に直撃して工藤は後ろへぶっ飛んだ。その時、何かパリンと割れる音が聞こえた。

 再び立ち上がった彼の顔の鼻から血が出ていて、眼鏡のレンズが割れていた。

 工藤は使い物にならない眼鏡をその辺に投げ捨てた。


 「調子に、乗るなぁあ!」


 次に工藤は斜め上へ跳んだ。その跳躍力は異常で、すぐに俺の頭上まで来た。

 右拳を強く握り、体重ごと俺に振り下ろした。

 俺はそれを両手を顔の前に出して受け止める。


 「くっ!」

 「倒れろぉお!」

 「ことわ、るっ!」


 両手を全力で押すと、工藤は後ろへ吹き飛んだ。

 しかし彼は見事に着地して地を蹴った。

 再び彼の右拳が来る。

 俺はそれを再び右手で払おうとする。


 「なっ!?」


 しかしそれは俺の左方向へ飛んでいった。

 俺は癖で左へ横移動してしまった。

 しかし幸いなことに俺はそれに早く気付けたから、顔を右に傾けて避けることができた。

 そして俺の耳元まできた彼の右手を両手で掴み、それを引っ張って彼を自分に近づけた。


 「これでどう、だっ!」


 頭突き。

 石頭を食らった工藤は後ろへ吹き飛び、背中から倒れた。


 ――それから何度も工藤は立ち上がった……が、結果を言うと工藤は思ったより強くなかった。圧勝だったということだ。

 工藤はまた立ち上がった。しかしとうとう体力が尽きてしまったのか、膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れてしまった。

 そして周りも呆気に取られて数秒の沈黙が続き、工藤への批判が始まった。


 「意外と弱くね?」「マジン5も大したことないな」「追い立てよ、お前に一万賭けたんだぞ?」「弱すぎ」「あれでよくマジン5になれたよな」

 「立てよ」


 その声に返答はなかった。

 俺は悔しかった。

 勝った。そう、俺は勝ったのだ。なのに悔しい。

 あれだけ努力している奴が批判されるのが悔しいのか? いや違う。なら何故だ……


 「何故だ!」


 工藤が嘆いた瞬間、辺りが静まった。


 「何故僕は君に勝てない!」

 「工藤……」

 「何度も何度も……折れて……努力して……苦労して……ここまで来たというのに……また折れるのか……? 僕はまた折れてしまうのか?」

 「それがお前の本気か、工藤?」

 

 すると工藤は俺を見上げて睨みつけた。しかしその目にはいつものような強気な瞳がなかった。あったのは、空っぽで、弱気な瞳。


 「全力に決まってるだろ? 誰が好き好んで君に負ける?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中でぷつんと何かが切れた。これは決して、自分を馬鹿にされたからではない。


 「東川湊……この勝負、君の勝――」

 「黙れ!」


 俺の怒号にこの場にいる全員が目を丸くした。長年一緒にいる誠也と華子でさえも。

 たしかに俺はここ数年本気でキレたことはない。それは俺の心が温厚とか、器が大きいとかじゃない。

 それは、そもそもキレる意味もなかったからだ。だが今は違う……


 「工藤、もう一度問うぞ。お前は本気か?」

 「当たりま――」


 俺の彼が言い終わるよりも先に工藤の顔面を蹴った。


 「何気使ってんだよ!」

 「……は?」

 「お前、俺が魔法使えないからって、魔法を使わずに戦っただろ? それで何が本気だ、何が全力だ!」


 ここで終わっておけばよかったと、俺は何度も後悔する。

 だがこの時は止まらなかった。

 俺は戦闘の構えを取る。


 「本気で来い、工藤理!!」


 その俺の姿勢を見上げて工藤は目を丸くした。まるで自分よりも遥か上にいるような存在を見上げるように。

 でも違うだろ工藤? お前は俺よりも遥かに強い。ならそれを今ここで証明して見せろ。

 俺の意思を理解してくれたのか、工藤はニヤリと笑って立ち上がった――


 「そこまでだ!」


 その瞬間、俺と工藤の間に巨大な壁が現れた。

 岩……まさかと思い壁の端を見てみてると、ヨシちゃんがゼーハーと肩で息をしながら両手を掲げていた。


 「工藤、東川、ここでやめれば停学で許してやる」

 「ちと黙ってろババア」

 「お前何を――んなっ!?」


 聞き慣れない声にヨシちゃんが反応した瞬間、目の前にあった壁は崩れて、ヨシちゃんは息苦しいように喉を抑えて、意識をなくしたように膝から崩れ落ちた。

 そしてその先にいたのは、元々そこに壁があった場所に手を置いている工藤理の姿をしたものだった。


 「くくくくくくっ……光栄に思え東川湊、ボくの全力が体感できるんだからなあ!!!!」


 

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