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魔法と魔獣の交わる世界を  作者: 傘瓜
第一章 魔法と魔獣
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第三話

 俺と華子は無事、授業に遅刻した。

 そして『魔学』の教師でもあり我がクラスの担任でもある気の強い女教師ことヨシちゃんに軽く説教され、その後授業で彼女のつまらない話が長々と続く。


 「大昔、世界では魔法が使われていた。火を起こすのも、マンモスを倒すのも、水を補充するのも、病を治すのも全て魔法で行なっていたと言われている。

 しかしある日、一人の人間の魔力が制御不能になり、地球滅亡まで追い込んだが、一人の人間がそれを食い止めることに成功した。これを今では『魔力暴走』と呼んでいる。

 そしてこの世界を窮地から救った一人の人間こそ、我が校の名前にもなっている『エリト・マジク』である。彼は一国を築き、そこで今後の魔力暴走を恐れて国民の魔法の使用を禁止した。やがてそれは全世界に広まり、人類は魔法を使うことをやめた。

 そして魔法はやがて人の記憶から消えていき、御伽話の中のものになってしまった。

 しかし時は経ち、今から10年前、一人の研究者『エリック・マジク』が人類の体内にまだわずかだが『魔力』があることを証明した。気付いていると思うが、彼はエリトの遠い遠い子孫だ。

 エリックの努力の結果、我々も魔法を使えるようになった。しかし長い間使われていなかったこともあり、魔法を使うための『魔力』が不十分なため、まだ人間が使える魔法は『属性魔法』『身体魔法』『物質魔法』『空間魔法』の中の一つ、さらにその種類の中の一つしか使えない。それらは人の性格、遺伝子、生き方などが関係して決まる」


 ああ……非常に退屈である。

 何だってこんな長話に付き合わされなければいけないんだ。


 「いてっ」


 突如、俺の額に何が小さなものがぶつかった。それは机の上にコロンと落ちた。

 石……まさかと思いヨシちゃんの方を見ると、彼女は険しい顔をして俺に掌を向けていた。やはりこの石はヨシちゃんの魔法で作られたものらしい。


 「東川、何をボーッとしている」

 「し、してないですよ」

 「ほう、ならば今私がした話を一から話してもらおうか?」

 「な……なんて鬼畜な……」

 「できないのか?」


 と、ヨシちゃんは俺に向けた掌から再び小石を生成した。宙に浮いている小石の牙は完全に俺の方を向いている。


 「つ、つまり魔法が復活したってことですよね?」

 「そんなの一般常識だぞ? じゃあ質問だ。エリト・マジクが何を行った?」

 「えっと……魔法の証明ですか?」

 

 その解答を聞いてヨシちゃんは呆れてため息を吐き、クラス中には失笑が起こった。俺はまだ何が間違っていたのかわからない。


 「それはエリックだ……はぁ、お前はもう少し、魔法に興味を持った方が良い。自分が使えるか使えないかは関係なくな」

 「俺は多分、魔法を使えても魔法を否定しますよ?」

 「どういうことだ?」


 クラス中の空気が一変した。とても冷たい。


 「だって、エリトさんは魔力暴走ってやつを恐れて魔法を禁止したのでしょう? つまりエリックさんがやったことは再び魔力暴走ってやつを引き起こすってことにもなります。いくら今の人間の魔力が少ないからと言って、魔力暴走が起こらないわけじゃないんですよ?」

 「しかしだな――」

 「いい加減にしろよ!」


 突如、一人の生徒がヨシちゃんの言葉を遮って立ち上がった。工藤理である。

 彼は立ち上がるなり俺を睨みつける。いや、クラス中が俺を睨んでいた。まあ魔学の教育に特化した高校なのだから、仕方ないだろう。


 「東川くん、自分が魔法が使えないからって魔法を否定するのはやめてくれよ。現に魔法は僕たちの生活を豊かにしてくれている。それに今ではしっかり魔力暴走を止められるものが開発され始めている。君がしていることは、人類からスマホを取り上げようとしているのと同じことだ。自分の力のなさを他人のせいにするのはやめろ!」

 「おい工藤」

 

 ヨシちゃんに名を呼ばれると我に返ったように体をぴくっとさせた。


 「す、すみません、つい……しかし僕は、どうしてこんなやつがこの学園に入学できたのか不思議でたまりません! 彼が入学するくらいなら、他の人間が入学した方がマシだった――」

 「工藤! そこまでにしておけ」

 「はい……」


 なかなかの言われようだな。これは華子の心配が的中するのかもしれないな。

 でも確かに、俺自身も何故この高校に入学できたのかはわからない。ダメ元で受けてみたものだから、まさか合格するなんて思いもしない。

 しかしここまで言われては、俺も反抗せざるを得ない。


 「魔法ってそんなに便利なものか?」

 「何だと?」

 

 座りかけようとした工藤の腰が再び上がった。ヨシちゃんが「おい」と止めようとするが、もう止まらない。


 「火を起こすならコンロがあるし、移動手段なら車を使えるし、物を運ぶためならロボットがある。魔力暴走制御装置だ? そんな高い費用を使って防ぐリスクよりも、費用もリスクもゼロのない方がいいに決まっている。それに魔法なんていう強力な力があれば、争いによる被害がより大きくなる。そんなこと、工藤くらいなら考えたらわかるはずだろ?」

 「魔法は地球温暖化の原因となる排気ガスを防止できる」

 「なっ!?」


 そ、それは考えられなかった。つまり魔法は地球温暖化を防止することができるということか……俺が快適に夏を過ごせるということか!


 「まいりました……」

 チーン


 おい誰だ今ベルを鳴らしたのは!?

 俺と工藤が静まったのを確認したヨシちゃんは、一呼吸置いてから俺と工藤を睨んだ。


 「東川、工藤、二人とも後で生徒指導室に来い」

 「はい……」

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