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安倍先生と赤坂女史

彼と私と植木鉢

作者: 山村

 その日は登校して、教室へ行く前に日本史準備室の扉を開けた。誰にも見られないようさっと中に入り、一応鍵を締めて室内を見渡す。この時間、先生は職員室にいるので私以外には誰もいない。

 教室の半分もない狭い空間には資料を収納するための本棚数架に事務机と事務椅子。それとサボってるのがバレないように、ぱっと見では見えにくいよう棚の影になる場所に憩い用の小さいソファーとテーブルが一つずつ。

 本当ならばソファーで朝寝でもしたいところだけれどそんな事をしていたらホームルームに間に合わなくなってしまう。スクールバッグとは別に提げていたビニール袋をテーブルに置いて目的の物を丁寧に取り出す。

 小さな鉢植えから垂れ下がる蔦が爽やかに見える観葉植物、アイビー。手のひらサイズの植木鉢を窓台の端、開閉の邪魔にならない場所に置いて。差し込んだ朝陽が葉を照らす様を見て満足げに頷く。思っていた通りここの窓によく合う。

 がちゃり。鍵が開けられる音が響く。この時間にここに来るのは一人しかいない。


「先生、おはようございます」

「おはよう。……それは?」


 鍵がかかっていたことで私がここにいることを察した彼が棚の影から顔を覗かせ、いつもと違う物が在ることに気付いて指をさした。


「アイビーっていう観葉植物です。花は付けないんですけど、ここには丁度いいかなって」

「これってよく家の外壁とかに茂ってるアレか?」

「? そうなんですか?」

「いや、俺が聞いてるんだが……。まぁいいか。そろそろホームルーム始まるぞ」


 自分の腕時計を確認すれば確かにホームルームが始まる五分前を指していて。私はスクールバッグを持ち直して扉へ向かう。

 扉に手を掛けたところで、はたと先生の方へ振り返る。まだ何かあるのかと言いたげな先生に微笑む。


「ちなみに花言葉は“死んでも離れない”らしいですよ」

「物騒すぎる。まさか知ってて選んだのか」

「だとしたらどうします?」

「お前の場合洒落じゃ済まないから余計に怖ろしいわ」

「うふふ。じゃあ私は教室へ行きますね」


 今度こそ扉を開けてさも今登校してきたような態度で教室へ向かおう。

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