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魔導兇犬録  作者: HasumiChouji
第一章:海にかかる霧
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(6)

 佐賀県唐津市と壱岐の間に浮かぶ、約2㎞×2㎞の「地区」が4つ、ほぼ正方形に接続された人工の「島」。

 それが「東京都千代田区」を僭称する「関東難民」収容所だった。

 もちろん、「関東難民」にも居住や移転の自由は有るが……例えば、「本土」では、今や、ネット右翼が牙を剥く対象は隣国の人間ではなく「関東難民」となっており、デカい地震や台風や大規模なテロや異能力犯罪が有る度に「東京弁っぽいしゃべり方の奴らがコンビニを襲撃してた」だの「避難所で東京弁の連中が女をレ○プしてた」だのと云うデマがSNSに溢れる事になる。

 何が面白いのかさっぱり判らないが「東京弁をしゃべってる奴らが井戸に毒を入れてた」は年に1度は見る羽目になる。

 そもそも、「関東難民」の中でも元・東京在住者は一部に過ぎないし、「東京弁」と呼べるしゃべり方をするのは元・東京在住者の中でも更に一部だろう。

 そして、警察機構が機能破綻しつつ有る御時世にも関わらず性犯罪は減少傾向だ(性犯罪の動機の全てではないにせよ大半は性欲じゃなくて加害欲だって話は本当だったらしく、性犯罪者予備軍の多くは、レ○プしようとした相手が「自分達を返り討ちに出来る異能力者」かも知れない可能性に思い到ったが最後チ○コが勃たなくなるらしい)。

 井戸に毒を云々(うんぬん)に至っては、まぁ、井戸水を使ってる家庭も皆無では無いが、今時の「井戸」の構造と、異能力者がゾロゾロ居る事が判ってる世の中とは言え「何かの物体をテレポーテーションさせる」系の異能力の持ち主は今の所は存在が確認されていないので、そもそも犯行が著しく困難だ。

 だが、どんな正論を言っても……そして、「本土」にも仕事も住む場所も有るとは言え……ある者は「本土」での迫害を恐れ、また、ある者は一時の住処のつもりがズルズルと十年近くも住み続け……東京の名を騙る人工島には、まだ、かなりの数の人間が住み、そして、「本土」よりも「NEO TOKYO」での居住を希望する「関東難民」も少なくないらしい。

「案外……都会だな……」

 俺は「銀座港」と呼ばれる、この人工島の表玄関に来ていた。

 火山灰の下の本物の銀座は千代田区じゃなくて中央区だし、そもそも海の近くじゃねぇ、などとツッコミを入れても、最早仕方ない。

 まだ計画だけの北海道近海に出来る予定の7つ目の「NEO TOKYO」は「サンマの水揚げが多い所の近くだから、通称は『目黒区』にして、秋には『サンマ祭り』で観光客を呼ぼう」などと云う話が持ち上がっているらしいが……落語の「目黒のサンマ」のオチの何が笑いどころなのかは、忘れ去られつつ有るようだ。

「まぁ、ここは治安のいいビジネス街・お役所街ですからね……」

 周囲に見えるのは……十階建て以上、中には二十階建てを超えてそうなビルの群れ。

 それらのビルのデザインも、ここ十年・二十年で経済力を上げた、いわゆる「新先進国」の都会に有りそうな近未来モノの映画やドラマに出て来ても違和感がない洒落たモノだった。

「4つの『東京』の中の数少ない『中立地帯』なんで『自警団』同士でトラブルが有った時は……ここで『手打ち』をやるのが慣例になってるんですよ」

「おいおい……自警団とか言ってるが……まるで……」

「ま、事実上は『ヤクザ』かも知れませんが、よく言うでしょ『白猫でも黒猫でも鼠を獲るのが、いい猫だ』って……。警察でも無能なら一般人の支持は得られないし、法的根拠が薄弱な『自警団』でも治安を維持してくれるなら一般人の支持を得られる」

「で……あの女は、俺に何をさせるつもりだ?」

「おいおい話しますよ。『有楽町』有数の寿司屋の個室を予約してるんで、そこでね」

「へっ? いくらぐらいの店だ?」

 吾朗が答えた1人前の値段は……おい、どうなってる?「自警団」ってのは、そんなに儲かる商売なのか?

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