門番の話、おじさんの思いやり 決心
少年は、次の日に休憩の時間に、門番の人にスキルについて聞いてみた。
すると、門番の人は、「そりゃ、スキルは大事さ。」と大きな手ぶりを添えて話し出した。
「お前がどんなスキルを持っていようと、魔獣を倒すには力がいる。
大剣を軽々と振り回すような純粋な力がないから、多くのものはスキルを頼る。勇者様だって同じさ。
出来れば攻撃がいいな。そうでなければ、自分と違う役割の人を見つけてだな、うまく仲良くなってパーティーに誘えばいい。
ここだけの話だがな、サポート系のスキルは、女の子が多いらしいぞ。
こういうことを、いらんやつに吹き込むと、無様に死に行くだけだが、お前はしっかり者で通っている。
しかし、最終的には自分次第だ。村にいたら、村の人間になっちまう。それは外の世界を知る機会がないということだ。
死にたくないから残るっていうのは律儀なことだが、俺としては、後悔しないように人生を楽しむべきだと思う。
さすがに、俺みたいな中途半端でもうスキルも成熟しちまったもんにはできないことだ。夢があるぜ。
俺から言わせればこのくらいだ。やめるならおとなしく俺の後の門番にでもなってくれ。ここだけの話、暇だけどな。」
門番さんは陽気に笑う。門番という職業についている以上、村の監視、魔獣の排除、村に出入りする人間の確認が主な仕事である。
しかし、そこまで忙しくもなく、見た目は鉄兜と皮鎧で、いざとなったら戦うということが起きるまでは退屈だということは、じっとしていなければいけない、じれったい、と少年は感じた。
そして、冒険者になれば、自由気ままに旅することもできる。こなした依頼の分だけ報酬をもらい、食い扶持を稼ぐ。
安定した収入は自分の力次第、それもおもしろそうだと少年は思った。
門番の人の話したいことは、スキルによっては大変だろうけど、いざというときはほかの冒険者と仲良くして頼ればいいと。
大体の盗伐依頼も、受付の人なら情報を持っているはずで、決して裸一つで向かうわけではない。
能力の過信はよくないが、自分のスキル「勇者」も珍しく、戦闘系の代表と思わせる名前であるため、現段階でたじたじな、ばらつきのあるスキルも、発展する可能性がかなりあるとみていい。
気がかりなのは、お世話になってきた友人の両親である。
小さい時から、仕事仕事という毎日だが、きちんと報酬を出してくれたし、自分の成長に合わせて仕事の量を多くしたり、調整してくれたおかげで、ほどよく気の抜けない労働環境だったのだろう。
明らかに、自分の息子よりも手をかけていただいた、懇意にしてもらった不思議で確かな縁だった。
だから、自分がいきなり独立するという話は、したいにもしづらい問題でもあった。
仕事が終わった少年は、「失礼します。話があります。」といって、友人の両親を呼び出す。
そこからは本当に頼み込みという形で、真摯に向き合って口を開く。
「わざわざ、お呼びしてしまってすいません。話というのは、自分のこれからということです。
実は、自分には、「勇者」というスキルがあります。最初はそれだけで何もできなかった。
しかし、何日か経つと、手から火を出すことができたり、水魔法までできたりと、今では多少の威力の調整もできるようになりました。
ボッ! ボウゥ、シュウゥゥ~。
結論を言えば、冒険者になりたいということですが、一方的にお世話になったうえ、衣食住までとても暖かい時間を過ごせました。
そんなあなたたちがどうして求めるというのならば、自分はそれに応じようとも思います。どうか、おゆるしを。」
少年は、自分のスキルが「勇者」というのを包み隠さず伝えたし、実際に魔法を操れるというのを火を見せて明らかにした。それでも、恩に報いたいということもあるため、判断をゆだねようというのだ。
友人の両親は、頭を下げる少年のもとに近づくと、二人で少年を囲うように抱きしめる。
少年は驚いているが、友人の両親は、少し涙ぐんでいるようだ。そして、口を紡ぐ。
「そうかい、実は私は君に厳しく仕事に充て過ぎたと反省しているんだ。だから、他のことも面識あるくらいで、うちの息子のフルウももっと遊びたくて悶々としていただろうに。
君は優秀だからといろいろやらせてしまった。どうせ、恨みなんてものはない、むしろ、仕事にいち早く携わることができてよかったとでも思っているんだろう?それは普通じゃなかったんだ。
だから、君がスキルを最近使い始めたことがわかって、本当はやりたいことがあるんじゃないかと思ったよ。だから、少し強めに問い詰めてしまったことはすまないと思っている。
冒険者になりたいんだってね?さっきの魔法も見事だった。身の程をわきまえている君がその力の使い方を間違えるとは思わないが、その逆は気を付けてほしい。
最後に、君に名前を授けてもいいかな?テールという名前だが、生前の君の両親がつぶやいていたよ。
尻尾という意味だけど、名前からして長く立派に生きよってところかな。せめて、もう少し君の隣にあの二人がいられたらと思うよ。
最後に、君はもう一人の息子のようなものだ。辛くなったら帰ってきなさい。仕事を用意しておくから。」
そういうと、友人のお父さんは、自室のほうに戻っていった。
お母さんのほうも、「今までフルウをありがとう。明日改めて見送らせてもらうわ。」とおじさんの後を追った。
少年改め、テールは、明日から冒険者になるという確実な未来を胸に目を閉じた。
今朝、早めの見送り、どうやら子供たちが騒がないようにとのことだった。
できるなら、きちんとしたお別れをしておきたかったテールだが、馬車を待たせてはいけない。
フルウと手を取り合って、お前の仕事は俺が継ぐから、いってこいといい、おじさんに、お前なんてまだ初歩もわからんだろとげんこつをもらっていた。
テールはそんなやりとりを見ながら、手を振り、馬車に乗った。
慣れない揺れだが、何か変わるかもしれない変化を求めて、テールは次なる町に向かうのだった。