純粋な羨望、スキルバレる
自然治癒まで発現してしまった少年は、もはや生半可なことを思ったり、口にしたりで、その影響で周りの反応を変えざるを得ないスキルを持ってしまうことに少し恐怖を抱いていた。、
この村に神さまという概念を持っている人はおらず、少年もその例にもれないので、一体全体どうしてこうなったかが分からなかったのだ。
仕事に使えるような能力、それ以上の能力となると、やはり使い勝手とか力の加減とかそういう面倒くさいことが出てくるのだ。
少年は、土魔法とかならとにかく、自然治癒はやりすぎだと思った。
こんなの、常日頃なにかと戦っていたり、傷を負いがちな人に使われるべき魔法なのにと思うが、そもそもスキル「勇者」を誰にも見せたことがないのだ。
少年は思う。戦う能力があるならこの村の門番ができるかもしれないと。
だから、使える魔法はその時適当にごまかしておこうと周りの反応を抑えるための防御線を張ろうと決心した。
その時、村で遊んでいる子供達が見えた。まだ若くて7、8歳くらいの男女である。
これ自体、実によくある風景なのだが、子供が走り回っていて、それはよく考えれば少年にはないことだった。
少年は仕事をしていたので、下手に遊ぶより、働くして色々なことができるようになった。たしかに、周り一般と比べると希少かもしれない。
だったら器用なだけで済まないのかと少年は思うのだが、周りから見れば、幼少期に大人のやってることを理解して行動に移すことができるのはそうできるものはいない。
そして、スキルをもらわなかったと周りが聞いた時には、少年に隠れて、あの子が授からないとなれば、スキルというものはどういうものなのかと村の大人たち、信者も含めて、驚かせるものであった。
それを露知らず、スキルの暴発まがいだと困っていると、遊んでいた子供たちの中の女の子がどうやら転んでしまったらしい。
女の子は今にも泣きそうだ。周りの子も、「大丈夫?ねぇ、大丈夫?」と声を掛けているが、その血は傷から滴るばかり。
少年は、あのままでは痛々しいなと思い、自分の水魔法を使うということにきめた。
この時には、子供だから面白いという解釈をして終わりだと少年は思って水魔法をかけることにした。
少年は女の子に、「足見せて。」と言って足を見せてもらう。皮が剥けている。
少年は水魔法を唱えて、足に当てる。女の子は、「ちべたっ、」といってイヤイヤをするのだが、血が止まると言ったら大人しくしてくれた。
見事に血が止まると、子供達からお礼を言われた。その後、一緒に遊ぼうと言われた。どうやら水遊びがしたくなったようだ。
本当はもう家に帰って寝たかった。しかし、子供達のうるうるした泣きそうな表情を見てしまった。
少年は、そんな子供たちの縋る視線に耐えきれず、水魔法で子供達を濡らし、水を生み出し、仕方なく遊ぶことにした。
そんなことをしていたので、子供たちが、「お兄ちゃんと水遊びしていた。」というのを親たちに言ったら、その親たちは、やっぱりあったんじゃないかと合致し、住み込みである友人宅へと情報が飛来してしまった。
そして、今は日が暮れて暗い夜の時間、お説教タイムというべき鋭い視線が少年の目の前にあった。
友人の父親はどうしてなかったなんて嘘をついたんだ?と聞く。これは聞かれると思ってはいたが、いざ聞かれると答えづらいものでもある。
少年は、「前は水が小指からしか出なくて恥ずかしかったんだ。」と恥ずかしさを理由にこれを退けた。
すると、「そうか。」と首を傾げる父親。
まだ、何かを聞きたがっている様子だったが、次の質問に移ったようだ。
次は、どうして水遊びをするくらいの水魔法が使えるんだと質問のニュアンスが変わってきた。
これに少年は、「隠れて毎日練習してた。世話をするときにも掃除をするときにも少しづつ使っていた。」と話すとこれは受け入れられたようだ。
この後も水魔法のコツなどを聞かれ、確信に迫る疑惑はなかったようで少年は安堵した。
父親がメインで質問をしてきたが、母親は単純に魔法の危険性を考えて心配してくれたし、友達はただのいいなーという嫉妬をされただけなので、今度水遊びでもさせてあげようと思った。
しかし、隠しただけで、この先解決するとも思えないスキルの数々。
ここは、スキルが強くなったということで、魔物と戦えるくらいのうちの村の門番に話をしてみようと少年は明日の予定を立てるのだった。