結果、迷う
少年はいよいよ自分の番というふうに両手をほっぺにパチンと当て、気合いを込めた。
周りの幼馴染や知り合いは、スキルがなかった人は慰め合い、あった人は喜びの舞をしている。
これだけの行事なので、誰かがスキルを授かっただけでもみんなで嬉しがるのだ。
少年も自分はいいやと言いながら実は期待している。年頃のおもちゃを欲しがる子供のようだ。
鼻息は荒くないけれども、生活を楽にしたいくらいの魔法が欲しいなと欲が出るのも仕方がないのだ。そしていざ自分の番である。
神者は「全てを見通しますね?」と問いかけてきた。
これは神者の「鑑定」の段階で、この人の「鑑定」は相手の許諾を通して、その鮮明度をあげるものであるということだ。
少年もそれに許諾する意を示した。
その瞬間目の前に半透明のようなボードが現れ、そこに自分のステータスが書いてあることが分かった。
それは上から少年の生年月日や本人が強く認識していない感情の揺れ動きから、少年の嗜好について書かれていたりと少年は少し恥ずかしさを覚えた。
そしてついに「skill」すなわちスキルの欄が出る。
それを見た少年はスキルがあるとあった喜びから一転、訝しげな表情になった。、そこにはこう書いてあった。
「勇者」と。
少年は「勇者」という記憶を探った。
町のリーダーから聞いた称号としての「勇者」、これは確かに納得できる。
「勇者」の称号の持ち主は「勇者」の名のごとく活躍を見せている。
そもそも自分たちのような町に篭りただただ安全な生活をしているのではなく、魔物に自分から立ち向かって勇み出る者のことであるはずだと。
少年は察した。「勇者」なんて持っていたら確実に面倒くさい話になる。」と。
少年は小さいながらに労働をして、時にリーダーの取引の場に顔を出す機会があった。
その際に王都の取引人が渋い顔をして話が進まなかったことを眠くなりながらも覚えていたのだ。
幸い、神者はおじいさんだったのでスキルまでは見えなかったようで、何かありますかと聞いてきた。
少年は「勇者」という普通ありえない文字で理解していないとその勘違いを利用することにした。
「な、なぁぁな何も無かったよ。ああぁ、ざんねんだなー。」
と声どころか表情までも上擦るのは仕方のないことであった。
神者のおじいさんはそうですかと言って、まだ残っている子供に「鑑定」をし始めた。
そして、少年は近づいて聞いてくる幼馴染たちに嘘をついた。
「何も無かったよ。そっちは何かあったの?」
逆に何気なく聞き返した。
すると子供達は
「私は『料理』だって。嬉しかった。」
「俺は『俊足』だぜ。足が速くなるんだー。」
そんな答えに少年は「ああ」とか「うん」とか曖昧な返事で答えた。
ちなみにそのスキルを覚えた幼馴染は料理を普段からしていたり、よく走ったりしていたなとスキルにつながる元手のようなものがあった。
「じゃあ、なんで僕は『勇者』なんだろう?」
少年は労働しかしてこなかったうえ、生きる糧としてやっていたようなものだった。
知り合いの親にも「そうか、残念だったな。」と結局誤魔化すことしかできなかったのであった。
一体自分はどうしたのだろう。
こんなスキルは荷が重い。
少年が答えを下せなかったのは、「勇者」のスキルについて詳しい説明欄がなかったからなのだ。
何がどうゆう効果なのか、そんな意味のわからないスキルは少年にはとても断捨離し難い事案なのだ。
「分かんないよ、こんなの、もう寝よう。」
答えは出ず、明日の労働に精を出そうと簡易なベッドにもぐりこむのであった。