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一章 忍者訓練所への旅立ち


一章 忍者訓練所への旅立ち


 黒か白かも判断のつかない空模様を、アメリカのとある児童養護施設の窓から、一人の少年が眺めていた。少年は首からぶら下げた動物の牙に似ている形状の青い石を無表情のまま弄っている。


少年の名前は、アルス・ウォーレン。体系は標準的で、髪は栗毛、瞳の色はブルー。どこにでもいる普通の少年だ。ただ他人と少しだけ違う能力を二つ持っていて、その能力のせいで、幼い頃から、気味の悪い子供と言われてきた。おまけに他人とは少し違った奇抜な発想や発言のせいで、変人としても見られ、友達は一人もできなかった。


一本結びにした長い黒髪のとても太った女性が孤児院の台所で、ケーキを作っている。ケーキを作っている女性の名前は、サラ・アンダーソン。この孤児院の施設で働く女性だ。


「右肩に何か乗っかっているよ。サラ」

僕はサラの背後から、サラに言った。


僕に背後から呼びかけられたサラは、いきなり声をかけられたせいで驚き、作っていたケーキを驚いた拍子に床に落としてしまった。


「音を立てずに背後に移動しないでって、いつも言ってるでしょ?どうして言うことが聞けないの?」

サラは怒りながら、床に落ちたケーキを拾い、ごみ箱に捨てながら言った。


「ごめんなさい。でも、驚かすつもりはなかったんだよ」

僕はサラを驚かすために、わざと音を立てずに移動したのではない。音を立てずに気配を消して、移動することが癖になっているのだ。これは僕が持っている二つの能力の内の一つで、もう一つが人には見えないお化けのようなものが見える能力だ。


「右肩に何がいるの?何もいないじゃない」

サラは自分の右肩を見ながら言った。サラには見えていないが、確かにサラの右肩には何かお化けのような半透明の生物がいて、小さい角に赤い肌、長い舌を出して、サラの顔を舐めようとしていた。


「本当にいるんだよ。長い舌を出したお化けがサラの顔を舐めようとしているんだ」

僕は必死にサラに向かって、お化けのような生物が長い舌を出していることを伝えるが、サラは僕の言うことを聞くつもりはなかった。


「どうしてあなたはいつもそうやって、気味の悪い嘘ばかりをつくの?今日は四月五日。

あなたの十三歳の誕生日でしょ?エイプリルフールはとっくのとうに終わっているのよ?」


「嘘じゃないんだ。本当なんだよ、本当にお化けがいるんだよ」

僕は必死にサラに向かって言うが、サラは呆れたような表情でケーキを作り直す動作を始めた。


「とにかくお化けがいるのは分かったから、部屋で待っていなさい。また一からケーキを作らないといけないんだから」

サラがそう言って、スポンジケーキを作ろうとすると、サラの右肩にいる半透明のお化けのような生物は、僕の顔を見て、馬鹿にしたような顔で笑い、その場から姿を消した。


僕は仕方なく部屋にある椅子に座って、ケーキができ上がるまで、待つことにした。自分の発言が信じられないのは辛いことだが、一般的に言えば、おかしなことを言っているのは、自分なのだから、自分の発言が信じられないのは仕方がないことなのだ。僕が気を落としつつ、ケーキのでき上がりを待っていると、突然、施設の玄関を叩く音が聞こえた。


時計の針は午後二時を指していて、この時間に施設を訪ねる人間はあまりいない。サラがキッチンから玄関に向かって、来訪者の対応をしに行った。僕も誰が施設に来たのか気になり、玄関に向かう。玄関のドアを開けたサラと男性が話している。


サラ越しに見える男性は、黒いバンダナを顔の上半分に巻いていて、黒いスーツ姿の男性だ。男性は目の見えない状態だが、杖は持っておらず、サラの目の前で何か話している。男性とサラが一通り話し終えると、サラは後ろを振り返り、僕の姿を見た。サラがなぜこちらを見てきたのか、疑問に思った僕は、サラの元に駆けよる。すると、黒いバンダナを顔に巻いた男性が僕に向かって話しかけてきた。


「初めまして、アルス・ウォーレン君。私の名前は、山田(やまだ) 地太郎(ちたろう)。君に用件があって、ここに来た」


山田さんは僕のいる位置を正確に捉え、言葉を発した。まるで目が見えているようだった。いや、もしかしたら、黒いバンダナを巻いているが、バンダナに小さな穴が開いていて、本当は目が見えているのかもしれない。そんなことを考えていると、サラが僕の傍に近づいてきた。


「この日本人男性が、あなたのことを知っていて、養子にしたいと申し出ているんだけど、アルスはこの人のこと知ってる?」

サラの問いかけに、僕は首を横に振った。僕は顔の半分をバンダナで隠すような男に見覚えはないし、成人の日本人男性と知り合う機会もなかった。


「あの・・・・・・この子も貴方のことを知らないと言っていますし、何よりも養子にする場合、正式な手続きを取っていただかないと困るので、本日はお引き取り願えますか?」

サラは至って普通の対応をして、山田さんに帰ってもらうことにした。


「いや、私は帰るつもりはないし、彼を引き取らせてもらうよ」

山田さんはそう言うと、右手と左手を同時に動かして、こう言った。


「催眠心理の術!」

山田さんがそう言うと、山田さんの両手から光が発生し、光を浴びたサラはその場で硬直した。だが、その硬直もすぐに解けて、サラは僕の元に近づく。


「アルス、荷物をまとめて、山田さんについて行きなさい」

サラは明らかに正気ではない様子で、僕に向かって言った。


「ちょっと、待ってよ!!まだ僕はこの人の養子になるなんて、決めてもいないんだよ?

それなのにいきなり出て行けなんて、おかしいよ!!」

僕は必死に施設からの退所を避けようと、山田さんの養子になることを拒絶するも、サラの意志は固く、まるで操り人形のように山田と名乗る男の養子になることを勧めるだけだった。


「あなたのためを思って言ってるんだから、言うことを聞きなさい」

サラは僕の瞳を一点に見つめ、真剣な面持ちで言った。僕はサラを説得するのは無理だと思い、山田と言う男性に話しかけることにした。


「あの・・・・・・何で僕を養子にしたいんですか?」

僕がそう尋ねるが、山田さんは僕の質問に答えようとはしなかった。


「荷物を準備しないなら、私が準備をするからね」

サラはそう言って、施設内の僕の私物のある場所に向かった。僕はサラを引き留めるため、サラの元に向かおうとすると、山田さんが僕に声をかけた。


「両親のことを知りたくはないか?」

僕は山田さんのこの言葉を聞き逃さなかった。


「僕の両親のことを知っているの?」

僕の問いに、山田さんは黙って頷くだけだった。僕が呆気にとられていると、施設の奥から、僕の私物をリュックに詰めて持ったサラがやってきた。


「これからは山田さんのお世話になるのよ。さあ、行きなさい」

サラは僕にリュックを渡すと、僕を施設の外まで押し出した。僕が施設から追い出されるのと同時に、山田さんも外に出た。


「それじゃあ、行こうか?私に付いて来てくれ」

山田さんはそう言うと、施設から離れるように歩き始めた。


僕は正直山田さんが怖くて怪しい男だと考え、この男について行くのは危険だと思った。だが、両親のことを知っているというのが気になったので、僕は山田さんについて行くことにした。おかしなことをされる可能性もあるので、山田さんと距離を取り、注意深く警戒しながら、僕は歩く。


「私を警戒しているのかな?」

僕の目の前を歩く山田さんは、こちらを振り返らずに言った。


「まあ・・・・・・初めて会った人で、サラに対して何か変なことをしたし・・・・・。正直に言えば、警戒しています」

僕がそう言うと、山田さんは歩みを止めて、上体を動かさず後ろを振り返り、微笑んだ。


「自分が怪しいと思った人間を警戒するのは良いことだ」

山田さんはそう言うと、再び歩み始めた。自分が警戒されているのに、なぜ警戒することが良いことだと言ったのかは理解できなかったが、今は余計なことを考えないで、山田さんについて行くことにだけ集中した。山田さんから距離を取りつつ歩いていると、山田さんは人気のない通りに移動した。


警戒している相手と一緒に人気のない場所に行くのは、危険ではあるが、相手は視力が弱そうな男だし、逃げようと思えば逃げられる。僕は山田さんからもう少し距離を開けることにした。僕が距離を開け始めようとした時、山田さんが僕の方向に振り向き、立ち止まった。


「ここなら人もいないし、話してもよさそうだ」

山田さんはそう言うと、スーツのポケットから丸い石を取り出した。


「両親のことを話してくれるんですか?」

僕は山田さんが自分の両親について話してくれるかと思い質問した。


「君の両親についても話をするが、それよりも先に説明しなくてはいけないことがある。先ず、私は君を養子に取るつもりはない」

山田さんのこの発言に僕は驚かなかった。なんとなく自分を養子にするために、施設から連れ出したのではないと思っていたからだ。


「じゃあ、なぜ僕を施設から連れ出したんですか?」


「それは君が忍者訓練所に入るかどうか、聞きたかったからだ」


「忍者訓練所?忍者になれる学校ってこと?」


「ああ、その通りだ。君の両親が通っていた訓練所で、名前を伊甲忍者訓練所と言う」

山田さんのこの言葉に、僕は驚きを隠せなかった。両親が忍者だったことが僕にとって衝撃的だったからだ。それと同時に疑問が生まれ、山田さんに質問することにした。


「それじゃあ、僕の両親は忍者で、その二人から生まれた僕は忍者になる資格があるってこと?」


「そうだ。君には忍者訓練所に入所できる資格がある。生まれた時から、音を立てずに移動できたり、人には見えない変な生き物が見えたりしなかったか?あれらは妖怪と言って、人に悪さをしたりする悪霊のようなものだ。忍者の血が流れる人間は生まれた時から、そういった能力を持っているんだ」

確かに山田さんの言う通り、僕は音を立てずに移動したり、他人には見えない変な生き物が見えたりする。生まれた時から悩みの種だった自分の能力が、まさか忍者になれる人間の特徴だったなんて、思いもしなかった。


「それで忍者訓練所に入所してもらおうと思うんだが、はっきり言って忍者になるための訓練は辛く厳しい。もしも君が忍者になりたくないと言うのなら、また施設に戻って、あの女性にかけた忍術を解き、施設での暮らしを続けてもらうことになるんだが、どうする?」

山田さんの質問に僕は少し考えた。両親が通っていた訓練所に自分が通う。もしかしたら、両親のことを知ることができるかもしれないし、忍者にも興味がある。だが、自分の能力にイマイチ自信を持てなかった。僕は勉強も運動も他人よりは秀でていないし、できることと言えば、奇抜な発想ができるぐらいだ。そんな自分が訓練所で生活していけるのか不安でもあった。


「忍者の世界に興味はありますけど、僕は勉強も運動も得意じゃないし、これと言った才能は持っていないんです。だから、訓練所に行っても、立派な忍者にはなれないかもしれない」


「いや、君には才能がある。才能と言うものは、諸刃の剣だ。才能に気付き、自身の適正を理解した上で、行動すれば、それを活かすことができる。だが、自分の才能に気付かないまま、生活をしていても、その人生は凡人のままだ。いや、下手をすれば、凡人以下の生活を送りながら、生涯を終えることになる可能性もある。君の身体に流れる忍者の血は、それ自体が特別な才能なのだ。だから、自分に自信を持っていいんだ」

山田さんの言葉を聞き、自分の今までの人生を軽く振り返る。確かに自分の能力に自信を持てなかったのは、自分の生きていく場所に問題があったのかもしれない。そう考えると、忍者として生きていくことで、自分の人生の中で成功体験ができるのかもしれない。自分を変えるきっかけと両親のことを知るための情報は目の前にある。僕は行動することを決めた。


「分かりました。自分には忍者として、才能があると考え、忍者訓練所に入所します。父さんと母さんが通っていた訓練所がどんな訓練所か知りたいし、一流の忍者になりたいです」

僕がそう言うと、山田さんは嬉しそうに微笑んだ。


「そう言ってくれると嬉しいよ。それじゃあ改めて、自己紹介をさせてもらおう。私の名前は、藤村(ふじむら) 啓蔵(けいぞう)。伊甲忍者訓練所で訓練生達に指導をする教忍(教官忍者)をしている」


「訓練所の先生をしているんだ。なぜ、偽名を使ったんですか?」


「忍者には裏ネームと言って、複数の名前を持つ、習性があるんだ。本名で活動すると色々と個人情報を嗅ぎつけられる可能性や任務を行う上で支障をきたす場合があるからね」


「なるほど。じゃあ、今からは、藤村先生と呼ばせてもらいますね」


「ああ、そうしてくれ。説明も終わったことだし、忍者訓練所に移動する。忍者訓練所に行くために、先ずは日本に移動するが、問題はあるかね?」


「大丈夫、すぐに移動できます。ただ日本に行くってことは、色々とお金がかかりますよね?僕はお金も持ってないし、日本語も話せない」


「お金に関しては、心配する必要はない。忍者訓練所に入所する際に、お金はかからないし、食費も家賃も無料だ。それに忍者訓練所の公用語は英語なので、言語に関しては心配する必要はない。後、移動に交通費はかからない。この忍者石を使えば、一瞬で行けるからな」

藤村先生は手に持っている丸い石を僕に見せながら言った。


「その石でどうやって日本に行くんですか?」


「この石の使い方を君に見せよう。私の衣服を掴んでくれ」

僕は藤村先生に言われた通り、藤村先生の衣服を掴んだ。藤村先生は僕が衣服を掴むのを確認すると、再び右手と左手を動かし、言葉を発した。


「転送身の術!」

藤村先生が言葉を発すると同時に、二人の身体は暗闇に包まれ、すぐに光り輝く世界が広がり、その後、光が消え、僕は見知らぬ土地に移動していた。


「ここはどこですか?」

僕は藤村先生の衣服を掴んだまま言った。


「ここは日本の東京都足立区。目の前にあるのは、炎天寺と言う場所だ」

藤村先生が説明した炎天寺と言う場所を見ると、文字の書かれた黒い石と瓦屋根と小さな門があった。


「さあ、行こうか」

藤村先生は門を通過し、先に進み始めた。僕は藤村先生の後を追い、門を通ると、その先には小さな神社が存在していた。遠くの方には、男性の像があり、左手側には日本式の墓が大量にある。


「これは全部墓ですか?」


「その通りだ。墓の下には、死んだ人間の骨が器に入った状態で埋まっている。だから、その場所には立ち入ってはいけないよ」

僕は初めて見る日本式の墓に少し興味がわいたが、藤村先生が先に歩くので、すぐに藤村先生の後を追う。だが、藤村先生は突然歩くのを止めて、右手側にある小さな池の前を見ていた。藤村先生が見ている先には、カエルの石像があった。カエルの石像は池の周りと、池の中央にあって、池の中央にあるカエルの石像は二匹で戦っているように見える。


「あのカエルの石像は戦っているように見えますね」


「あれは相撲をしているんだ」


「相撲?」


「日本の古いスポーツのようなものだと理解してくれればいいよ。ここに来たのはあの相撲をしているカエルの石像のために来たんだ」


「あのカエルの石像を持ち帰るんですか?」


「いや、持ち帰ったりなんかしないよ。あのカエルの石像は、忍者訓練所への入口になっているんだ」


「カエルの石像が忍者訓練所の入口?」


「日本には決まった場所にカエルの石像が存在していて、昔からカエルの石像は忍者の世界に行くための入口になっていたんだ。もちろん忍者ではない普通の日本人はこの事実を知らない。このことを知っているのは、我々のような忍者の血を引く者のみが知っていることなんだ」


「そうなんだ。それじゃあ、このカエルの石像を使って、忍者訓練所に行くんですね?」


「ああ、その通りだ。だから忍者訓練所に移動するために、もう一度私の衣服を掴んでくれ」

僕が藤村先生の指示した通りに藤村先生の衣服を掴むと、藤村先生はアメリカから日本に移動した時と同様に右手と左手を動かし、言葉を発した。


「転送身の術!」

再び辺りが暗闇に覆われ、光り輝く世界が広がると、光は消えて、見知らぬ場所に移動していた。周りには、ハクトウワシ、カザノワシ、ジャガーの石像が数体ずつ、カエルの石像が大量に設置してある部屋に移動していた。


「ようこそ、忍者の世界へ」

藤村先生は笑顔でそう言った。








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