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おっさんの優秀な護衛と裏切りの代償

「キーーーーーー!」

 ペルが危険を察知しけたたましい警戒音を発する。


「2人とも敵です。荷物を持って出る準備をしてください!」


(リィス。師匠を連れて部屋へ)


 リィスに念思で指示をだしすぐに師匠をこちらの部屋に呼ぶ。

 この部屋は丁度馬車の真上に位置しており、脱出路は確保できている。


(わかったよー)


「ルファ!モルさんを起こして連れてきて!」


 そしてまだ廊下にいるルファに届くよう声を上げる。


 すぐにトゥールさん達へ避難の用意を指示し、部屋の灯りを点ける。

 電気を消しての曝露話しで、外から見れば寝静まったようにしかみえなかったのだろう。

 実際誰も寝ていなかったことで、布団から飛び出した2人はすぐに荷物を担ぎ窓際へと移動した。


 明るくなった室内で、ペルの瞳がスッと小さくなるがその羽を大きく動かし警戒を強める。


「何事じゃ」


 師匠がリィスを持ち、部屋へと入ってきたと同時だった。


「ぎゃーーー!」


 馬車置きから悲鳴が響いた。おそらく馬車に待機していたキュリが賊を退けたのでしょう。

 まぁ狙うならば移動手段を潰すのは当然ですからね。


「師匠。侵入者です。下の階には既に賊が入ってきているので、ここから馬車の屋根へと飛び移ります」


「そうか。どこかで情報が漏れたんじゃな。わかった。」


 さすがは師匠。

 すぐに動けるように準備して休んでいたようで、リィスに念思を送り数十秒も掛からずに部屋へと来てくれました。


「タクト様!モルさんがいません。荷物も何も…部屋も入った形跡はありません……おそらくは」


 おそらくはモルさんが密告した。


 そう続けようとしたのだろう。操車の師匠として尊敬していた男に裏切られ、ルファは下唇を噛み締め怒りを堪えていた。


「ルファ。それはまだ分かりません。取り合えずモルさんのことは後回しでいいでしょう。ここから馬車に飛び移った後の操車はお任せします」


 ただ本当に情報を売ったのなら最低の男ですね。ルファの操車の師匠としての授業料としては少々高すぎますね。皆を危険に晒し、ルファを悲しませた報いは必ず受けてもらいましょうか。


 指示を出すと、ルファは窓から馬車へと飛び乗る。今日に限っては警戒の為、馬車に馬は繋ぎっぱなしにしてあり、すぐにでも出発出来る。


 名前 :ルファ

 年齢 :17

 スキル :多尾Lv3 狐火Lv2 幻覚魔法Lv3 料理Lv1 聴覚強化Lv3 操車Lv1 ステータスカード


 事前に調べたルファのステータスにはしっかりと『操車』のスキルが刻まれていた。

 既にルファは一々考えることなく、慣れた手つきで、手際良く馬車の出発準備を整えることが出来るようになっていた。


 複数の足音が1階から階段を駆け上がってくる。

 どうやら気配的に宿の人たちには一切手出しせず、こちらに向かっている。


 良かった。宿に迷惑をかけてしまいしたが、主人は無事のようですね。


バンッという強引に開けられた音が響き、黒ずくめの男達が部屋へと飛び込み、ナイフを真っ直ぐに突き出す。


「馬鹿正直に突っ込めばいいと言うわけではないでしょうに!」


すぐに師匠を背中側に回し、剛棒を先頭の男に向かい、払いその足を止める。師匠の魔法では室内を破壊し尽くしてしまう。


足の止まった先頭の男に向かい、一歩踏み込み一突きにすると、後方の2人を巻き込み壁へと激突した。


壁の修理代は門の衛兵にでも渡しておきましょう……。


「行きますよ!」


3人の男達が立ち上がる前に、脱出するため剛棒を背負い師匠に手を回す。


「のわ!ななどどどこを触って……ひょわ!」


 ルファに続き、トゥールさん達が馬車へ移ったのを確認し、最後に残った師匠を横抱き……所謂お姫様抱っこで窓から飛び降りる。


 一瞬ふわりと内臓が浮くような降下独特の感覚を味わい、師匠がぎゅっと目を固く閉じるが、口からは小さな悲鳴が漏れた。


 そんな小さな幼女姿の師匠は驚くほど軽く、庇護欲を掻き立てられるには十分な姿ではありますが、実際は私より強い魔導師ですからね。変な事を言えばまた大目玉をくらうでしょう。


「出してください!」


 一瞬だけ師匠とエアタイムを堪能し、ルファに出すように指示を出す。


「はい!」


 全員が馬車に乗ったタイミングで、ルファが指示と同時に馬に鞭を入れた。


 宿に入ってきた賊以外は既にキュリの闇魔法によって意識を刈られ、道端に数人が伏している。


 同時に部屋へと駆け込んだ賊達が、窓から身を乗り出し場所を見送っていた。


「よく馬車を守ってくれたね。有難うキュリ」


「問題 ない」


 そして、馬車を守った礼を言うとそのアンデット特有の無表情な顔を少し柔らかくし、微笑んだ。


 国境側の門に向かい馬車を走らせる。

 宿から離れさえすれば、街中で堂々と事を起こすような事は出来ないでしょう。


 人通りの全くない、夜中の大通りを馬車で進む。


「キィ?」


 門へと向かう途中。店と店の間の路地にペルが一鳴きし飛び立つと、路地の陰へと消える。


「うわっ!やめっ」


 そしてその路地から転がるように通りに出てきたのは、御者のモルさんだった。

 ペルにズボンを噛まれ引きずられるようにして、こちらへと連れて来られると、待っていた私の足元に投げ捨てられた。


「ぐっ……。あっ。おっ。おや。皆さんこんな夜更けに出発なんて聞いておりませんでしたがどうかなさったので?」


 冷や汗をかきながらもとぼける様にモルさんは御者をしているルファと、私に何度も顔を向ける。

 この反応……アウトですね。予定もなく自分を置いて出発している時点でおかしいでしょうに。


「モルさんこそどうしたんです?そんな路地裏から」


「いやぁ。ビックリしましたよ。少し呑んで帰ろうとしたらいきなりバットに襲われましてね。いやタクトさんの従魔でしたか。驚かさないでくださいよ」


 額に汗かくその顔からは、酒を飲んだと言う言葉とは裏腹に徐々に生気が失われ、蒼みが増していく。


「それは失礼しました。ところでこんな警戒しているのにお酒……ですか?」


「いや。それは…全力…そう全力で馬車を走らせたんで興奮して寝付けなかったもんでね。少し酒を入れて寝ようかと!」


「そうですか……。リィス!」


(はーい)


 これ以上の茶番に付き合うのも限界ですね。


 モルの足を包みこむように、リィスがアメーバ状に広がっていく。


「ひぃぃ。ちょっと。ちょっと待ってくださいよ!私が何をしたんで!」


 盗賊達への拷問風景も見ていたモルの顔から辛うじて残っていた血の気が一気になくなり、その青白い顔はこの先自分が受ける事になる凄惨な未来を予想している顔だった。


「任せるのじゃ」


 師匠が風魔法を使い音を散らす。

 これで騒がれても問題ないでしょう。


 結局リィスが足を包み終え一度ジュっと軽く皮膚の表面を少し溶かすと、その恐怖と痛みに負け堰を切るように喋り始めたモルは、多額の借金をしていた事を認め、情報料をその返済に充てるためガルバを追っていた裏組織に接触し、トゥールさん達の情報を売っていた。


 ちなみに此処に居たのは、成功の暁には追加で金が支払われる事になっており、賊との仲介役を待っていたらしい。


 売っていたのは、トゥールさん達の宿の部屋の位置と護衛である私達の人数や分かるだけの戦力。ただ戦力に関しては、街へ入る前に一度送還し、あとは宿で休むだけと伝えていた事により、リィス達はいないと判断し私とルファ、師匠のみが護衛だと情報を渡していた。実際には別れた後護衛の為馬車に再度召喚したのだが、それを彼が知ることはなかったのだろう。


 怯えるモルの背中に、師匠が魔法陣を書き込む。見た事の無い魔法陣が背中で一度ひかる。


「よし。これで完了じゃ。これはある種の契約魔法じゃな。秘密厳守。ワシらに関わる情報は激痛と共に話せなくなる。通常は御者はギルドで秘密厳守の契約をしているがな。どうやらこの男はしておらんかったようじゃ。まったくギルドの仕事もいい加減なものじゃ」


 結局ギルドでの契約以上の激痛という制限のかかる魔法陣を書き込まれ、そのまま縛り上げたモルを馬車に乗せ、門へと向かう。


 門の衛兵に縛り上げたモルを引き渡し、事情を説明するとすぐに宿に数人が向かった。


「すまない。事情を聞きたいので、街に残ってはもらえないだろうか。勿論護衛はこちらでつけさせてもらう。宿も別の所を用意しよう」


 街中で堂々と人攫いが出た事に、事情を聞きたいと街に残るよう言われる。

 しかし、そこは師匠の肩書きがものを言った。


「これでも先に進めんかのう」


 師匠が何かエンブレムのような物を見せると、衛兵達の顔付きが変わる。


「これは……。失礼致しました。今回の件はこちらで処理をしておきます。道中お気を付けて」


「すまんな」


 その場にいた衛兵達が一斉に頭を一度下げ、門へと駆け寄る。

 既に夜も更け、門は固く閉ざされている。もちろんこの時間に門を開け通行を許可する事は通常では有り得ない。


 しかし、それをさせるだけの効力があのエンブレムにはあるのでしょう。


 門が開き馬車が通過する。


 そして続く街道の先には、国境の門から漏れる灯りが視線の先を照らしていた。



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