おっさんの羞恥プレーと悪戯心
国王お膝元のギルドとは違い、王城とは離れた街のギルドは、想像していたような活気はなく、新人というよりはC〜Dの中堅どころの軽装備の冒険者が多くいるような印象だった。
ギルドの受付嬢からの久々の微妙な反応に、苦笑いで応える。
この街の場所柄、街を通過し、他の街へと行く行商人の護衛依頼が多いのが特徴らしく、受付嬢自身もそこまで冒険者達に興味を持ってはいなかったのが幸いした。
ちらりとこちらを確認し、カードをもう一度確認する。
そしてそこはプロ。前とは違い一瞬見せた顔をすぐに引き締めると手続きを進めた。
「では、こちらにステータスカードを」
出てきたカードリーダーのような石版に、カードをタッチする。この手続きによって盗賊の賞金がギルドへと届けられると、自動で入金されるようになるらしい。
そして冒険者タグに、盗賊の討伐依頼達成の証としていつものように判子のようなものを押され、手続きは完了した。
ギルドからの盗賊討伐依頼の報酬は30万トール。嬉しい臨時収入となった。
これが売上達成ボーナスをもらう時の感覚ですかね。事務職では味わえない胸が踊るような感覚です。
手続きを終え宿へと向かう。途中様々な屋台の美味しそうな匂いにつられながら、何とか誘惑に耐える。
時間があればルファと回りたいところですが、その時間はなさそうですね。
トゥールさん達の護衛が加わり、緊張感の増した道中。
ハルフーレに着いたらルファとゆっくりした時間を過ごそうと心に決め、まっすぐ宿へと向かった。
「タクトです」
扉をノックすると、ルファが扉を開ける。
2階建の宿の4部屋全てを貸切ってあり、今はそのうちの1室にモルさん以外が集まっていた。
「おや。早かったじゃないか。またギルドで一悶着あると思ってたんだけどねぇ」
くっくく。と楽しそうに視線を向ける師匠はこの輝度で盗賊は討伐できないと揉めると予想していたようで、予想が外れたと笑っていた。
「しかしまだ信じられねぇな。タクトの輝度が43だなんて」
実際の所、護衛をするにあたり、トゥールさん達には馬車の中で自分のステータスカードの輝度を見せていた。
興味津々といった感じのトゥーレさんにステータスカードの輝度を表示してみせると、驚きの表情を見せながら右耳をピンっと弾いた。
しかしその表情には全く蔑むような表情はなく、むしろその輝度で盗賊達を打ち倒した事への賛辞と好奇心が浮かんでいた。
ドワーフは探究心、ハーフリンクは好奇心、そしてエルフは信仰心とそれぞれの種族の特徴が掲げられている本を師匠宅で読んだが、トゥールさんとトゥーレさんの2人のエルフの目には、おそらくはハーフリンクにも負けない好奇心が渦巻いていた。
人とは違い、エルフには自然と魔力の流れが視えている。
その魔力の量と流れで、輝度はあまり参考にならないと最初から思っていたらしく、低い事は気にしていなかったが、異世界からの転生者と知らないトゥーレさんは、これだけの魔力があれば輝度にも影響するはずと、低くなった原因そのものに頭を傾げていた。
「さて、お二方。そろそろお休みなられては?救助されたばかり、心身に疲労はたまっております」
話しが途切れることなく夜も更け日付が変わると、明日の出発の為そろそろ休みを取る事を師匠が提案する。
確かに今日、あの状況から救助された2人は解放された喜びで疲れを感じていないようだが、今までのストレスは想像を絶するだろう。
それを紛らわすように会話を弾ませ、まだ話し足りないといった表情の2人が、渋々了承すると師匠は部屋へと戻った。
私ですか?私はトゥールさんからの提案で同じ部屋で2人の護衛です。御者用の小さな部屋にモルさん。そしてルファと師匠がそれぞれの部屋があてがわれていた。
「で?ルファちゃんとタクトの運命の出会いってやつはわかったんだけどよ。俺はその勇者様が気になるんだよ。よくルファちゃんを守れたなその状況で」
「はい。あの時のタクト様は最高にカッコ良かったです。勇者の手首をバッて掴んで……
師匠が出ていくと、トゥーレさんが部屋の灯りを消す。まだまだ寝かせない!そう語る真剣な表情に負け、何故か話は灯りの消えた部屋の中、私とルファの出会いの話しとなっていた。
あぁルファさん?そこまで赤裸々に話す必要はないんじゃないのかな?
異世界云々など、話せない部分を上手くぼかしながら、ルファが嬉々として語る出会いとこれまでの軌跡は、羞恥心で死んでもおかしくない喜劇に溢れていた。
そろそろ耐えきれなくなり、ルファを止め部屋へと戻り休むように伝える。勿論ルファの目には一緒に……と書いてあったが、そこは護衛の必要性となぜかトゥーレさんを一目見ると、トゥーレさんがいるから安心ですね。と呟き、ようやく納得しゆっくりとした足取りで部屋へと戻っていった。
次のブラッシングはいつもの倍くらい気合いを入れてやらないとですね。
「それではゆっくりとお休みください。何かあればペルが反応しますので」
実は宿に戻ると同時に馬車にはキュリ、師匠の部屋にリィス、そしてこの部屋にはペルを召喚していた。
「そうか。ペル殿は優秀なのだな。よろしく頼む」
「キー!」
トゥールさんから頭を下げられたペルが、嬉々として右の羽を上げる。夜行性のペルはこれからが本領を発揮する。頼られるのが嬉しくてしょうがないのだろう。
「それで……タクト……その例のを……ここは風呂がないしな、それに着替えも出来ないからな。頼めないだろうか」
月明かりが漏れる部屋の中、闇夜に慣れた瞳に映るのは薄っすらと耳を赤くし、正面に立つトゥールさんの姿。
ちらりとトゥーレさんを見れば、姉の普段見られない姿に、必死になって笑いを堪え涙を浮かべていた。
トゥーレさん楽しんでますね……。いいでしょうそれなら。
「わかりました。寝る前はさっぱりしたいですからね。もちろんトゥーレさんにも掛けますからお待ち下さいね」
「へっ?俺も?いや!大丈夫だ。おれはエルフのハンターだ。1日2日風呂に入らなくても……
『クリーン』
「「はふん」」
はい。終わりました。
後退り逃げようとするトゥーレさんの肩に手を置き、同時に『クリーン』をかければ2人は細かな泡に包まれた。
十数秒後……。
目の前には今回は座り込まなかったものの、内股で細かく震える月明かりに照らされる2人のエルフの美男と美女。
すっかり綺麗になった2人を満足気に見ていると
カッチャとゆっくりと、まだ鍵の掛けていなかった扉が開く。
そしてその隙間からはルファの冷たい視線……。
そして目があったのを確認したのか、ゆっくりとまた扉が閉まった。
あっ……。
我に返り、改めて見る2人の姿。調子乗りすぎました。
どうもファンタジーの代表格であるエルフの2人を見てから自制が効いていないですね。こんな事普段の私なら我慢できたと思うのですが……。いけませんね。自重しましょう。
「キィーーーーー!」
反省を心に誓った瞬間。外の気配を探っていたペルがけたたましい警戒音を上げた。
 




