おっさんの甘さと厳しさ
道中同じような感じで、4日経ちました。
途中ゴブやウルフなどが襲ってきましたが、まぁ過剰戦力なのは言うまでもないですね。師匠って護衛いらない気がします。
指パッチンで、次の瞬間魔物の頭が一斉に爆ぜるんですから。
無詠唱魔法だそうです。さすがですね師匠は……。
ルファはこの数日、『操車』のスキル持ちのモルさんに習い、手綱の操り方。操車を教わっている。ちなみに今はルファが馬車を操縦しています。
モルさんの指導の賜物なんでしょうね。最初よりだいぶ揺れが少ないです。
山道の入り口で、モルさんに手綱を返したルファ。山道は道も狭く難しいですからね。要練習です。
「ご主人様」
暫くすると、御者台から客車に顔を出したルファが馬の先を指し示す。
まだかなり先だが、どうやら道の真ん中に人が倒れているようだ。
「キッ!」
「倒れているのは、男性?助けに行かな」
助けるように指示を出そうとしたところで、警戒していたルファに制止される。ペルの様子もおかしい。
「ご主人様!周囲に10人。正面に4人。左右に2人ずつ。後ろから2人……。こちらを囲むように近づいて来ます。」
「ひっ!山賊ですか⁈」
ルファの言葉に、モルさんが恐怖で顔を歪ませる。
こんな道の狭い山道の真ん中に行き倒れ……。よく考えれば怪しすぎますね。迂闊でした。
「そうだね。私の拙い気配察知でも、うっすら感じるよ。ごめん警戒すべきだった」
「いえ」
Lvの低い気配察知は意識してやっと探れる程度。それすら怠っていた。ペルも警戒の声を上げていた。ルファもペルも近寄ってくる盗賊達に気づいていたのだろう。
「ちなみに前に倒れているのも、同じ匂いがします。このまま轢きますか?」
「えっ?」
ルファがサラリと怖い提案を口にする。いやいやいや大丈夫ですよ!
馬車を停めずそのまま轢くか聞くルファに、停止の指示を出す。まぁ迎撃の方が逃げるよりも楽でしょう。
ルファの嗅覚を利用した気配察知は優秀ですね。スキルのついたばかりの私より、よほど優秀なんじゃないですかね。それにしても全員が全員、同じ匂いなら仲間確定ですね。
「師匠。ちょっと行ってきます」
「うむ。不覚は取らんじゃろうが、注意する事じゃな」
師匠の護衛として、きっちり仕事をこなしましょう。
座席の下から剛棒を取り出し、馬車を降りる。
だいぶ前で停車した事で、こちらが気付いたのがわかったのか、既に行き倒れを装っていた男は立ち上がり、正面の男達とこちらにニヤつきながら剣を向けていた。
「まったく。師匠の手を煩わせるわけにはいかないですからね。こちらも手は抜けませんよ」
剛棒を構え、ルファと共に正面の5人に向かう。
「なっ!テメエ等この人数に勝てると思ってのか!やっちまえ!」
一人青龍刀のような大刀を持った男が、声を上げる。
どうやらあれがこの盗賊達のトップのようですね。
「ん?うぉ!なにしやがる貴様!」
急に味方に斬りかかられた大刀の男が、ギリギリで隣の男。先程まで行き倒れを装っていた男の剣を避け、逆に斬りふせる。
どうやら、ルファが最初から行き倒れの男に幻覚を掛けていたみたいですね。ナイスです。
混乱する正面の盗賊達が、ルファの爪で容赦なく腕を切り裂かれ武器から手を離す。
「ぐぇ」
そして剛棒の一撃で膝から崩れ落ちる。なるべく殺すな。それが皆に出した命令だった。甘いかもしれない。しかしこの世界に来て、盗賊だからすぐ殺す。そんな命令を出せるほど、この世界に染まってはいなかった。
残るは頭の男だけとなった。
右から来ていた盗賊2人はリィスによって
左から来ていた盗賊2人はペルによって
そして背後の2人はキュリによって無力化されていた。
優秀な仲間たちです。
一人になった頭は、キョロキョロと倒れた部下達をみて後ずさる。
逃げようとしている?そんなことはさせません。
土属性魔法
『ピットホール』
急に現れた穴に、片脚が膝まで埋まりバランスを崩した男の頭に剛棒を打ち込む。
ゴンっと言う鈍い音が響き、そのまま男は、意識を手放した。
盗賊の頭の持っていた弱いが魔力を感じる汚いズタ袋を見ると、かなりの容量の入る優秀な魔石布である事がわかった。
一定量の物が入るこのマジックバックに奪った荷物を入れる予定だったんですね。たしかにこれなら重さを感じることなく大量の荷物が運べますからね。
まっこれも奪った物なんでしょうけど……
「起きて下さい。アジトはどこですか?」
盗賊達の荷物をまとめ、縛り上げると馬車の後部へと繋ぐと最後にのこした頭を起こす。
「縄を解きやがれ!断頭のガルバと呼ばれるこの俺に、こんな事してどうなるか分かってんだろうな!殺すぞ!」
目を覚ましてから喚き続ける頭。どうして捕まえたのに、殺すと言っている敵を解放すると思えるのでしょうか?
それにしても断頭のガルバって……。あの青龍刀で首を落とすって事なんでしょうね。有名なんでしょうか?
「リィス……」
「ん?スライム?こんな雑魚でどう……ギャーーーーーーーー! 」
「痛いでしょ?皮膚表面を溶かしましたからね。火傷とか鞭での痛みのように、殴打とは違う我慢できない痛みが強くなっていきますよ。だからまずは静かに」
そう忠告し低級の融合治癒ポーションをかけ、傷を一度治す。痛い痛い煩いです。
リィスも溶解液を調整して痛みを増すようにしているみたいですね……。怖……。
結局1時間以上怒鳴り散らしていた男も、自分の皮膚がゆっくりと溶けていく姿に耐えられず。ようやく素直になった。
拷問……という事なんですかね。まぁ治るとわかってますし、少しは気が楽です。
この盗賊達のアジトは、かなり近い場所にあった。
そして頭の口からまた聞きたくもない事実を告げられた。
「師匠。盗賊を捕まえましたが、どうやら2人ほどアジトに捕らえているそうです」
そう。またしても拐わかされた人がいたのだ。人間もゴブリンもやっている事は同じか……。
「うむ。近いのじゃろ?ならば行ってくるのじゃ。ここは任せておくのじゃ。」
「すみません。ではキュリを置いていきますね」
「うむ」
モルさんと師匠の護衛をキュリに任せ、アジトへと向かう。
この2人ならば、ちょっとやそっとじゃ遅れは取らないでしょう。
急ぎましょう。ルファ!ペル!索敵はお願いします!
高熱が続いていましたが、何とか熱が引きました。まだ喉はパンパンですが……。
お待たせしました。




