閑話:ネルの誤算と女将の信念
ふっふっふ
残念ですね。私の直感がぴきーんと、なっているんですよ。ぴききーんと。ここはついて行けと!
師匠さんの家から帰ってきたタクトくんは、Dランクになっていた。それもそうね。領主様の娘さんを助けたんだしね。
あぁ!
ゴブリンの集落に潜入するタクトくんは格好良かった。
ぐふふ。ホブ達寝ているゴブリンにまったく気付かれる事なく、囚われのお姫様を救い出す!はぁ〜。あの背負われているのが私なら良かったのに。それにお姫様抱っこだってしてたし!
なんで知ってるかですって?だって夜中にルファちゃんと出て行くんだもの。それは気になるわよね。
ちょっと想像と違ってたけど、そこは面白そうだから付いて行っちゃった。
集落でもホブが出れば、最悪こっそり手助けするつもりだったしね。ペルちゃんとルファちゃんの気配察知能力ぐらいじゃ本気の私は見つからないの。もちろんタクトくんが脱いだら別だけどね。
それにしてもまさか領主の娘だったなんてね。それが評価されて、こんなに早くDランクになるなんて。
その結果、3日後には師匠さんのジーマ様と旅立つ事に……。
あっそう言えば。あの馬車が襲われた時に真っ先に逃げた一人は、最近仕えたばかりの新人の執事だった。
あの後、討伐に出た冒険者たちの元にすぐに現れて保護を求めたらしい。その後の調べでは領主館の執事は首になったみたいだけどね。
それはそうよね……。仕えるべき娘さんを置いて、サッサと逃げちゃったんだもの。
ここを出るって、突然聞いた時にはビックリしたけど、まあ他国に行くのは正解よね。勇者様がタクトくんをボコボコにしたって言うのはこの街では既に有名な話だからね。どうやら無礼を働いたとか、いないとか。
あの勇者様ちょーっとおかしいのよね。国も何やら怪しい事してるみたいだし……。
だから彼は、この国にいない方がいい。私達親子でも限界はあるもの。
ちょうどタクトくんのお師匠様であるジーマ様が学園長を務めている。ハルフーレ魔術学園のあるディート王国にも、私達小売連合会の支店があるしね。ママに言ってそこに転属させてもーらお。
引き続き、タクトくんは私が守りますよ。安心してね。
そういえば最近タクトくんに、気配察知のスキルが付いちゃったっぽいのよね。私が常に近くで全力で、隠密を使って身を隠してるからね。
ふふふタクトくんたら。そんなに必死になって私の気配を探りたいだなんて。クフフ。
まぁそんな初心なタクトくんの気配察知を、すこーし刺激して部屋に行ってみたら、面白いくらいに普通に扉を開けてくれた。あの時最後に見せた顔はほんと可愛かった。まぁ全部元々知ってたし、早く言えるキッカケを作ってあげただけなんだけどね。
なんでもかんでも抱えるのは良くない。絶対。
ではそんなタクトくんの元へ行く準備に、ママ行ってまいり ぐえぇぇぇ。
「何すんのママ!」
高速移動の初動に首を掴むなんて死んじゃうよ!私死んじゃうよ!
まったくママったらこんな体格なのに、なんで私より速く動けるのよ!
でっ何⁈
えっ? ダメ?
人手不足? だって私、そもそも短期の手伝いって。部下も置いてくし……。
代わりに誰か来るまでって!
うっ……逆らえない……。
タクトくーーーん!必ず行きますからねーーーーーーーーーーー!
タクトに付いて行く準備に出ると言って、宿を出て行こうとするネルの首根っこを捕まえ阻止する。
まだまだ一瞬のスピードならあんたにゃ負けないよ。こちとら自分のスキルで潜在能力を最大限まで引き出してんだからね。
あの後、食事を終わらせたタクトが挨拶に来た。
Dランクになった事で、師匠のジーマ様の護衛と称してこの国を出ると。まぁ少し暗かったのはあのバカ娘が付いてくつもりでサラッと別れを告げたからだろうね。はぁー。ホント困った娘だよ。
タクトもタクトでギュッと抱きしめれば、すぐに機嫌が良くなった見たいだしね。ホント単純な2人だよ……。大丈夫かねまったく。
それにしても、元々この国に強い不信感を持っていたタクトだ。その判断は大いに納得出来る。それにルファちゃんやテイム登録していないあの子達もいるからね。この国はあの子には生きづらいだろうさ。
けどね。
あの子の潜在能力はまだ引き出している最中だ。中途半端に終わらせる気はないよ。
その為には、時間がない。
私の『力飯』は短期間じゃそこまで引き出す事は出来ない。
あの子をご隠居から託された時から護ると決めたんだ。それを曲げる気は無い。まぁうちの娘はそもそも、少しズレているようだけどね。
もう日々の食事は、与えられない。
それなら……。
非効率だが『力飯』の能力を込めた丸薬を作ろうかね。1日1回必ず飲むように言えばタクトなら素直に聞くだろうさ。
ネルに持たせよう。あの子はさっさと付いていくつもりだったみたいだけどね。そんな事させないよ。
1週間以内に準備する。それまではネルにいてもらわなきゃならないね。
そして私は私の信念を貫くため、ここから先全ての仕事を部下に押し付け、丸薬を作り続けた。




