おっさんの救えた命と救えなかった命
薄っすらと明るくなってきた森を急いで街へと戻る。気付けばだいぶ先まで来てしまった。
行きとは違い、斜めに突っ切るように秘密基地と呼んでいる洞窟を目指す。
明るくなってきている以上、ペルとキュリは洞窟内で待機して貰うのがいいでしょう。
しかしその帰路で見たくもないものを、見てしまった。
変な匂いがするとルファの案内で進むと、そこにはゴブリンの集落が広がっていた。
「リィス。見てこれる?」
「マスター。頑張るよー」
保護色によって姿を消せるリィスに、集落の偵察を頼む。
道中、索敵などではあまり活躍できなかったリィスが張り切った様子で、集落へと入っていった。
そして数分後。
リィスによってもたらされた情報は、決して状況が芳しく無い事を示していた。
捕まっている人がいる。
それがリィスの第一声だった。
既に戻って助けを呼ぶ時間はありませんね。
状況を聞き、今の戦力でどうにかなるかを考える。
「助けよう」
そう皆に伝えると、皆それぞれ同意してくれた。
情報を整理すると、中央の家に生きている捕虜が2人。そして既に亡くなっている人が1人。いずれも女性。
その中央の家には、見張りは2体。特に採取部隊以外は夜に活発になるゴブリン達にとって、ちょど狩を終え眠りについた時間帯。
しかし、昼間に来るような採取部隊を殲滅する勢いで倒したと言っても、本隊はこちら。圧倒的に集落にいるゴブリンは数が多く強い。
上位ゴブリンを合わせて、20体程が確認できていた。
おそらくその捕虜は、今晩の狩りの成果なのでしょうね。
やはり時間はあまりないと考えるのが妥当でしょう。
キュリが杖を構える。
『ダークアロー』
山なりに撃たれた闇属性魔法が、ゴブリン達の死角である頭上から無音で頭を貫き、櫓にいる弓持ちゴブリン3体を、静かに倒した。
キュリはここで送還ですね。
ここから先は、夜明けと共に日が出てきます。彼女の種族的に厳しいでしょう。
そして彼女には別の仕事があります。頑張って下さいねキュリ。
「ルファはここで引き続き、櫓のゴブリンがしっかりと仕事をしているように見せててね」
「はい。ご主人様。お任せください!」
キュリの魔法と同時に、ルファには幻覚魔法をかけてもらっていた。
その為、櫓を見れば今も3体のゴブリンが見張りをしているのを確認できる。
ちなみに、ルファの幻覚魔法はLv3になっている……。
いきなり2LvUPだ。サンドラ姉さんの店にいた時、彼女はずっとキュリに幻覚魔法を掛けつづけていた。それこそサンドラ姉さんがキュリを見る度に看破されていたのにも関わらずだ。
たぶんサンドラ姉さんも、その事はわかっていたんでしょう。それを楽しんでた節もありましたしね。
高Lvの看破に挑み続けていたルファは、宿に戻る頃には尻尾に溜めた魔力の70%程使い切り、結果幻覚魔法は、劇的に成長していた。
粗末な塀に身を隠しながら、櫓に登り集落全体を見回すと、櫓にいた3体以外では捕虜のいる建物の入り口に2体だけが見張りとして配置されていた。
中央の建物の裏から回り込み、2体のゴブリンを仕留める。
音を立てぬように静かにだ。ここではリィスとペルが活躍してくれた。
リィスは、背後から一気にゴブリンをのみ込み。
ペルは毒を注入する。
そしてペルの倒したゴブリンも、リィスが処理していた。
保護色にてほぼ透明となったリィスが室内へ侵入し、ゴブリン達がいない事を確認する。捕虜も2人とも気を失っているようだ。
扉を開け中へと入る。
「うっ……」
その瞬間。一気にむせ返るような悪臭が鼻をつく。
なんとか喉元で吐き気を抑え、生活魔法『消臭』の魔法を掛けた布を巻く。
リィスの報告通り、床に投げ捨てられるように放置されていた女性は既に亡くなっていた。
そして、生きている2人の女性のうち一人は、既にゴブリン達によって肉体的に壊されていた。
しかし、妊娠はしていないようだ。妊娠すれば、すぐに腹にスジが現れ、数日でゴブリンが産まれる。
手を付けられていなかった女性の、柱に巻かれていたロープを切ると、膝から崩れ落ちる。
その女性を抱きかかえるに受け止めると、薄っすらと意識を取り戻した。
「だ…れ…」
「静かに。助けに来ました。ここから出るので、静かにしてください」
コクリと弱々しく頷く彼女に、治癒ポーションを飲ませると、もう一人の女性の姿を見て涙とともに溢れそうになる声を必死に口を塞ぎ耐えていた。
この状況を見て、ゴブリンに怒りを感じない者がいるだろうか。
そして、フリナがいたらどう思っただろうか。こんなにゴブリン達に怒りを覚える私の姿を。
殲滅……。その考えが一瞬よぎる。
いや。上位のゴブリンの実力が分からない以上。逃げる事が最優先ですね。
2人を抱え、さらにここにいるのは採取を任される弱いゴブリンではなく戦闘専門のゴブリン。
2人を守れる保証はないですね。
なんとか冷静さを取り戻すと、痣だらけの女性に、今採ってきたばかりの薬草の中でも、自分の為にと採ってきた最も品質の良い薬草で、最高品質の治癒ポーションを『融合』によって作り出し、全身にかける。
そして、痣や傷、骨折などがすっかり治っていくのを確認し、背中に背負った。
そして無事だった女性には後ろからついてきてもらい、残りのゴブリン達に気付かれないように、見張りのいなくなった門から脱出した。
合流したルファに無事だった方の女性を背負ってもらい、そのまま街方面に1時間程全力で戻ると、馬車が停まっていた。
よかった。無事伝えられたんですね。
実は、送還したキュリに師匠に伝言をお願いしていた。ゴブリンの集落に女性が捕まっていること。救出するから迎えを寄越してほしいこと。この2点だ。
カタコトで、私以外にはあまり声も出さないキュリが、師匠に無事伝えられるか心配でしたが杞憂でしたね。
女性を馬車に連れて行く前に、走りながらクリーンをかける。背負っている女性の名前はマリー。痣だらけだったその体からポーションによって骨折以外の傷と痣は消えたが、ゴブリン達によって汚された体や服はそのままだった。
このまま他人の目に晒したくない。
そう思い。気付けば背中のマリーさんに全力で『クリーン』をかけていた。
もちろん、もう一人のルファに背負われた女性にも『クリーン』をかける。必死で抵抗し、泥々になった姿から汚れが落ちる。
そして綺麗になったその服装と顔立ちは、とても一市民には思えなかった。
少々忙しく、感想にお返しする時間がなく申し訳なく思ってます。
本日分更新します。




