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おっさんの所業と師匠の所業

「それにしても裸ローブなんて、タクトちゃん。あんたなかなかレベルの高い事するわねん」


 幻覚魔法を掛け続けているはずの、ルファの魔法を関係ないとばかりにその目をキュリに向けるサンドラオネエさん。


「違う!いやっ……それは…その致し方なく……。それよりも彼女のコーディネートを…」


 違うといっても実際誰がどうみても、いたいけな少女を裸にして、ローブだけ渡した変態の所業……。


「違う?わかってるわよん。もう。本気にしないの。あぁコーディネートね。任せてねん。」


 そう言うとキュリの手を引っ張り店の奥へと連れて行ってしまった。


「ご主人様……」


 恐ろしい物を見た。そう言う表情だ。


 顔に書いてあるとは、こういう事を言うんでしょうね。今ハッキリ分かりました。


「うん。ルファは知らないよね。女将のニイナさんの知り合い。裁縫の腕は超一級品だよ……。見た目はあれだけど」


「それに……私の幻覚魔法。まったく効いてなかったです」


 落ち込むルファの頭を撫でる。

 それはしょうがない。相手が悪いのだと……。


 いまだ幻覚魔法を掛け続けているのは、ルファなりの意地なのだろう。


 しかしそんなルファの意地も関係ないとばかりに、店の奥から声が響く。


「あらあなた意外にあるわね。いいわいいわ。その顔でそのスタイル!そそるわー。フォーーーー!」


 その声が店中に響くと静寂が訪れる。


「フォーーーーー」


 そしてもう一度響く、野太い声。


 そしてその数秒後。奥を仕切っていた布が外され、奥から出てきたキュリに目を奪われた。


 それは黒を基調としたゴシックドレス。白いレース生地のフリルが袖、胸元のジャボやスカートに散りばめられている。

 そして頭のシンプルなヘッドドレスがキュリの白髪を美しく飾っていた。


 おそらく、あの掛け声の一瞬で作成されたであろうこのドレス。

 それは一言で言うならば“完璧”な仕事だった。


「ありがとうございます。サンドラ姉さん」


「あら。いいわ。いいわ。それよ。気合い入れた甲斐があったわ。また来るのよ。それにあなたもねん。」


 そう言うサンドラ姉さんに5万トール程支払い、店をでた。最後にキュリにもウィンクしたのは気のせいだろうか?

 値段については、姉さんはいいと言ったがおそらく普通は倍以上だろう。


 そして何も聞かないでいてくれるサンドラ姉さんに、店の外でもう一度頭を下げ、宿へと戻った。



 午後になって指輪に魔力が溜まり、指輪は青く発光している。

 これでいつでも師匠の家に行くことが出来るようになった。


 昼食を済ませ、宿の部屋でルファを抱き寄せ左手につけたリングに触れる。


「転移」


 青白く光ったリングの光が、足元の魔法陣へと伝わり魔法陣が光で描かれた瞬間。


 景色が宿から一転し、見慣れた師匠の家の物置に変わった。


 物置の扉を開くと、師匠が立っていた。


「おや。なんだいヌシだけじゃないのかい?まぁいいじゃろ。その辺の説明は後でするんじゃろ?それよりほれ。いつものじゃ」


 ふんっと。腰に手を当て、通せんぼをするように、胸を張る師匠。それもそれで可愛らしいですね。


「はい。もちろん説明は後ほど。それでは」


 そう言って自然体のまま魔力を循環させる。もちろん途中で増加や減弱をさせる魔力操作も組み入れ師匠に修練の結果を見せる。


「ふむ。合格じゃ。入ってよし。で?今日はどうしたのじゃ。指輪を使うという事は、またなにかの相談かの」


 そう言ってルファを見ると、テーブルへ座らせる。


「はい。スケルトンを倒した後から話したいと思います。その前に……私の今の仲間を紹介していいですか?」


「ふん。今更何を遠慮しとるんじゃ。さっさとせえ」


 テーブルのクッキーをルファに勧めながら、自分もクッキーを口に入れる。


「分かりました」


 召喚

 リィス


 召喚

 ペル


 召喚

 キュリ


 手をかざし、いつものようにリィス達を呼ぶ。


 床に魔法陣が描かれると、すぐにリィス達が召喚された。


「ブフォ!しょっ召喚魔法じゃと⁈」


 口いっぱいに詰めたクッキーを、ルファに向かい噴き出した師匠が、立ち上がり魔法陣を見つめる。


 あぁルファ……。あとでクリーンするからね……。


「マスター!わっ!キュリちゃんかわいいー!」


「キィー」


「・・・」


 リィスとペルが相変わらず召喚と同時に大騒ぎで胸に飛び込んでくる。そしてやはり進化してリッチになってもキュリは大人しめだ。


「紹介します。オリジナルネオスライムのリィス。大蝙蝠のペル。そしてレッサーリッチユニークのキュリです」


「……まったく。ヌシは予想外の行動にでるのう。テイム…ではないね。召喚でもない。そもそも実在しない魔物を召喚なんて出来やしないからね」


「師匠。この子達は『融合』によって魔石から生まれたオリジナルの魔物。融合魔物フージョンモンスターです。私の魔力から生まれたので、1日1回という限度はありますが……」


 と言いかけたところで、後ろから袖を引っ張られ振り返るとキュリが袖を掴んでいた。


「どうしたのキュリ?」


「2回……」


 たった一言だったが、キュリの言いたいことが分かる。


「今なら2回出来るって事?」


 コクコク


 どうやら正しいようだ。そういえば融合の時間も5分から10分に伸びた。その辺が関係しているのだろう。


「えっと今は1日2回。召喚と送還が可能なんみたいです。それと一緒にきた…『クリーン』。この子はルファ。訳あって私の奴隷となりました。」


「の……ルファとやら。すまぬのじゃ。ちと我を忘れてしもうてな……」


 クッキーを被っていたルファに気付き、師匠が頭を下げる。


 そしてそのまま頭を抱える師匠に、これまでの事、そして融合魔物が生まれた経緯を説明する。100個以上の魔石の融合。そして進化について……


「魔石を100個以上融合じゃと……。また無茶苦茶な事をしとるのじゃな。それにしても……ワイバーンにトロルを差し引いても……」


 しばらくブツブツと何かを言っていた師匠が顔を上げる。


「ふむ。ヌシよ外へでるのじゃ」


 そう言った師匠は外へ出るなり、風属性魔法を操り近くのグリーンスライムを捕獲すると、目の前に放した。


「ほれ!さっさと倒さんか」


「えっ?はいっ『ストーンバレット』」


 石の礫によって倒され、魔石を残すグリーンスライム。


 いったい何だったんでしょう?


「なるほどの。ヌシよ。そなたスライムでは経験値(魔素)を吸収できなくなってるよ。見たところ全部そのスライムにいってるね。だからいくら大量の同族を倒しても成長してる実感がないのさ」


「えっ?」


 正直驚いた。

 しかし、同時に疑う事なくその事実は素直に理解できた。


 自分でも疑問に思ってましたからね。あれだけの大量のスライムやビックバットを倒しても、リィスやペルが生まれて以降、強くなった高揚感は一切得られませんでしたからね。


 おそらくスケルトン系を倒しても同じなのでしょう。キュリがいますからね。


「ふむ。そうじゃな。その前に、この子がアンデットでリッチで元スケルトンという事実を、さらっと伝えるヌシの神経が理解できないのじゃがな」


「すみません……」


 さすがに今まで伝えていなかった事が多すぎた。やはり、もっと早く大人として相談すべきだっただろう。少なくともリィスはスケルトン戦の後に話せたのだから。


 反省と同時に落ち込んでいると、師匠が部屋へ戻るため扉に手をかけ振り返った。


 そしてその後続いた言葉は、これから先を大きく変える一言だった。


「はぁー。まぁ近いうちにヌシに伝えようと思っていたからちょうどいいじゃろ。ヌシよ他国へ行く気はないかい?」



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