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おっさんの過剰殺戮とルファの覚悟

「狐火!」


(アクアカッター)


「キィキキー」


 既に送還して下水に戻っていたリィスとペルと合流し、一斉に技を放つ。


 相変わらずペルは遠距離攻撃ではなく、すれ違いざまの毒牙での一撃を大ネズミに与えているが、ワイバーン戦を経て明らかに毒の強さが増していた。


 今また一匹の大ネズミが泡を吹き息絶えた。


 皆大張り切りですね。


 誘引ポーションで誘い込んだアシッドスライムや大ネズミが切り刻まれ、燃やし尽くされる。


「おぉー。明らかにオーバーキルですね……。みんな張り切り過ぎじゃないですか?」


「ワイバーンにはあまりダメージを与えられなかったです……。だからもっと強くなりますねご主人様!」


(ボクもだよー)


「キィ!」


 輝度がわかり、自分にまだまだ伸び代。潜在能力があるとわかったルファが拳を握る。


 そしてワイバーン討伐を持ってレベルの上がったリィスとペルも張り切って魔物を討伐していた。


 みな気合いが入っているみたいですね。それなら今日は存分に狩り尽くしましょう。


「はっ!」


 皆のやる気に火をつけられ、飛び込んできた大ネズミの額に剛棒を回転させながら腕を突き出す。


「ギャぷっ」


 予想通り、剛棒の一撃によって破裂し魔石を残す大ネズミ。オーバーキルという事ではあまり変わらない。


 ワイバーンを倒し強くなったのはルファ達だけではない。こうして大ネズミに剛棒を振るえば、その力が増したのを実感する。


 その間にもルファが4つの青い焔をアシッドスライムへ向けて放っていた。


 Lvの2乗の数の狐火を作り出すことのできるスキル『狐火』その狐火を2つに統合し威力を高め、かと思えばあえて1個で操作性を上げ撃ち込む。


 アドバイス通りに色々試すルファの前には、大ネズミやアシッドスライムの魔石が大量に散乱していた。


「よし。帰ろうか」


 1時間ほどで、ある程度のルファの能力の把握は終わった。


 もう一つのスキル『幻覚魔法』もLv1とは言え、大ネズミの行動を面白いくらいに混乱させ、1体1なら同士討ちさせる事も可能だった。


 アシッドスライムの魔石44個、大ネズミの魔石72個を回収し宿へと戻った。



 考えが甘かったですね…。


 次の日、昨日と同じように下水へと朝からルファと向かったが、そこには彼が待ち構えていた。


 ヒジリ・セイドウ


 避けていたはずの彼が、今度は仲間を連れず1人。下水の入り口から姿を現した。


 気配察知は意識していたのに、彼の気配は今も感じない。


 そういう装備を身につけているんでしょうね。あの鎧には色々付与されていそうです。


「おいおっさん。遅えんだよ。こんな臭え下水の前で待たせやがってよ。」


「ヒジリさん……」


「聞いたぜ。誰もやらねえ下水の討伐ばかりやってんだってな。それに魔法も使えねえからアシッドスライムからは逃げて大ネズミばかり。くく。ウケるまじでウケる!ホント期待を裏切らねえ。似合ってるぜおっさん。あんたにゃ汚ねえ所がお似合いだよ。それで生活出来てんならいいじゃねえか」


 彼は膝を叩いて笑い続ける

 どこで調べたのか、どうやら私が大ネズミの魔石ばかり納入しているのを魔法が使えないと勘違いしているようですね。


「でもな」


 笑みが消えた瞬間。セイドウくんの雰囲気が変わった。


「身体強化 ブレイブオーラ 聖剣アモス」


 彼の言葉に合わせて、彼の周囲を纏うように光が増していく、そして生み出された聖剣。


 聖剣?

 いやいやいや


 聖剣アモスと唱えた彼のその手には、いつものような眩いばかりの光り輝く聖剣ではなく。


 所謂メリケンサックのような指に通して拳を握り装着するタイプの武器が握り込まれていた。


 もはや何でも有りですね……。

 彼は聖剣さえ手にもてば様々な恩恵が受けられますからね。剣士ではなく格闘タイプの聖剣なんでしょうか?


「この前はよくも思いっきり腕を掴んでくれたなぁ。お前ごときが粋がってんじゃねぇぞ」


 ドンっという音と共にセイドウくんの姿が消える。


「ご主人様!」


「ごはっ」


 ルファの叫び声と同時に腹部に強い衝撃を受ける。


 体に纏う光が彼の身体的能力を著しく上昇させ、受けた事のない強い衝撃に体が浮き10m以上飛ばされる。


「ははははは!そうだ!それでいいんだ。奴隷の前で無様な姿を晒しな!お前は大人しく下水掃除でもしてりゃいいんだ。そうだ下水の掃除屋として楽しませてくれたからな。殺そうと思ったがこれでやめてやる。感謝するんだなタクト! 」


 セイドウくんは、飛ばされながら何度も転がり土まみれになった私の姿を見て、笑いながら唾を吐き捨て、去っていく。


 どうやら満足したようですね。

 前とは違い、今回はしっかりと魔力循環で防御できました。彼、ある程度満足しないと引き下がらないですからね。


 メリケンサックのような形の聖剣を見て、彼が腹を殴るのは分かりました。彼の性格上顔面は殴らない。


 腹を抑えうずくまり、苦悶の表情を浮かべる。そんな姿を見たいのだから。一発で意識を失うような顔面は避ける。

 そんな予測を立て、全ての防御を腹部に一点集中した。


 そのおかげで、踏ん張りが利かずに派手に飛びましたが、かえってそれが彼を満足させたようですね。


「ご主人様!」


 派手に飛ばされた姿を見たルファが、顔を青くし駆け寄り抱きつく。


「くっ……。さすがに身体中痛いけど大丈夫だよ。うまく防御したからね。」


 そう言って泣き始めたルファの頭を撫でる。かなりドロドロに汚れてしまったが、胸で泣くルファを引き剥がすようなことは出来なかった。


 かわりに小さく『クリーン』と呟く。

 いつもより少し控えめな泡が、2人の全身を包み一瞬で消える。今回は気持ち良さではなく速さ重視の洗浄をイメージした。

 おかげでルファに気付かれることなく全身の汚れを落とすことが出来た。


 綺麗になった体でそっとルファを抱き寄せる。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。私もっと強くなります。ご主人様を守れるくらい強くなります! 」


 泣き叫ぶルファが強くなりたいと、強く口にした瞬間。

 隠していた2本の尾が現れ、ひかりを発するとするすると根元から生えるように3本目の尾が現れた。


「ふえ?」


 さすがにルファも泣くのをやめ、増えた尾を触り確認する。


「ふぇ?」


 そして今更ながら互いの汚れが落ちている事に、また声を出した。


 ルファを抱きしめながら感じる。明らかに増した彼女の存在感。

 その尾は天狐族の力の象徴。尾が多ければ多いほど強くなる。族長ですら8本だが、その数は伝説の天狐と同じ最大10本迄増える。


 その天狐族の象徴たる尾の3本目。

 1本目は通常の天狐族が生まれながらにして持つ。

 2本目は成人と共に

 そして

 3本目。彼女は強くなりたいと願った。それは強く、揺るぎない心からの願い。


「尻尾……増えたね。」


 強くなりたいと心の底から願う。それが3本目の条件なのだろう。


「はい!これでもっとご主人様のお役に立てます」


 太く柔らかな3本の尾をこちらに巻き付け、ルファは笑顔でそう答えた。



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