閑話:おっさんの宿娘
「ふふふ。やはり只者じゃなかったですね。ゴブリンに襲われて寝込んだあの日から、明らかに変わりましたね。おかしいと思ったんですよ。訓練中の確かな実力を見ていたのに、ゴブリン4体程度に遅れを取るなんて。これが彼本来の実力……。ふふふ。ふふふふ。」
あの美しい魔力に包まれた引き締まった筋肉……もとい。
使い手が僅かしかいないとされる。パパと同じ剛棒の使い手 さらに奥義継承者ね……。
って‼︎
パパのお師匠様?。ママがご隠居って呼んでるけど、暇だったからって理由で、奥義迄教えるなんてやりすぎじゃない?自重を何処かに無くしてきちゃったの⁈
えっ!!あの剛力っママの『力飯』の影響?いやいやいや。効果出るの早過ぎるでしょ。って言うことはジーマ様?魔力での身体強化の倍率おかしくない⁈みんなやりすぎじゃない!
ふー。スッキリ。
まっいっか。タクトくんはタクトくんだしね。私もちょっとだけ、ちょっかい出してるし。
そんな事より、どこに隠れてたかは知らないけど、顔は見えなかったフードの子やスライムちゃんと“合体”だなんて……ぐふふ。
やはり私好みね。いつか私とも……くふふふふ。
それに一生懸命頑張ってワイバーンの周りを飛んでいた蝙蝠ちゃんは、あの子よね……。あの熱い視線はそう言う事だったのね。ふふふ。これはもっと楽しめそう。
まぁ使った後は明らかに体がボロボロになってたからね。私の見立てでは、完璧に継承したわけではなさそうね。大丈夫かしら?私が一緒に寝て暖めてあげなくて……。
あっ。ルファちゃんに気付かれた?
んっもう。さすがは感知型の獣人。やっぱり邪念が入るとバレちゃうのね。だからそんな目で見ないで。ほんとに彼のことが大好きなのね。昨日今日の付き合いのはずなのにあそこまで陶酔させるって。もう!タクトくんの女ったらしぃ!
あっまたルファちゃんの目が…
私は退散しまーす。2人ともゆっくり休んでね。
おっとその前に。
店の前にこんなものが転がってるのはまずいわね。
都合のいいことに今は、避難通達が出てるから。まず見られてない。
流石に結界破った時はどうしようかと思ったけど、そんなものは私の影魔法で視線誘導すればチョチョイのチョイよ。勇者様御一行も城門の外で忙しそうだしね。
だから私も潜むのはおしまい。
ズズっと。
空き箱の影が盛り上がると、人の形になっていく。
「到着っと!」
自分の部屋から空き箱の影へと移動を終えると、万が一の時の為にと先程迄『影視』で見ていた目の前のワイバーンを死体を観察する。
「わぉ。目の前で見ると大きいねぇ。でもここで君は倒れてちゃ駄目なのですよ」
私はワイバーンに手をかざし、魔法を発動する。
影属性魔法
『影収納』
ワイバーンの影が広がっていき、底無し沼に沈むようにその影にワイバーンの死体がズブズブと体を沈めていく。
最近余計なものを結構収納したけど、これならまだ余裕ね。
「はいっ。店先の大掃除終わり!」
これできれいさっぱり証拠隠滅完了!ホントは私が出て行って素材を貰おうって思ったけど、まさか彼が戦い始めるなんてね。
はぁ〜。私の中で永久保存ね。
「おおっ?」
あんな所に脚が……。
そういえば最初の一撃…『朱雀』って言ってたっけ?奥義の一つの。
ブワーってオレンジ色の炎で具現化したような鳥が飛んだと思ったら、ワイバーンの脚が切断されて飛んでったっけ。
あそこまで飛ぶなんて、面白過ぎ!
比較的背の高い木の中腹に引っかかっている。ワイバーンの太い脚。
「異様な光景ね」
でも問題なし!
あの時の一撃で、木の上に飛んだワイバーンの脚。
それに狙いを定める。
『影帯』
影帯を意識すれば、影から1本の布のような黒い帯が現れ、木の上に引っかかっているワイバーンの足を絡め取り、引き寄せる。
「はい。そのまま。そのまま。」
『影収納』
トプン。
とネルの影に収まるワイバーンの脚。
影属性魔法
『影収納』
公式上。Lv5迄は、体重×影属性魔法Lv+1の重量を収納出来る魔法。
ワイバーン丸々1体を軽々と収納するこの影収納の容量の大きさが、彼女の魔法Lvの高さを物語っているのだろう。
この魔法のLv6以降は公式にはない。それ以上にした者が少なく記録が残っていないのだ。
はい。おわり!
パンパンと手を払い、ふと思う。
勇者召喚が行われ、あのヒジリという勇者が召喚されてから王都がよく襲われる。なにかあるんだろうなぁ。
でもその辺はまだ調べなくていいってママが言うし、他の部隊が調べてるんだろうな。
同じタイミングで召喚された勇者と追放者。私は断然タクトくん推しね。もう興味が尽きないって感じ。この世界にもいないわけではないけど、前勇者と同じ黒眼黒髪の青年。才能最低辺の烙印を押された青年。筋肉がすば……はっ!いけない。いけない。
何にせよ。現勇者は茶髪。ちっともそそられませんよ。わたしは
私は潜む者。
当店の“お客様”は影ながら守ります。 それが私。
あの調子じゃ、しばらくは起きれないよね。明日は部屋に食事を持っていこっと。




