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おっさんの武と勇者無双

 10体のワイバーンが襲来する。

 その報告を受け、避難勧告の出ていない冒険者と防衛に加わる兵士だけとなった大通りを抜け、宿へと向かう。


 まったく……。彼が帰ってきたとたんこれですか。


 前回の墓地のリッチ騒動と同じようなきな臭さを感じながら、ワイバーンの事を考える。


 Fランクはお呼びでないと言われ、宿へと帰るが実際兵士と冒険者で抑えられるでしょうか。


 ワイバーン1体でもCもしくはB級以上のランクのパーティに依頼が出されていますしね。


 硬い皮膚だけでなく、飛ぶという事。

 この一点でも圧倒的アドバンテージを持つ。


 それが10体……。


「ルファ。早く帰ってこちらは万が一の時に宿を守ろう。幸いリィス達もいる。」


「はい。ご主人様」


 ワァ!


 大きな音と同時に、上空にまた魔法が放たれる。


 比較的大城門に近いこの場所からは、上空に放たれる魔法がよく見えた。


 そして大きな歓声と共に、上空に光る1本の光の帯。


「グギャーーー」


 そして響くワイバーンの悲痛な叫び声。


「セイドウくんですね。主役の登場のようです。」


 大城門の外では、セイドウくんが落とした瀕死のワイバーンを近接隊がトドメをさしているようだ。


 さすがセイドウくん。聖剣での一振りで、ワイバーンの硬い皮膚を斬り落としますか。


 光の帯が放たれるたびに響くワイバーンの悲鳴。

 翼を落とされ、胴を斬られる。

 光が触れた部分を容赦なく切り落とす。


 飛べるというアドバンテージなど関係ないと言わんばかりの強さ。


 先程までの防衛隊の緊迫した叫び声は止み、士気は最高潮となっていた。


「ご主人様?」


「そうですね。急ぎましょう」


 足早に宿へと向かい、あと少しで到着というところだった。


「ゴワァー!」


 別方向から結界を抜けてきたワイバーンが大きな口を開き、こちらへと飛来してきた。


 強引に結界を抜けてきたのか。所々黒く焼け焦げたワイバーンが、その結界で負ったダメージの苛立ちそのままに、見つけた獲物へと迫る。


「ルファ!狐火!」


「はい!『狐火』!」


 ルファの狐火の青い焔がワイバーンを襲う。しかし火に強いワイバーンにそれほどのダメージは与えられない。


 土属性魔法

『ロックウォール』!


 地面に手を置き、大きな岩の壁をイメージする。

 その瞬間。急に進路を塞がれたワイバーンが忌々しそうな顔をしながら急浮上し、旋回し始めた。


「リィス!」


 201の部屋の窓から、留守を任せていたリィスが顔を出す。


 部屋が通り沿いだったのが幸運でしたね。


「行きますよ!」


『融合』

 リィス


 2階の窓から光となったリィスが体に飛び込む。


「宿から近すぎます。少し離して落とします!」


『スパイダーネット』


 ストローバードの時とは比べ物にならないほどの魔力を込め、大きく丈夫なネットを旋回から再度急降下してきたワイバーンへと放つ。


「グギャ!」


 ズンッ


 スパイダーネットが絡まり、舗装の石を砕く程の勢いで墜落したワイバーンを剛棒で追撃を与える。


「はっ!」


 ゴンッ!


「ありゃあ。随分硬い頭ですね……。」


 トロールの頭を砕いた一撃でさえ殆どのダメージがない……。


「ギュワーグルルルルグァ!!」


 おっと暴れますか。


「キィーーーーーーーー」


「グロロロ」


 ナイスです。ペル。


 ペルの放つ超音波を頭に受け、動揺するワイバーン。


 ダメージはないが煩わしいようで、ワイバーンの気がうまいこと逸れた。


 それならば!


 融合解除

 融合が解除されたリィスが2階へと戻る。


「キュリ!」


 今日の朝に融合してしまいましたからね。残りは3分くらいでしょう。


『融合』

 キュリ


 そして、同じく2階から顔を出しているキュリを呼び融合する。


 朝と同じように、全身に感じたことの無い魔力量が蓄積しているのを感じる。


「魔骨解放!」


 キュリの骨に蓄えられていた魔力が、一気に解放される。


「一度使ってボロボロになった技ですが、これならいけそうです。」


 解放された大量の魔力が循環し、全身を強化する。


 そして背負っていた剛棒を取り出し、ワイバーンの正面で構えをとる。


 さらに魔力を高める間に、ルファ、リィス、ペルが更なる追撃を与える。


「『狐火』」(溶解液だよ!)「キィー(毒牙!)」


 ルファの狐火の着弾と同時に、リィスが溶解液によって溶かした部位にペルが毒牙で攻撃する。


 それでも立とうとするワイバーン。


「いけます!」


 声と共に、ルファ達が後方へと下がる。


 そして攻撃の止んだその瞬間。


 ガァァ!


 頭だけネットを突き破り、噛み砕こうとしているのか、こちらの頭をめがけ、口を広げ襲い掛かってきた。


 ワイバーンの瞳の中に自分が映り込むほど目の前にその口が迫ったその時。


「ギュラーーーー!」


 その瞳に写り込ん自分の中心に、土属性魔法によってドングリのような形に作られた石がめり込んだ。


 指弾

 師範に教わった闘気や、魔力を纏った弾を指で弾き攻撃する技術。


 その石の礫がワイバーンの瞳に突き刺さっていた。


 そして片目を失い、2本の脚で立ち上がり空に向け咆哮を放つワイバーンの正面に構える。


【武演2式:薙刀の型 払いの極意《朱雀》】


 スパイダーネットを体に絡ませながら、立ち上がったワイバーンの脚に、魔力によって刃先が薙刀の刃状になった剛棒が襲う。


 そして、イメージされた炎に包まれた鳥【朱雀】が下段から上段へと飛び立つとワイバーンの脚がスパリと切断れた。


「ギャーーーー」


 再度の咆哮とともに、前のめりに倒れてくる。


 そしてそのワイバーンに追撃する為、払い上げた状態。上段からの


【武演3式:太刀の型 打ちの極意《白虎》】 「ぐぅ やはりかなり魔力が持っていかれますね。」


 振り上げた剛棒に太刀の刃が形成される。同時に急激に魔力が剛棒へと流れる。


 朱雀同様。真っ白な虎【白虎】が鋭い爪を振り上げた状態から振り下ろされ、真っ二つにワイバーンを袈裟斬りした。


 ぐっ……。「かっ解除…」


「城での訓練の後半に師範に伝授頂きましたが、やはり融合して魔骨を解放した状態でも厳しいですか。」


 いけると思ったんですけどね。


 キュリが2階へと戻り、融合が解ける。

 このくらいの距離ならば送還しなくてもリィスのように元いた位置に戻るのはわかっている。


 肩口から斜めに袈裟斬りにされたワイバーンが絶命し、倒れると同時に力が入らず膝を着く。


 全身に激しい痛みが走りこれ以上、下半身にも力を入れることが出来ない。


 本来闘気と呼ばれる“気”を乗せて発動する奥義。


 私はまだ闘気は使えない。

 指弾同様。無理やり魔力を纏わせて振りの速度と、魔力で無理やり刃を作りましたが、これはきついです。


【突けば槍払えば薙刀打たば太刀下ろさば槌と剛はかくにも外れざりけり】


 型により剛棒は姿を変える。

 その際たる奥義こそ


 武演1式 槍の型 突きの極意 青龍


 武演2式 薙刀の型 払いの極意 朱雀


 武演3式 太刀の型 打ちの極意 白虎


 武演4式 槌の型 下ろしの極意 玄武


 剛棒を扱う筋力。融合によって得た力と魔力循環による身体能力の全てと、魔法のイメージ力を使って、やっとこの基本奥義ですらギリギリ最低限繰り出せる程度です。


 相当体と精神に負担を強いる。


 これこそ師範から最後に教わった技。


 やはり私には武の才能はあまりありませんね。

 強くなったといえども。まだまだ修練が必要です。


 闘気も使えず、1回でも限界に近いこの技を、今回連続で2回。


 その反動で、体の組織がズタズタになりすでに全身ボロボロとなっていた。


 幸い誰も見てません。魔石だけもらって宿に姿を消しましょう。


「ルファがいてよかった。」


 途切れそうな意識の中そう呟いた。


 もし自分がソロのままなら、この場にワイバーンとともに倒れていたでしょうね。


 見つからなくて本当によかった。


 彼は厄介極まりないですからね。


 そう朦朧とした頭で考ながら、意識が途切れた。




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