おっさんのもの言う顔とルファの過去
「そういえば、誕生日を迎えてから教会に行くつもりだったんだよね?」
「はい。成人を迎えてからの測定なので、昨日街へ着いてから見るつもりだったみたいです。………昨日が私の誕生日でしたから。」
「えっ?昨日が誕生日?そうかそれで昨日まで測れなかったんだね。輝度によっては奴隷の価値が変わるからか。そっか昨日が誕生日か。おめでとうルファ。」
「はい。ありがとうございます」
そう言って撫でると、ルファはまた顔を真っ赤にして伏せてしまったが、太く立派な尻尾は大きく嬉しそうに揺れていた。
これは可愛いですね。
さてそうなると、お祝いを考えないとですね。
「うん。決めた。ルファのお祝いついでに、当初の予定通り教会に行こう。悪いけど元々表立って一緒にパーティ組んでもらうために来てもらったんだしね。」
そうと決まれば善は急げです。残りのルファの能力の把握と、出かける準備をしてさっさと出掛けましょう。
時間は有限ですからね。
「えっ?あのご主人様……奴隷の誕生日を祝うなど普通は…」
うん。オロオロしたルファも可愛い。
でもですね
「それは普通の奴隷でしょ。ルファは奴隷だけど、忠誠を誓った従者なんでしょ?じゃあ奴隷的な考えはやめなきゃ」
「はい!ご主人様」
ルファの目から涙が溢れる。
私にこの世界の常識は常識であって常識じゃないですからね。この世界では異質な考えなのでしょう。
「さてと、じゃあ。教会に行く前にルファのスキルについて教えてもらえるかな。」
ルファが落ち着いたところで、話はルファのスキルに戻った。
「はい!」
まずは多尾
どうやらルファの尻尾は最大10本迄増えるらしい。
その尾は魔法や身体能力を司っており、尻尾が多い程、肉体的にも魔法的にも強い天狐という事らしい。
ふむその辺は9尾じゃないんですね。
真っ先に想像したのは9尾の狐でしたが…あぁだから“天”狐ですか。なにやら転生者が関わってそうな種族名ですね。
今はLv2。つまり2尾で、その他狐火と幻覚魔法が使える。
余剰魔力は常に尻尾に蓄えておけると。
「 えっ昨日まで1本だった?」
あぁ昨日、大人の階段を……。
「えっ?実年齢で成人?」
表情で悟ったルファが、顔を真っ赤にして否定する。なるほど、実年齢で成人でしたか……
それにしてもまた顔に出てたみたいです。
しかし、大人の階段を登ったって言う顔ってどう言う顔なんでしょうかね。
ほんと不思議です。
「ご主人様のエッチ!」
あたたたた。
叩かないでください。叩かないでください。地味に痛いです。ルファって身体能力も高いんですよね。
スタミナも凄いし……。
「ご主人様…」
昨日の事を思い出しているとルファの視線が突き刺さる。
「申し訳ない……」ホントマスクでも付けた方が良いでしょうか……。
それよりも、成人を迎えれば2尾になるんですね。
村の殆どが2尾以上と…今は10本はいなくて、最高が族長の8本ですか。
だけど普段は見えるのは1本で、そこの見せる見せないは自由なんですね。
2尾に増えた後は強くなれば増えていくらしい。
関係しているのはレベルでしょうか。それとも他のスキルレベルでしょうか?
なんにせよルファが強くなればモフモフ成分がいっぱいですね。頑張りましょう。これは気合いが入りますね。
狐火は、狐族特有の火属性魔法ですか。
「はい。これです。『狐火』」
ルファが狐火のスキルを使うと、ルファの周りに4つの青い焔が浮かび上がり、ルファの周りを尾を引くように浮遊する。
「なるほど。正しく狐火と言うわけですか。燐火と呼ばれる焔ですね。」
元の世界では人魂や鬼火とも呼ばれていましたか。ここは妙なところがゲームっぽいですからね。
そう言う事ならおそらく…
「でも、これで終わりじゃないよね?」
「えっ?ご主人様。狐火を見た事があるんですか?そうです。狐火は本来狐の御霊と契約する事でその狐の力を付与します。私は1匹も…」
「そうですか。キュリ。墓地に狐の魂はいますか?」
カッタカタカタ
「ん?そうですか。ここにはいないみたいですね。残念。ならまたの機会ですね。」
実際落ち込んでいるルファだが、ルファの言うただの狐火であってもその火力は低くはない。
おそらく大ネズミ程度なら一瞬で丸焦げに出来るだけの火力がある。
「そう落ち込まない。私もルファもこれから強くなりましょう」
ルファの頭を撫でると、縮こまっていた尻尾が小さく揺れ始めた。
あとは幻覚魔法に聴覚強化。
これは、師匠が持ってきてくれた中央図書のスキルの本に書いてあった通りだった。
狐火と幻覚魔法は種族的な要素が強く、聴覚強化は嗅覚強化と並び獣人に多いスキルだ。このスキルは索敵や追跡にも使われていますからね。有難いスキルです。
「あとは料理ですね」
そう言うと先程まで、尻尾を振っていたルファの尻尾が止まり、今度は悲しそうな表情になりルファの目から涙が再び溢れ出した。
料理は元々亡くなった母親に師事して得られたスキルだった。
村でも評判の料理人だった母親は、村の祭事に料理を任されるほどの腕前だった。
そして、そのおかげで自分は守られていたのだと言う。
ルファの毛色は白だ。
通常の天狐族は褐色で、元々多尾狐族と呼ばれていた一族が、天狐族の呼び名の元になった何代も前の勇者のパーティとして魔王を倒した10尾の“テンコ”が真っ黒な毛色であった。
その色と全く逆。
全ての色が失われた呪われた忌み子。それがルファだった。
その為、両親がなくなったと同時に守るものが誰もいなくなり、村8分にされ最後には借金の返済を名目に売られた。
それがルファが奴隷になった経緯だった。
「酷い話だ。安心してルファ。奴隷の肩書は隣の国に行けば解放できるから。それに私は白い毛並みも好きですよ」
そう言って頭を優しく撫でる。
「奴隷はそのまま。そのままでお願いします。一緒に、ご主人様と一緒にいさせてください!」
(マスター。ぼくもいっしょー)
「キィ」
「カタカタ」
「もちろん。そのつもりだよ。みんなもね」
安心したルファの2本の尻尾がブンブンと唸りを上げる。
ルファ。リィス。ペル。キュリの頭を順に撫でながら、ふと思い出す。
やっぱり天狐族の名前の由来は伝説上の天狐ではなく、“テンコ”さん由来でしたか。伝説上の天狐が普通に姿を表すのはおかしいですからね。
この名前。
当時の勇者が付けたんでしょうね。ラノベの天狐は最強の一角。それと10本の尾の狐。“10狐と……。
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