おっさんの危機と夜の蝶?
服飾屋 『夜の蝶』
ここは前に宿の女将ニイナさんに紹介されたまま、お洒落な服を買う予定が無く結局来ないままになっていた。
夜の仕事をする人用に、遅くまでやっていることは聞いていましたしね。
そしてここは墓地から離れているので、今日の騒動も関係なく、営業はしているだろうと確信していた。
カラン
扉を開けるとドアベルの音がなる。
商品で通路をつくり、壁一杯にかけられた服が所狭しと並ぶ店内には、夜の商売風の数人の派手な化粧をした女性客が、商品を手に取り肩に合わせ服を選んでいた。
「こんばんわー……」
入口から声を掛けると奥から返ってきた。
「はぁい〜。ちょ〜っと待ってねん」
はい。とても低くて逞しい声です。
……よし。帰りましょう。
「大丈夫でっすぃっ!」
「っと。な〜に帰ろうとしてんのよ。あら可愛らしいお顔ね。いらっしゃいませ〜。夜の蝶へようこそ〜。どうしたの〜。」
ごっついオネエさんです。たしかパピオンには蝶ではなく蛾という……
レオタードのような服の胸元が胸筋によって開いちゃいけないところまで開いてます。胸毛と胸筋がなんとも逞しいデス。
母さん。先立つ不孝をお許しください。私はここで……
「ちょっとー。何走馬灯見てるような顔してるのよ!失礼しちゃうわん。ここの店長のサンドラよ。サンドラお姉ちゃんってよんでねん」
「は…い…。サンドラさ…オネエさん」
「あん?なんか違う気がするけど。まぁいいわ。あなたタクトちゃんでしょ?ニイナ姉さんの所の。」
おや?私の事を知ってるのですか?
はぁ少し落ち着いてきましたね。
「はい。タクトと言います。あの〜サンドラオネエさん。おろして貰っても?」
首元を掴まれ店に引き戻され、今は脇の下に手を入れられ高い高い状態だ。
この人2m以上身長がありますね。
「あら。よいしょ。ごめんさいね。ニイナ姉さんから可愛い子がいるって聞いてたのに、あなた。なかなか来てくれないんだもの。ちょ〜と興奮しちゃった。でもすぐ分かっちゃった。うふ。」
そう言いながら、太い指で額をつかられる。
「……そうなんですか。すみません。服に使えるお金の余裕がなかったものですから」
一瞬首がもげるかと錯覚しました。サンドラオネエさん怖い……。
「知ってるわよん。頑張ってるのもねん。それで?今日はどうしたのかしら?この時間に来るって事は事情がありそうね。言ってごらんなさい」
さすがはニイナさんのお勧めの人だ。一瞬で雰囲気が変わる……見た目は変わらないですが…。
そして来た時間だけで、普通の買い物じゃない事がバレてしまったようですね。
バッグからビッグバットの生地を取り出し、事情を説明する。
もちろんスケルトンメイジのためでなく、魔法を使う小さな女の子の為に作って欲しいとお願いした。
「あら。スキル持ちの生地ねん。それに継ぎ目のないこの形。随分と腕のいい錬金術師の物なのね。これを私好みにしていいのねん。」
鑑定?いや経験だろうか?生地を見せただけで、手に取ることも無くこの生地がどういうものかを見抜いた。
「経験よ。姉さんの言った通りね。顔に全部書いてあるわよ。ただ肝心な所は隠してる。そんな感じね。ふふっ。いいわ〜その感じ。ふふ。冗談よ。任されたわ。こんな素敵な生地を持ってきてくれたんだもの。あなたの小さなハニーに似合うようにしてあ・げ・る。」
「有難うございます。どのくらい……」
どのくらい待てばよいか聞こうとしたところで、太い人差し指を一本立て、口を塞がれる。
「野暮な事。聞かないの」
そう言うと、腰につけていたエプロンから裁縫道具を取り出し……
「はっ!!」
野太い声と共に一瞬視界がブレる。
「はい。完成よ。」
「えっ?」
その間数秒。あっという間の出来事だった。
なんと言う事でしょう。
あのただ真っ黒で、なんのオシャレ感もなかった生地が、可愛い襟の付いたフード付きローブに。
その着心地。匠の技によって小さな女の子の平均的な体型にフィットするよう工夫され、襟のボタンひとつで街中で来ていてもおしゃれに着こなせる逸品に。あなたの小さな恋人に最高のローブをプレゼント。
「はっ!」
おかしなナレーションが聞こえた気がする。でも確かに感じる匠の技。
これが高レベルのスキルのなせる技なんですね……。
「すごいですね。可愛いです。」
「ありがと。この素材ビッグバットね。素材に付加されていた隠密能力が少しだけ減った代わりに、魔道士用の装備って事で魔力強化(小)が付いているわ。それでもすっぽり被ってフードをつければ、隠密能力は前と同じような感じよん。」
「ありがとうございます。」
「あらいい笑顔ね。毎度あり。また来てね」
バチん。
お金を払い出て行こうとすると、力強いウインクで送り出される。たぶんこの人は、スケルトンが来ても大丈夫だったんじゃないだろうか。
ニイナさんから広がる縁に感謝しながら、墓地へと急いだ。
墓地へと戻ると、先程までいた墓地の近くに身を潜めていたキュリの姿を見つける。
どうやら言われた通り、隠れてたみたいですね。
「ただいま帰りました。キュリ。これを着てください。」
「カッカカ」
骨だけの指を絡ませモジモジとするキュリ。どうやら遠慮しているような意志が伝わる。
「いいからね。遠慮しないで着てごらん。私が使っていたものをキュリの背丈に合わせて作って貰ったんです。可愛く仕上がってますよ。それに気配も隠せますから。」
押し付けるようにローブをキュリに持たせると、キュリはゆっくりローブを羽織った。
「おっ似合う似合う。」
その姿はまさに黒頭巾ちゃんといったかんじでしょうか。深々とかぶったフードにより髑髏の顔は隠れ、全身をすっぽりとローブが覆う。これでスケルトンだということは、隠せますね。
モジモジとするキュリの頭をフードの上からポンポンと優しく叩く。
「それじゃあ無理はしないようにね。何かあれば強く意識してください。すぐにわかります。私の元に召喚する事もできます。だからくれぐれも無茶はだめですよ」
コクコクと頷くキュリ。
ここまで言えば無理はしないでしょう。
みんなも頑張ってますからね。私も宿に帰って訓練をしましょう。
次こそは彼との差を縮める為に。
う〜ん。
タイトルの〜以降を変えようか……。でも浮かばない。すみません変えるかもしれません。