おっさんのスケルトン討伐と勇者様
「押し込めーーーーーーーーーーー」
『おおおおおおおーーーーーーー』
警鐘からすぐにギルドを飛び出し、墓地方面へと駆ける。
徐々に戦闘音が大きくなり、辿り着くと報告通り既に騎士団が戦闘を始めていた。
第二騎士団長 ヴォルクスの掛け声と共に、盾を前に構えた重厚な装備を身に付けた騎士団が、一糸乱れぬ突撃でスケルトンたちを薙ぎ倒し粉砕し墓地へと押し戻す。
盾での突撃と、金属で出来た槌による重撃を得意とする騎士団。それがヴォルクス騎士団長率いる。第二騎士団だった。
機動力は無いものの、重量級の団員で構成されたの攻撃力、防御力はホーエン率いる近衛騎士達の所属する第一騎士団と肩を並べると評される騎士団の攻撃を受け、あっと言う間に街へと雪崩れ込んだスケルトン達は排除された。
そのまま第二騎士団と共に冒険者達が墓地へと入り、各々スケルトンの討伐を開始する。
騎士団と冒険者達の数倍、いや数十倍はいるスケルトン達を剣を打撃武器に持ち替えた冒険者や魔法使いの冒険者が文字通り粉砕していった。
「はっ!」
剛棒を振るうと、密集して襲ってくるスケルトンが数体砕け落ちる。
毎日欠かさずに演武と共に振るってきた剛棒を、止める事なく流れるように振るう。一見ゆったりとした動きに見えるが、剛棒に触れると面白いようにスケルトン達が砕けていく。
煌々とたかれた松明の光に、城から派遣された魔道士達のライトの魔法で、辺りはお驚く程明るい。
せっかくの『夜目』が全く必要ない程に……
しかし。
「減った気がしないですね」
剛棒を振るい続け1時間は経った。自分の体力的には問題は無いが、冒険者の中にも徐々に疲労の色が見え始め、同時に負傷者が出始める。
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン!
急に鳴り響く剣と盾を打ち鳴らす音。
その音と共に状況は一変する。
光が墓地を一直線に迸ると。光の周囲にいたスケルトンまでもが消失していく。
“勇者降臨”
その遅すぎる降臨に作為的な物を感じるが、そのあとは圧巻だった。
勇者であるセイドウくんが聖剣を振るうと、光が迸る。それだけでスケルトンが上位種も含め消えていくのだ。
「セイドウくん。」
大量のスケルトンがみるみるうちに居なくなっていく。
そしてスケルトンの大集団が消え、騎士団、冒険者の一団が奥へと突撃したタイミングだった。
「リッチだーーー」
奥にいたフードをかぶったスケルトンが手をかざすと、爆風と共に、騎士と冒険者数十人が吹き飛ぶ。
墓地奥に響く音の先には、首元に装飾品をつけたローブで着飾った大柄なスケルトン。
リッチが姿を現した。
「おっ。おっ。お。誰だ!我をこんなみずぼらしい姿で復活させたのは!貴様か!貴様かーー!」
どうやら中途半端な状態。不完全な姿で何者かに復活させられたようですね。
リッチが叫びながら怒りに任せ杖を振るう。その度に起こる爆発で騎士、冒険者が吹き飛ばされていく。
「まずいですね……。」
何が出来るかわからない。
が勝手に体が前へと進もうとした時、後ろから強い衝撃をうける。
「うぐっ」
背中を蹴られた?
「はっははは。相変わらず鈍臭いな。それにその格好。城を出て行った時と殆ど変わっていないじゃないか。相変わらず棒遊びかよ。」
起き上がり見上げると、そこにいたのは遠目に見ていた最も会いたく無い人物。
豪華な鎧に身を包み、聖剣をその手に持ったセイドウ ヒジリがその聖剣をこちらに向けていた。
「セイド……」
セイドウくんと呼ぼうとしたが、鼻先に突きつけられた剣が、違うと横に振られる。
「ヒジリさん。随分遅い登場ですね」
第二騎士団から遅れて1時間。
城からはセイドウくんの足なら10分もかからないでしょう。
「くっく。主役は遅れて登場するものだろ?俺の為に雑魚をどかすのが駒の仕事だ。あんたも含めてな」
「そうですね。勇者様ですからね」
「わかってるじゃないか。なら、一見習い冒険者にすぎないのあんたが、何邪魔しようとしてるんだ?ここは俺の見せ場だろう!」
セイドウくんは、蔑むような視線を変わらず向け続ける。
しかし、この遅い登場と言い、逆に第二騎士団の到着の速さといい。何か違和感がありますね。
「皆さんが頑張っているのに、随分な事を……まるでヒジリさんの為に用意された舞台かのように言うのですね。」
「はっ。お前がそんな事を気にする必要はねえよ。おっ盛り上がりも最高潮。誰も近付けなくていい感じで絶望に染まってんな。こちとら訓練 訓練でストレスが溜まってんだよ!発散させて貰うぜ!」
リッチに苦戦する騎士達をニヤリと笑う。
その瞬間、土埃と共にセイドウくんの姿が消えた。
「皆んな。よく持ちこたえた!こいつは俺が相手をする!」
颯爽と登場した白い鎧に身を包む青年が、高々と聖剣を掲げ宣言する。
そして聖剣を消し、両手をリッチに向けると同時に
「ハハハハハ!死ね死ね死ね死ね!」
火。土。風。水の属性の魔法が乱舞する。
そしてリッチにあたり爆発とともに轟音をあげた。
「あのクソババアめ!俺様が魔法を使いこなせてねぇなんて抜かしやがって!」
なにかを叫びながら、魔法を放ち続けるセイドウくんの顔が喜びに震える。
しかし噴煙が落ち着くと、セイドウくんの余裕が一変した。
「カカカカカ。効かぬ。効かぬぞ。我は魔導を極めた存在なり。このような幼稚な技で我は死なぬ。」
遠くにいた騎士や冒険者達には聞こえなかっただろう。
しかし、近くにいた私と、セイドウくんには聞こえていた。
まさかのまったくのノーダメージですね。
えっ?いいんですかそれで?
横を見れば怒りに震えたセイドウくんが再び聖剣を出現させ、その剣を強く握りしめていた。
「幼稚?この俺が幼稚?お前もあのクソババアのような事を言うんだな…めんどくせぇ…この俺様に舐めた口をきくんじゃねー!!」
そしてブチ切れ叫ぶと、聖剣を出現させた能力で様々な勇者効果を身に纏わせ、フッと姿を消した。
「な に 。ぐおぉーーーー」
そしてその瞬間。
その聖剣は深々とリッチの胸に突き刺さり、心臓部にあった魔石を破壊していた。
魔法がダメなら物理で押す。それを地でいきますか。セイドウくんあなたって人は……。
それにしてもクソババアとは……。まさかですよね。
「なっな に も の……私は不滅 だ」
その言葉を残し、リッチのローブは塵のようになり空へと舞い散り、骨が四方へと弾け飛んだ。
「スケルトンのボス。リッチをこの私!聖剣の担い手ヒジリ セイドウが討ち取ったぞ!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」
墓地にこだまする歓声。
その後騎士団によって祭り上げられたセイドウくんと士気が上がった騎士団や冒険者によって、あっという間にスケルトン達は下水のスケルトンも含め、ほとんどが討伐された。
そして聖剣を手にし、スケルトンとリッチを苦もなく討伐してみせた若き英雄を、人々はこう呼んだ。
“勇者 ヒジリ”と