おっさんの共同作業とつぶらな瞳
目の前に小さな魔法陣が現れ、リィスが召喚される。
こうして呼び出すのは、夜寝る前などの人目につかない所が多い。
明るいうちから呼び出すのは久しぶりだ。
(ん?あーマスターお外だね。どうしたのー?)
「あーリィス。消化してからでいいよ。ゆっくりね」
召喚されたリィスの体内には大ネズミが……。どうやら吸収ではなく食事中だったようだ。
リィスは別に食事は必要ないが、あったらあったで取り込むらしい。今回はちょうど大ネズミに襲われて返り討ちにした所なのだろう。
あっという間に溶けていく大ネズミ。
アシッドスライムさえ倒せなかったリィスも、随分成長したものだ。
ただ最近は、Lvの上昇も少し遅くなっている。いくら同族吸収でスライムから多くの魔素を吸収できるといってもそろそろ限界なんでしょうかね。
種族:オリジナルスライム Lv16
名前:リィス
スキル
同族吸収
物理衝撃耐性
再生(極小)
念話
溶解液
保護色
Lv15で覚えたのは 《保護色》周囲の背景に体の色を同化させ姿を見えずらくする。光学迷彩のように姿を消すスキルのようだ。
これにより普段人目につき辛くする事が出来るようにはなったが、気配が消せるわけではないので、結局街などに一緒に連れて行くことは難しく未だに夜くらいしか召喚してあげられない。
(うん。あっこれ)
娘の成長を見守るような感慨深いものを感じながらリィスを見ていると、リィスの体がブルッと震える。
プップップとリィスが大ネズミの魔石を吐き出す。全部で4つ。
取り込んだ魔石は、こうして夜に呼び出した時に吐き出してくれる。魔石が売れるとわかってから、消化せず取っておいてくれるようになった。
「ちょっとね。人目につかないし手伝ってもらおうと思ってね」
(うん。わかったよー)
喜びを表現するように跳ねるリィスを、ゆっくり撫でる。やはりモチっプルとした感触がなんとも言えない。
この感触を触りながら寝ると何とも寝つきが良い。
中和剤を投げ込みながら慎重に洞窟を進むと、先程、最後の煙玉を投げ込んだポイントに到着する。あたりは無毒化されてはいるが、その成分の1つでもある甘い匂いが立ち込めている。
ざっと300匹以上の蝙蝠が煙玉の近くに折り重なるように死んでいる。この匂いにつられて少し先の群も誘引されたようですね。
この倒し方のデメリットはこれだけ大量に討伐しても、まったく魔素《経験値》が取得出来きないことですね。
この毒の煙玉の最大のメリットは、通常煙が発生すれば、外へ一斉逃げだすが、この毒は逆に煙へと寄って行ってしまう。だからこそ範囲内の対象を一網打尽にできるのだ。それに傷が一切なく素材の状態が非常に良い。
「さて、早く回収しましょう。」
あと2時間もすれば蝙蝠達が一斉に起き始めますからね。ここからは時間との勝負です。
ナイフを手に、ビッグバットの皮膜部分を切り落とし、残りをリィスに放り込む。
そうすることで、効率的に魔石だけを取り出せる。
そして、消化が完了する度にリィスから吐き出される魔石を回収して行く。
もちろん皮膜も一纏めにする。
そして、皮膜が30組計60枚になったところで融合スキルの直感が働く。
「へー。皮膜も融合出来るんですね。それなら」
『融合』
魔石融合と同じように一纏めにした皮膜が薄い光で包まれる。
そして、その光が強くなると、そこに残っていたのは正方形の1枚の大きな布地のようなしっとりとした生地だった。
その継ぎ目もない不思議な感触のビッグバット製の生地を拾い上げ、外套のようにして羽織る。
(ん?マスター。気配が凄くうすくなったよ!それなーに?)
えっ気配が薄くなった?なるほどそういう効果もあるんですね。魔物の特性?的な物をが引き継がれた……いや融合によって引き出した…?そのどちらかでしょうね。
「これはさっきの蝙蝠の羽から作ったんだよ。面白い効果があるみたいだね」
皮膜は人気があるみたいですし、残りは納入してしまいましょう。アンナさん喜んでくれますかね。
半分程のビッグバットをリィスに消化させ、吐き出された魔石をせっせと融合していると、150個目となる魔石を手に持った瞬間。期待していた反応が駆け巡った。
直感
リィスやフリナよりも多い、魔石数。
どんな基準かは分かりませんが、ビックバットの魔石融合には150個必要みたいですね。
この魔石の違いはなんなんでしょうか?
「リィス。新しい仲間が増えますよ」
(やったー。フリナちゃんとは結局会えなかったから。嬉しいの!)
一旦悲しく体を震わせ、その後ピョンピョンと跳ねるリィス。
そういえば、フリナとは会わせていませんでしたね。もう少しLvが上がってからと思っていましたから。
でも今回は生まれる瞬間も見れますね。
『融合』
スキルを唱えた瞬間。いつも通り両手の魔石がひかり、1個の魔石が完成する。
魔石が光の強さが一層増していき、同時に全身から魔力が魔石へと吸い込まれ、魔石から魔法陣が浮き出る。すぐにその魔石を地面に置くと…
パキッパキパキ
リィスやフリナの時と同じように、魔石が卵のように割れ始め、強く発光する。
そして光の収まったその場にいたのは。魔物的な凶悪な蝙蝠顔ではなく、つぶらな瞳とふかふかの光沢のある毛を持つ、1匹のビッグバットと同じくらいの大きさの蝙蝠だった。
こちらも愛くるしいコウモリですね。ビッグバットの鋭く細い毛ではなく、予想以上に毛がふわふわです。
「これからよろしくお願いしますね。あなたの名前は 《ペル》です。リィスと同じフランス語から真珠と言う意味からつけました。そのつぶらな瞳が黒真珠のように綺麗でしたからね。」
「キィーー」
(喜んでるよ。ペルちゃん。よろしくーリィスだよー)
リィスが挨拶のためプルンと揺れる。
「キィキィ!」
リィスとペルが挨拶を交わす中、両手で持ったペルに意識しステータスを表示させる。
種族:大蝙蝠 Lv1
名前:ペル
スキル
夜目
索敵
どうやらビッグバットと同じように見えるが、大蝙蝠というオリジナルのようだ。
スキルは夜目に索敵。嬉しい事に欲していたスキルを両方持っていた。
そっとなでながら、先程からペルが強く訴え続けている感覚に従った。
『融合』




