おっさんの瞳と新たなポーション
「おおぉ」
少し魔力を目に集めただけで、その変化は明らかだった。
今まで分からなかったのが嘘のように、師匠の周囲だけでなく育てられている草花や魔道具の類に至るまで、自身を魔力で覆っていた。
「凄いですね。師匠の体を優しくて力強い魔力が覆っているのがわかります。それにその薬草も魔力で……。」
そう言うと師匠は、大きく一度頷いた。
「分かるかい。光…魔力が多いのが高品質な薬草だよ。植物自体に魔力が多いのと少ないがあるのはわかるかい?」
そういうともう一つの鉢を指差した。そこには調薬とは関係のない、観葉植物が植わっていた。
「はい。以前師匠からもらった薬草のプランターの植物は魔力が多いですが、観葉植物のこの木はほとんどないですね。」
部屋を見渡すと、確かに魔力の違いがある植物が見受けられた。特に薬草は多くの魔力を纏っており、野菜や観葉植物などには魔力は非常に少なかった。
「その通りじゃ。簡単に言うと魔力の多い植物は薬草になり得る植物じゃ。これのようにの」
師匠は、置いてあった薬草の鉢をこちらへと差し出した。
その鉢に一本だけ植わっているその薬草は、他のプランターの植物達とは明らかに魔力の量が多かった。
その薬草を目に魔力を集中させたまま。観察する。
「茎の部分にくびれがありますね。」
よく見れば、茎の部分に魔力があきらかに薄くなり、くびれのようになっている部分がある。
「ほう。それが見えるかね。そこが採取ポイントだよ。ヌシは既に魔力視なしでも品質を落さずに採取出来る。採取スキルも取得しとるしの。今後はそのくびれで、採取すれば最高品質でとれるだろうさ」
師匠は嬉しそうに頷くと、その薬草の丁度くびれの部分に指を添え、薬草を採取した。
すると採られた薬草は、採取する前よりも一層覆っている魔力量を増加させた。
「活性化⁈」
「ほっほっほ。そうじゃ。これが最高品質の薬草さ。まぁ冒険者として、ギルドに持って行くときは注意するんだね。高品質でも目立っちまうからね。ヌシのように目立ちたがらないもんが、やるような事じゃないよ。」
確かにそれは困りますね。普通に採取した薬草は劣化〜普通の品質になると教わりましたからね。普段の採取も少し手加減したくらいが丁度いいのでしょうかね。
「そうですね。気を付けたいと思います。師匠。ちなみに魔力がやけにギザギザした薬草は?」
調薬用の机に置いてある鉢植えの植物を指差す。
その植物は、一見しただけでは薬草と間違えてしまうほど、薬草によく似ていた。
しかし、先程師匠によって採取された薬草とは違い、その覆っている魔力に優しさは感じられず、覆っている魔力自体がギザギザと、どこか拒絶を感じる
「おやそこまで見えんのかい。それは偽薬草と言ってね。毒がある薬草だね。治癒ポーション用の薬草にそっくりだからって口にしちまえば、ポックリ一歩手前さ。まあ新人冒険者の殆どがこれも一緒に採取するからね。ギルドの連中も大変さね……。ヌシも気を付けるんだよ。」
聞けば複雑故に薬草程、益、害とは出ないが、人の魔力も余程の悪感情であれば、騒ついた感じになると言う事だった。
まぁそこまでわかるようになるには、相当熟練しないとという事でしたから。私にはまだまだですね。
「……」
コクリと無言で頷くと、師匠は偽薬草を採取し水と一緒に差し出した。
「これは?」
「はぁ。鈍いねぇ。薬草類と水を渡されればやる事は一つだろうに」
「あ!すみません。毒草は扱わなかったものですから……」
偽薬草と水を受け取ると、確かにこの2つは『融合』出来ると直感が働く。
行きます。」
『融合』
いつものように、体から魔力が少し吸われた感覚がすると、手に持った偽薬草と水が目の前に出現した渦巻に吸い込まれていく。
そして、その瞬間。
薄紫に輝いた何かが生成された。
「ほぉ。随分魔力の流れが良くなったじゃないか。なかなか効力の高いもんが出来たみたいだね。」
おお師匠から褒められましたね。これは嬉しいです。
「まぁ分かっちゃいるが『鑑定』」
そう言うと師匠が、私の持っている瓶の液体に手をかざします。
『鑑定』の魔法のようです。
これはたしか物の名前とある程度の使い道がわかるんでしたね。便利な魔法です。
「うむ。見事に毒ポーションじゃ。こいつを使えば持続的にダメージを与えられるだけでなく、行動遅延も与えられるからの。冒険者になるんだったらもっとくんだね。」
そう言って渡された薄紫の液体は、匂いも殆どなく相手に瓶ごと投げて当てれば、飲ます必要も無いという事だった。
変なところがゲームっぽいです。まあ魔法やスキルがある世界ですから、あまり気にはなりませんけどね。
「さて、ちょいと脱線してしまったの。魔力を目に集める事で、魔力を見る事が出来る『魔視』が使える。まぁ一度『魔力集中』を使って瞳の魔力穴を完全に開いたからね。今後は普段でもある程度の魔力は見えるようになるよ。それ以上の時は必要じゃがの。そのほか腕に集めれば腕力強化。脚なら脚力強化。私は完全魔法特化だからね。この手の『魔力集中』で得られる強化は少ない。つまり身体強化系は苦手なのさ。まあヌシには合うじゃろ。工夫してみる事じゃな。」
「はい。ありがとうございます師匠」
そう言って頭を下げると、師匠はわざわざまた椅子の上に立ち、一言「うむ」と頷いた。




