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おっさんの訓練と破天荒な師範

 聞いてみればこの御老体。3代前の国王の武術指南役だった。期間が短く非公式に教えを授けていたらしく、記録には残ってはいないらしい。


 歳をとり、新しく弟子を取ることもなくなり、余生をと考えていた時、城の兵舎での住み込みの仕事を見つけ、兵士の訓練風景で酒が飲めると応募したらしい。どこまでも武術一直線な老人である。


「えっそんな動機なんですか⁈」


 非公式とは言え、元国王の師範という立場。弟子も多く、おそらくそれなりに裕福な暮らしをしていたんじゃないだろうか。


 えっ?じゃあ私の兄弟子は王様ということになるのでしょうか?まあもう亡くなってますし、いいでしょう。


「そうじゃ!毎日毎日弟子入り志願者や実力の足りない道場破りが来る日々の生活に飽き飽きしてしまってのう。見込みのある奴がいれば、こっそり鍛えてやろうかと思っとったが。まさかこんな仕事がくるとはの。人生何があるかわからんの。かっかっか。」


 愉快に笑う師範。

 ちなみに上機嫌なまま教えてくれた情報によれば、現国王の武術師範は、今まさに勇者である誠道くんを追い込み、転がしている近衛騎士団騎士団長その人との事。


 さすがは勇者ですね。講師も一流を充てがわれているみたいです。


 まあ知らなかったとはいえ、私も相当な方が師範なのではないでしょうか。毎日弟子入りが来る程高名な武術家から教わるチャンスなんて滅多に無いですからね。


 これはより一層気合いをいれなくてはですね。


「うむ。良い気合いじゃな。ちなみにこのヒョロヒョロな老人にもこの棒が持てるのはの。筋肉の質の違いじゃな。」


「質の違い……。ですか?」


「そうじゃ。あんな見せかけの筋肉なんていらんのよ。必要なのは密度と質、どの部分にどんな筋肉をつけるかじゃよ。」


 なるほど。しかしあの筋肉を見せかけというのは、なかなか納得しづらいですね。師範の方が強いなんてことがあるんでしょうか?


「では早速じゃな。それは剛棒Lv1じゃ。まずはその重さで演武を1回分こなすんじゃ。ええな。今日は終わったら帰って良し。」


 師範の演武を真似しながら。演武を進める。

 ゆっくりと公園で見かけた市民太極拳の演舞のように、ゆっくりと見本を見せる師範に対し。

 その重さ故に碌に身体を動かすことも出来ずに、私は全力で師範の演武についていきます。


「ヒュー。ヒュー。かひゅ…お おわ り ま」


「カッカッカ。5時間か。それでもやり遂げるとはな。1日目ならこんなもんじゃわい。」


「あ り がと う ござ います。」


 5時間も付き合って貰った師範に礼を言いたいが、身体が持ち上がらない。

 地面に吸い付いているような身体の重さです。


「まぁゆっくり休んでから帰るがええ。それと明日からも毎日来るんじゃぞ。」


 手を振り訓練場を後にする師範。

 明日ですか。身体。動きますかね。それとも中年の身体のまま時間を置いて筋肉痛が来るのでしょうか。


 体が疲れすぎて指先一つ、ピクリとも動かせない。

 あぁ。今日師匠宅に帰るのはちょっと難しそうですね。


 しばらく休憩しなんとかゴロリと向きを変え、リュックから出した魔力訓練用の敷布を広げる。


 どうせほとんど動けないなら、寝たまま魔力循環の修行の時間にしましょうか。リラックスしていれば寝てても出来ると言っていましたしね。


 疲れ切った身体を横にしたまま、取り出した堅パンを水筒の水でふやかし、師匠の作ってくれた薬草の煮浸しとともに、胃袋に押し込むように食べる。胃からせり上がってくる食事をなんとか胃に戻し、堅パン2個をたいらげると魔力を腹部へと集め始めた。


 ふー。お腹は満たされましたね。


 薬草がいい感じで吐き気止めになってくれたようだ。筋トレには食事が大切と言う、無理矢理にでも食べないとカロリー足りなくて体力が持たなくなってしまうだろう。


「それにしてもお腹に魔力を集めると暖かくて気持ちいいですね。」


 そのままゆっくりと全身に暖かい魔力を循環させる。

 魔力を通したところが徐々にポカポカと暖かくなってくる。


 あぁ気持ちいいですね。


 少し冷たい風が頬を撫でる。


 そして意識が途切れた。


 どうやらそのまま寝てしまったようです。

 訓練場は真っ暗になっていた。


 どのくらい寝てしまったんでしょうか。


 でもそのおかげで、体は重いですが、なんとか動くようになりました。

 これならなんとか倉庫には行けそうですね。


 外に出るとやはりあたりは、すっかりと暗くなっていた。

 驚くほどの数の星が空を彩り、輝いている。その光が暗くなった倉庫への道を照らしていた。


 この時間にこの体力では師匠の家には行けませんからね。残念ですが……。


 ゾンビのように足取り重くゆっくりと、倉庫へ

 もちろん。肩を貸してくれるような人はいませんよ。でも少しでも魔力を通していると、少し楽ですね。


「はー。やっと着きました。もう寝ましょう……」


 重い体をそのまま布団もどきへ、投げ出す。

 チクチクと刺さる藁の先が気にならないほど、身体が横になりたがっていた。


 あぁ。気持ちいいです。

『魔力循環』の修行をしながら、眠りましょう。魔力がなくなるのが先か、疲れで寝るのが先か……間違いなく後者でしょう。


 それでは……

 おやすみなさい。


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