おっさんの新パーティと課外演習
今日は社会学の授業。内容は、隣国アルグレント王国の勇者についてだ。
まぁ勇者ヒジリ……。セイドウくんの事ですね。お久しぶりです。
目の前には3人のパティーメンバーとともに、セイドウくんが高々と聖剣を掲げている映像が魔法によって映し出されている。
ダンジョンを一つ制覇したらしく、大きなニュースとなっていた。
お姫様との婚約云々で途中呼び戻されていましたが、無事攻略できたみたいですね。良かったですね。
ダンジョンを制覇してもコアさえ壊さなければ、管理のもとダンジョンの恩恵を受けられる。
なのでダンジョンを制覇すれば、その周囲の土地を領地とできるだけでなく、そのダンジョンの資源も領主として活用出来るそうです。
もちろん制覇して良いダンジョンと、そうじゃないダンジョンがあるらしいですが。
ちなみに制覇者にはダンジョンコアに触れた時点で特典、所謂スキルやアイテムなどがあるらしいですが、今回は公表されてないらしいです。
頑張ってますね。 セイドウくん。お疲れ様です。
あの国に残っていれば、間違いなく絡み続けられていましたしダンジョン制覇者となった今ならもっと酷くなってたでしょうね。
さて授業も終わりましたし、退散しますか……
「待てーーーー」
ね。
はぁー。ここでも絡み続ける人がいるんですよね。
一番前の席からマリーが大股で歩み寄ってくる。毎度毎度あのテンションをよく持続できますね。
「今度こそ逃がさないわよ。タクト!私と勝負よ。」
ふー。やっぱり来ましたか。いつの間にか呼び捨てですか。そうですか。まぁそうくると思いましたよ。
チラチラとこちらの様子を伺っていましたしね。
だがしかし!今日の私には秘密兵器があるのです。昨日の授業後にしっかり今日のために対策をとっていますよ。
「いいでしょう。話しを聞きましょう。」
「だから嫌とは…えっほんと!」
また断られると思っていたのか、信じられないという顔をするマリー。そこまで信じられないなら諦めれば良いと思うのですが。
まぁ言っても諦めないでしょうから対策が必要なんですけどね。
カバンの中にある。あるものをマリーの目の前に突き出す。
「しかし!まずはこれを見てください。勝負はしない、これから絡んでこない。ということを約束していただければ。これを差し上げましょう」
「「こっこれは!」」
マリーとファロンの声が重なる。
そう。これは師匠の直筆サイン!
拳を震わせ、サインを凝視するマリー。となぜか同じような顔のファロン。どうやらファロンも師匠のファンのようですね。
同時にクラス全員の視線がサインへと集まる。師匠はやはり偉大な魔導師のようですね。
ふっ勝ちました。
私はこの手の勝負事には興味ないですからね。変な条件をつけられる前に勝負なんて全力で避けますよ。全力回避です。
師匠にお願いした甲斐はありましたね。
「ぐっ……。卑怯よ。学園長のサインなんて……。ばっかじゃないの!超絶レアじゃないの!下手なダンジョンのアイテムより余程価値があるわよ!わかってるの⁈」
「あぁ流石にこれは驚いたよタクト。分かってるのかい?これ1枚で小さな家くらいは建てられるよ。いや。オークションならもっと高値で……」
「関係ないよ。ファロン。それくらい勝負がめん…嫌だって事だよ。わかるだろう?」
おっと。つい本音が
「あなた今…。いいわ。そうよね。そんなに嫌な事を強制するのはよくないわよね。でもそれは受け取れないわ。学園長の一ファンとして、その弟子のタクトに嫌がらせをしてサインを貰ったなんて言われたら、学園に居られなくなるわ。」
おや?意外と常識的な面もある子みたいですね。まさか受け取りを断られるとは思いませんでした。
多分何枚でも書いて貰えると思うんですが。
手作りクッキー10枚分で交換したなんて口が裂けても言えませんね。
「だからもう勝負しろとは言わない。でも合同演習のパーティを組んで欲しいの。」
「パーティ?」
「あぁ。それは僕もお願いしようと思ってたんだ。タクト。良かったら僕らと合同演習のパーティを組んでくれないかい。実はタクト以外ではマリーくらいしか普段は話していなかったからね。あとパーティを組んでいないのは僕ら3人だけなんだよ」
ん?さっぱり分かりません。
え。合同演習で学園所有のダンジョンに挑戦すると。ん〜聞いてませんね。
あぁホームルームで言ってんですか。
そういえば出てませんね。強制参加ならしょうがないですが、あぁ強制なんですね。
「なるほど。ならしょうがないか。ファロンから頼まれれば断るわけにもいかないな。」
「どういう事よ!私が先にお願いしたんじゃない!」
「まぁまぁ。マリー。それはしょうがないよ。」
うんうん。イケメン好青年と高飛車お嬢様。そりゃあ扱いにも違いが出るってもんです。
「く〜!。いいわ。じゃあ何も知らないタクトに私が合同演習について教えてあげるわよ。よく聞きなさいね!」
どうやらこう言う事らしい。
当日は特進クラス全員でダンジョンへ移動。勿論リィスなどの従魔は、なし。奴隷も禁止らしい。つまりルファは連れて行けない。
貴族が多いこの特進クラスなら、従魔や奴隷くらいダンジョン探索に使う人くらいいそうなんですけどね。
つまりパーティを組んだ3人だけで、魔術学園の管理するダンジョンへ入り、5階層まで行って講師に証明書を貰い帰るだけ。
出てくるモンスターも5階層までならばLvも低く、冒険者でもなく、戦士でもない魔法使い枠の生徒だけでも、特進に受かるような生徒なら楽に達成出来るレベルのようです。
2人は他からの誘いを全て断り、どうやら私が学校に来るのを待ってくれていたらしい。
「ファロン。よろしく。あっ勿論マリーもよろしく」
「な ん で私がついでみたいな扱いなのよ!そんなよろしくされなくてもダンジョンの5階層くらい楽勝よ。ついでに宝箱の一つや二つ見つけてあっと言わせてやるんだから!」
いつものように髪を乱し、宣言するマリー。ホントに大丈夫なんでしょうか?
いつもの信頼のおけるメンバーではなく、実力もほとんど分からないメンバー。
その日から連携を確認する模擬戦を行いつつ、ダンジョン挑戦の日を迎えた。
明日7時に次話更新予定です。