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おっさんの新居と重い想い

 ベニーさんに案内され、都市から10分程の森へと向かうと、その家は確かに森の手前にあった。

 さすがは都市周辺、この辺りの魔物は定期的に討伐されているようで、危険を感じるようなことはなかった。


 といっても普通に討伐出来るくらいのレベルの魔物しか、この辺りにはいませんが。

 それに今回もルファと一緒です。まったく問題になりません。


「おぉ。やっぱりいい物件ですね」


 調薬師といっても、そこは貴族。

 その家は、開拓時に伐り倒された裏の森の大木を加工して建てられたのだろう、立派な3階建ての木造建築となっていた。

 どうやらルファも気に入ったみたいですね。


 おっあれが結界石ですか。


 物件の受け渡し時に付いてくると言われていた結界石は、薄く青みがかった拳大の石で、四隅に置かれたその石は建物をギリギリの範囲で囲うように配置されていた。


「ふわー…………。」


 ルファが感嘆の声を漏らす。

 ベニーさんが鍵を開けドアを開けると、調薬の作業場として使っていたのだろう、1階の窓と吹き抜けの天井から眩しいくらいの夕日が射し込み、広々とした空間を照らしている。


 そこは既に使われなくなってしばらく経つだけに、師匠のログハウスのような薬草の香りはなくなっていたが、空き家になってからも売る為に管理はされていたのだろうその整理された室内は、確かに香り以外はあのログハウスで見た師匠と同じ調薬師の器具が揃う作業場であった。


 その他、1階には使用人が使う部屋が入り口近くに、簡易的な水回りが備え付けられ、2階には5部屋と水回りの他、リビングダイニングに使えそうなキッチンに併設された広い部屋、そしてその水回りには風呂場も含まれていた。


 お風呂!


 これは嬉しいです。

 今まで水浴びが当たり前でしたからね。やはり元日本人としては必須な設備です。


 ルファもお風呂には入った事はないらしい。

 そうですか。そうですか。その素晴らしさをしっかりと教えてあげないとですね。


 ルファと家の中を見ているとき、常にベニーさんは周囲を警戒し、震えながら何かに怯えるようについてきた。

 なぜかこの家は、普段の管理や内覧の時は何もでないが、住み始めると様々なことが起こるらしく、それをわかっていてもやはりベニーさんは早く出たいようだ。


「既に決めてから、ここを内覧するケースは今までなかったんですぅ」


 涙目のベリーさんの限界が近付き、若干幼児化していたので心は既に決まっていたため、3階部分もサッと見て内覧を終える。


 一通りの内覧を終えて契約書にサインをする。

 もちろんそこには特約事項がびっしりと書いてあった。まぁ要約すれば住んだ後、何かあっても責任はとりませんよ。説明しましたよ。というものだ。まぁそこはこちらも問題ない。


 郵便はギルドで契約すれば届けてもらえるらしい。もしくは商業ギルド内に定期的に手紙を受け取りに行くことになるようです。


 契約を終わらせ小走りで退散するベニーさんを見送る。

 持ち主の決まったこの家の近くにいるより、魔物の方が怖くないと言う事なんでしょうか……。


 彼女の姿が見えなくなったとこで、皆を呼ぶ為手を地面へとかざす。


「召喚」


 リィス、ペル、キュリ

 が魔法陣と共に召喚される。


「すごーい」


「キ!」


「……」


 おそらくこの時間は、師匠の庭園で遊んでいたのだろう。

 急に呼び出されたリィス達が、目の前の家を見て声を上げた。


 目の前の家を見て盛り上がるリィス達に説明し、ルファと全員で家の中へと入る。


「何かいる……」


 全員で中に入り、玄関ドアを閉めたところで、ぼそりとキュリが警告の声をあげた。


 どうやら、やっぱり家の中に何かがいるようですね。


 カタ……

 カタ カタ


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


 キュリが気配に気付いたその瞬間。

 家中の物という物が一斉に細かく震え始める。


「みな気をつけて!」


 事前に説明し打ち合わせていた通り、背中合わせで円陣を組むように周囲を警戒する。


「出ていけ」


「出ていけ!」


 家の中に声だけが響き、冷たい空気が流れる。


「でーてーいーー


 そしてその声が一際大きく耳元で聞こえた瞬間


 ガンッ


 キュリが拳を振り下ろした。


 けーーーーーーーっ痛い!」


「……」


「……」


「……」


 はい。間違いなく幽霊ですね。

 霊体と言うのだろうか。薄っすらと透けているその女性は、今まさに言葉を失った皆の前で頭頂部をさすりながら痛みに耐えている。


 なんでしょうかこの状況……。


 あぁ女性とわかるのは、その蹲っているその幽霊の服装がメイド服なのと、後頭部には長い髪を纏めているのだろうお団子があるからです。


「痛い……」


 幽霊メイドが両手で頭を抑える。


「うる…さい…おちつく」


 今まさに拳骨を落とした拳を鬱陶しそうにさすりながら、キュリが口を開く。


「ん?」


 その言葉にピタリと止まった幽霊メイドが急に立ち上がり、スンスンと犬のように身体中を嗅ぎまわり始めた。


「薬草の匂い」


 そう言って暫く匂いを確かめた幽霊メイドは、見た目では30代後半であろうか。どこかホッとした表情に変わり、生前は非常に美しい人だったのだろうと想像できる顔付きに戻り、その姿からはすでに恐ろしさは感じなかった。


 今までこの女性がここの買主たちを追い出していたのでしょうか?


 キュリと女性が見つめ合う。しばらくすると何も言わないまま一筋の涙を流し、女性がこくりと一度頷いた。

 そして、そのまま霧となり、キュリの中へと入っていった。


 ゆっくりと話し始めたキュリから、事の顛末を聞く。

 あの幽霊メイドは、もともと貴族調薬師のメイドであり、貴族との許されぬ恋の間柄だったらしい。


 その貴族を想い続け、病死してからもその貴族が強制的に家へと戻されるまでその貴族を見守り続け、最後まで調薬師としてここに残ることを望んでいた元の主人であり恋人を想い。同じような調薬師がここを買ってくれるまで、この家を守るつもりだったらしい。


 だが蓋を開けてみれば、ここを改装しようとするものばかり。引っ越す前に調薬の器具を売り払おうとしたものもいたらしく、そんな彼らを追い出していくうちに、幽霊屋敷と呼ばれるようになった。


 そうして彼女自身も新たな家主を追い出していくうちに力を付け幽霊ではなく、アンデットのゴーストに彼女の自我が取り付いたようなものになっていた。そして私の匂いで調薬師とわかった彼女は、キュリに説得され、本来の目的を思い出し吸収されることを望んだらしい。


 ゆっくりとした口調で語られた説明。その貴族とメイドの重い物語を聞き終わった頃には、既に日が沈みあたりはすっかり暗くなっていた。


 そして最後にぼそりとキュリが呟く。


「……家事……クリーン」


 どうやら彼女を吸収した事によって、『家事』のスキルと『生活魔法:クリーン』を覚えたみたいです……。






種族:レッサーリッチユニーク Lv14

 名前:キュリ

 スキル

 骨吸収

 夜目

 炎属性魔法

 闇魔法

 魔力増加(大)

 魔力回復(中)

 魔力操作

 魔骨

 眷属召喚

 杖術

 裁縫

 ★家事

 ★生活魔法


実際はクリーンではなく生活魔法です。タクトの生活魔法はクリーンのイメージが強いので、キュリの呟きは間違いではないです。



読んで頂き有難うございます。

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