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おっさんの希望と相場という現実

「こちらで都市内にある条件に近い、予算内の物件の全てとなります……」


「…………。」


 意気消沈

 茫然自失

 とはこの事でしょうか。


 一瞬の沈黙とともに、机には3軒の物件資料が置かれた。今日一日かけて内覧した物件だ。


 はい。昨日のワクワクは既にありません。


 1軒目

「こちら冒険者ギルドから近く1階が店舗2階、3階が居住空間となっております。建物の裏は小さいですが庭も……お値段1500万トールとなります。」


 予算通りですね。とベニーさんが言う物件は

 冒険者ギルドの近く。つまり都市の入口に近く大通りに近い店舗物件。つまり都心の一等地なのでしょう。

 小さい……。

 何が小さいって全て小さい。店舗も居住空間も。そう狭小住宅。庭?いやあれは広めの花壇です。


 “却下”


 2軒目

「こちらは少々、学園からもギルドからも離れておりますが、その分建物は広々と使っていただけます。前よりも少々お安くお値段1400万トールとなります」


 そう案内された物件は、なるほど確かに建物“は”広い。比較的広い通りに面したその建物は、隣接した両隣の建物3つ分を繋げて改築してあるのだろう。強度は大丈夫なんでしょうか?


 それにさらに裏の家を取り壊して庭にする事も可能……。


 が!


 周辺を見渡す。スラムだ。ここはどこの都市にもある影のあるものが多く住むエリアなのだろう。

 あっパン屋からパンが盗まれた……。あっまた……。


 最悪な環境です。


 “却下”


 3軒目

「ではこちらはいかがでしょうか。お値段は1750万トールと少し予算を超えますが、学園に近くの居住区のように整理された区画ではありませんが、元はこちらの寮を建てたオーナーの住む住居。庭もあり、1階、2階を改装すれば店舗とも住居とも使って頂けます」


 は〜。

 とうとう店舗用地は除外されたようですね。


 周囲をびっしりと4階建てのアパートのような寮で囲まれた旗竿地の奥にある一軒屋。確かに建物の前を庭にする事も出来る。


 が!


 予算を少し超えるどころか、1階に水回り全てが集中し、店舗に改装するならばほぼ新築を立て直した方が良いレベルだ。買った後に予算が足りなくなるパターンです。

 それに寮のベランダのような部分が全てこちら側に向いている。常に見下ろされている環境下でリィス達を出せるわけがない。


 今も上から視線を感じる……。


 ”却下!“


 これが今日一日、物件を見て回った結果だ。


 3軒目を見たところで日も暮れ、商業ギルドへと戻ってきていた。


「こちらで都市内にある条件に近い、予算内の物件の全てとなります……」


 収穫のない物件巡りがこれ程疲れるとは……。

 不動産とは探す方も、案内する方も労力を使うんですね。


「そうですか。やはり厳しいですね。」


 ん?


 ん?


 沈黙を破り、口を開いたところで違和感に気付いた。


 こちらで都市内にある条件に近い、予算内の物件の全てとなります?


 都市内にある?


「あの!もしかしてですが都市内でなければあるんですか?!」


 そう。

 確かにベニーさんは都市内にはと言った。


 つまりは希望する駅ではなく、沿線沿いならと言っているようなもの。


「そう……ですね。たしかに都市の外。都市結界の外にならあります。もちろん都市の外になりますので、店としては向いていないと思います。ただそれ以外の条件はタクト様のご要望通りかと。」


「でも都市外だと魔物が出るんじゃ」


「結界石で囲って頂ければ大丈夫です」


 おお安心ですね。


「門の外にそんな建物は……」


「都市から大体10分程のところですね。築3年で綺麗ですよ。」


 おぉいいですね。いいですね。


「広さは……」


「広いですよ。元々少々変わった調薬師が住んでいましたが、貴族の二男だった為国に戻されたようです。敷地はご自身で適当に決めて結界石で囲ってください。まああまり広くすると結界石への魔力補充が大変になりますが」


「敷地が適当?」


「はい。森の近くの開拓された土地なので、森を切り拓いた部分は自由が認められます」


 あっ裏は森なんですね。材料採取がしやすいです。


「貴族が住んでいたならお高いんじゃ?」


「お値段なんと家具や調薬の器具その他諸々含めて、800万トール!」


 あっ……。これダメな奴ですね。これが出し渋っていた理由ですか。


 敷地はある程度自由。

 築3年の貴族が立てた。図面上でも間取りも希望通りの結界石家具付き一戸建て。

 更に結構な値段のする調薬器具その他諸々付き。


 そんな好条件の物件が800万トール!

 これはつまりは、所謂事故物件。殺人。自殺。その他諸々。何かしらあって価値が下がった物件。売る際に説明が必要な物件。


 と言う事ですね。


 そろっと置かれた物件の詳細資料。

 3,200万から始まり、2,000万、1,500万とバツ印が付き、最後に大きく800万と修正されている。


 売れなかったんですね。


 そして、スッとベニーさんが資料の端に指を置いた。


 ※注意

 当物件は、居住後精神を病む可能性があります。

 当物件は、結界石では排除できないアンデット系 (ゴースト)が存在する可能性があります。

 当物件は、居住後家具や食器などが動く、勝手に壊れる場合があります。

 当物件は、壊そうと故意に傷をつけようとすると深刻なダメージを受ける可能性があります。

 当物件居住後の身体的、精神的なダメージによる苦情は受け付けません。

 当物件は再販売時買い手がつかない可能性がございます。


あれ?これって……


「この物件……。出るんです……建て壊すにも既に何人も犠牲者が出ておりまして……いかがでしょうか」


 そう言ったベニーさんはぶるっと震えた。


「あっここにします。」


 そんなベニーさんに悩む事なく伝えた。


 その答えに「は?」と驚きの表情で固まるベニーさん。


 プロの不動産屋がそんな顔しちゃダメですよ。


 なんせこちらにはキュリ(リッチ)がいますからね。


 はい。全く問題ありません。


魔術学園都市の基盤作りそろそろ整いそうです。

やっぱり住む所は重要ですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] これ家精霊とかブラウニーとか 器物の怪や付喪神みたいに家が妖怪化とか 妙ちくりんな事になってるのか?(スットボケ
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