おっさんの欲とエルフの秘伝
「随分と慕われているようだなタクトくんは。子供ら2人も随分と君を気に入っているようだ。君には人を惹きつけるなにかがあるんだろうね。」
「そうなら嬉しいですね。でも確かに良い出会いには恵まれています。トゥールさん達との出会いもその一つだと思ってます」
一期一会とは言わないが、この異世界に来てからその出会いに助けられてきた。
こうしてエルフ族と縁が出来たのも、またその一つなのだろう。
「そうだな。トゥールやトゥーレともこれからも仲良くやって欲しいものだ。さて。お仲間の心配事も解消したようだし話を進めさせてもらって良いかな?」
「あっ……」
にこりと笑いかけるトゥーリさんに頬をほんのりと染めるルファ。
ふむ。イケメンですね。
「はい。皆様の前ですみませんでした」
ルファが、頭を下げる。
「いや異世界云々を持ち出したのはこちらからだからね。悪いのは私だよ。それでだ。タクトくん。娘のトゥール。息子のトゥーレを盗賊より救ってもらった礼をしたい」
?
トゥーリさんの纏っていた雰囲気が一変する。
掛け替えのない2人の命を救ってもらった父としてテーブルに額がつく勢いのまま頭が下げられる。
「えっともう既に木札を頂いてますし、これ以上は……」
「いや。それはエルフ族として一族を救ってもらった者への感謝の印。私が今いっているのは父としてのもの。だが正直異世界の常識を知らぬ私では、タクトくんに何を贈れば喜んで貰えるかが分からぬ。だから教えて貰えないだろうか。」
その言葉に自分自身、何を欲しているのか考える。確かにそう言われてみると、すぐに浮かんでくる物がない。
金……?いや。必要ではあるが今は十分にある。何よりも2人のお礼に金額をつけたくはない。
物……?実際この世界で趣味と呼べるようなものはなく、それ以上に物欲が湧かない。
人……?里のエルフを!何て言うほど精神的に病んではいない。それではあの下衆共と同じになってしまいます。
人・物・金。
どの世界でも皆が考えるような事は同じですね。
では私は何を望んでいるのでしょう。
………………。
「ん〜欲。欲。欲。ん〜敢えて言うなら知識欲ですかね……」
オタクの入口に片足を入れていたとはいえ、元の世界では収集欲も独占欲もなく。どちらかといえば異世界への好奇心や作者達の想像力に対し興味を持っていた。
それに物で渡されても、勿体無くて使う事が出来なさそうなんですよね。
その点、この世界に来てから自分の命を繋いできたのは、間違いなく師匠や師範から教えであり、図書館や資料室で得られた知識であった。この世界の常識から思想。周囲の魔物の情報まで、調べられる範囲でなんでも調べた。
「ほぅ。知識欲。君も立派に魔導師なのだな」
トゥーリさんの言葉に、隣に座る師匠がどことなく嬉しそうな、そして誇らしそうな表情を浮かべた。
「分かった。それならば一つエルフ族の秘伝を伝授しようじゃないか。そうだそれがいいな。トゥールからタクトくんはポーション作りが得意と聞いた。ならばこれから教える技術は必ず役に立つだろう。」
悩みが解消されたと豪快に笑いながら、両膝を力強く叩くトゥーリさんが立ち上がり、後ろに控えていたエルフの一人に耳打ちすると、そのエルフの持っていた魔石布から質の良い薬草が出てきた。
「これは、ここに来る途中で採取した薬草だ。丁度質の良い薬草の群生地を通ったんでな。さて。これから教えるのはこの薬草に魔力を与える方法だ。どうだ興味はあるかい?」
薬草への魔力注入。
それは調薬師や錬金術師などポーションを作る事を生業にしている者ならば一度は試す事ですね。
そして、これがエルフ族の秘伝とトゥーリさんが言った理由。
成功した者がいないんですよね。
ポーションの作成者として、まず始めに考えるのがいかに回復量を増やすかです。
薬草の質を上げる。材料の組み合わせや質を変える。
そして、様々な工夫の中で誰しも考えるのが、薬草の魔力量を増やせば効果が向上するのではないか。
つまりは薬草への魔力注入となる。
そして挑戦する。
薬草を持ち、自らの魔力を通す。
そして結局皆ここで諦める。
魔力を少しでも通した瞬間。問答無用で薬草が枯れてしまうのです。
興味があるか?
勿論です。
「はい。勿論です。私も何度も挑戦しましたが。成功する糸口さえも掴めてません」
手に薬草を持ち、片方の手に魔力を集中させ『融合』。
こんな簡単に出来れば苦労はないんですけどね。手に薬草のを持って、魔力を片方の手に込めようがいつもの直感は働かず、その『融合』が失敗する事はやる前から明らかでした。
結局あの時の結果は、ただの魔力注入になり、残ったのは枯れ果てた薬草でしたね。
「では見て貰おう。まぁ秘伝といってもエルフ族なら誰でも出来るからね。実はそこまで門外不出というようなものではないんだ」
問題は適正さ。と言いながらトゥーリさんがテーブルに置かれた薬草を手のひらに置くと、その瞬間薬草が表面がうっすらとひかり、目に見えて薬草に内包されている魔力の量が増えた。
凄いですね。これがエルフの秘伝。
さすがは、植物と共に生きる森の民と呼ばれるだけの事はありますね。
同時に師匠が唾を飲み込む。
魔術師として薬師として頂点にいる師匠ですら成功させる事が出来なかった。
その技術が、いとも簡単に目の前で行われた。
指導は、トゥーリさん達が帰るギリギリまで続けられ、何とか習得する事が出来た。
実際その方法は、圧倒的な魔術のセンスが必要なだけで、確かにエルフだから出来ると言うものではなかった。
それは、薬草を触る前に魔力の質を土、水、火を6:3:1で複合して満たした状態で魔力を与える事で、師匠は早々にマスターしてしまった。
指導がギリギリになった理由は、まあ私にその素養が足りなかった。というのが一番の理由なんですけどね。そもそも水属性魔法がまだ使えませんしね。
結局私の魔力の質……特性に気付いたトゥールさんの一言で師匠達とは違うやり方ですんなりと成功してしまった。
「よかったな。タクト。その方法は私達エルフ族もまず無理だろう。普通は属性が偏ってしまうからね」
そう。どの属性も偏りのない魔力を持つ私だからこそ出来た方法。
つまり普段少し漏れている属性を抑え、純粋な魔力を注入したんですね。
ギリギリまで訓練に付き合ってくれたトゥールさん達とも、別れの時間がきた。
「絶対に里に来いよ!」
トゥーレさんからは背中を力強く叩かれ、待ってるからなと固く握手を交わす。
そして最後に残ったトゥールさんが近付き
「タクトに精霊の加護あれ」
そう小声で言いながら頬へと軽くキスをした。
「それではなタクト。私もいつか里で会える日を持っているよ」
そう言って馬車へと乗り込むトゥールさんを、顔全体を熱くさせ、立ち尽くしながら馬車を見送る。
ルファの顔がこわいです……まぁ今のは別れの挨拶って事ですよ。
「行っちゃいましたね。」
そう言ってルファの頭にポンと手を置く。
それだけでルファの顔がフニャっと柔らかくなり、尻尾が大きく揺れる。
やはり可愛いですね。
そんな中で師匠だけが動かない……
「師匠?」
「ヌシは……エルフのキスを受けるということがどういう事か分かってるのかい?」
どうやら、またやらかしてしまったみたいですね。




