おっさんの願いと魔王の真実
応接用の部屋へと入ると、そこにはトゥールさん達の他に3人のエルフの姿があった。
テーブルの上の紅茶の入ったカップに手を付けられた様子はなく、トゥールさんとトゥーレさんが中央のエルフの男性としっかりと抱きあい。無言で涙を流している。
「おぉジーマ殿にタクト。すまない。こんな姿を見せてしまって」
スッと姿勢を正し、目元の涙を指で拭うのは、盗賊より助け出したエルフの姉弟の1人。凛とした顔立ちは美しく整い、その立ち姿は麗人と表現するに相応しい姉のトゥールさん。
「おっタクト。悪りぃな。こんな姿見せちまって。紹介するぜオレ達の親父のトゥーリだ。」
そして少し荒々しい口調で、先程迄抱き合っていた男性を紹介するのが、キリっとしたイケメンの弟トゥーレさんだ。
そして紹介された中央のエルフが2人の一歩前に歩み出る。
でかい!
先程まで、かがんで2人と抱き合っていたのだろう。背は頭1つは2人よりも高く、その容姿こそエルフ的な若々しさはあるものの、その体躯はエルフの魔法型の華奢な身体つきではなく、胸板で服の胸部が張り裂けそうな筋肉質の体。
控える2人の迎えにきたエルフをチラリと見れば、整った顔に華奢な体。そしてローブ姿であるのを見ればこちらが普通なのでしょうね。
「ジーマ学園長。そしてタクト君。この度は子供達を救って頂き感謝申し上げる。里の者達が、手を尽くし捜索していても見つからず最悪の未来を想像していた。本当にありがとう」
そう言って差し出された手を握り返す。
「いえ。偶然ですから」
「それでもだ。いつか里総出でもてなさせてもらおう。まずは、これを受け取ってはくれないか」
そう言って渡された木製のキーホルダーを受け取ると、それを確認した師匠の目が一瞬で見開く。
「お…おぉ……?」
「勿論。ジーマ学園長にも用意させて頂いた。是非一緒に訪ねて欲しい」
小さく奇声を発していた師匠が、目を見開いたまま仰々しく受け取る。
なにか特別な物なんでしょうかね?
「はっはっは。ジーマ学園長。そんなに畏まらんでくれ。タクト君のように軽く受けとって欲しい。これはね里がある森の結界……まぁ侵入者を迷わせる結界を無効化する御守り。通行許可証のようなものだな。里の一族を救ってくれた2人はいつでも来て欲しいということさ」
あ……。
そういう事ですか。魔導師にとってのエルフの存在。前に師匠が言ってましたね。そのエルフからエルフの里にいつでも行ける許可を貰ったって事になるんですね。
なるほど。それはこんな感じになりますね。では……
固まっている師匠の頭に手を伸ばす……
ピシっ!
その瞬間。払うように頭に伸びた手を叩き落とされる。
あ……ダメでした。折角のチャンスだと思ったんですけどね。さすが師匠。良い警戒心です。
「ふははは。やはり聞いていた通り面白い青年だ。さすがは異世界から来た青年と言ったところか。」
「えっ?」
一瞬で背中に冷たい汗が吹き出る。おそらくポーカーフェイスのスキルは発動してないだろう。
「無駄に歳はとっていないさ。こちらの世界では珍しい黒髪に、そのどの属性にも染まっていない純粋な魔力。この世界で育てばそんな魔力を持つ事はないからね。そして決め手は君のその顔かな?驚き過ぎだな。それでは正解と言っているようなものだろう?」
予想通り、ポーカーフェイスのスキルは発動していなかったですね。
しかし……商人に冒険者ギルド、そしてエルフ。バレ過ぎじゃないですか?
「無駄に歳はとっていないさ。見るものが見れば分かる。普通に隠し通せるのは人族との間くらいだろう。それほどその魔力の質は異質なんだよ。覚えておくといい。」
ははは……
普通に人族にも隠し通せてないですけどね……。
まぁこちらから言わずに向こうが知る分には契約違反ではないですからね。
もう隠す必要はないでしょう。
異世界人だという真実を知らなかったトゥールさん達は、お互いの顔を何度も見合わせ分かりやすく動揺していた。
そして言葉の端々に勇者という単語が出始めたところで、取り敢えず場を落ち着かせる為に、師匠は皆を席に着かせた。
一通りこの世界に召喚されてからの経緯を説明する。
輝度の判明以降、勇者ではなく巻き込まれであると知った2人の表情は明らかに沈み、申し訳ないとしきりに頭を下げていた。
「なるほど巻き込まれか。」
そう低い声で呟いたトゥーリさんの表情からは、先程までの明るい表情は消え、どこか怒りを抑えるような顔付きに変わっていた。
「まだそんな事をやっているのかあの国は。人族至上主義という思想は相変わらずだ。よいかタクト君。魔王という存在は悪ではない。それどころか好戦的な魔族達の中で、魔国をまとめこちらの世界の秩序を守ってくれている。それを勿論アルグレント王国の者達も知っている。だから倒す気なんてないのさ。せいぜいこちらに来た魔族を狩るくらいだ。奴らの狙いはいつの時代も周辺の国々だ。つまりいつの時代の勇者も戦争の道具というわけだよ」
この世界に来てから、自力で戻る事を諦めていた。セイドウくんなら魔王を倒せるのだろうと
だからこそ、今まで魔王の存在を改めて師匠や師範等関わりのある人達に聞いてもいなかった。
師匠も魔王を倒せば帰れると言われているとは知らず、驚きの表情を浮かべている。
魔王を倒せば元の世界に帰れる?
魔王を倒さなければ帰れない?
アルグレント王国に魔王を倒す意思はない……
じゃあ戻れないのですか?
「あの……でも勇者…ヒジリは魔王討伐の為にパーティを……」
そう言い掛けたタイミングで師匠が会話に加わる。
「タクトや…すまぬ。そんな事情があるとは知らんかった。あれは言わば建前じゃ。本気で魔王を討伐する気などあの国にはありはせんのじゃ」
「そう…なんですか。それでは前の勇者はどうなったんですか?帰る方法をみつけたんですか?」
おそらくはトゥーリさんは、前の勇者の事を知っているのでしょう。質問に対し顔が歪む。
「すまんな。そこまでは分からない。前の勇者はこちらの世界で生涯を終えている。魔王も倒されてはいないしな」
倒せなかったのか、倒す気がなかったのか。
どちらにしても、もう元の世界には戻れそうにはありませんね。
膝の上で握り込んでいた拳の上に、そっと師匠が小さな手を乗せる。
どうやら知らぬ間に震えていたようですね。
体の震えが止まると、優しく肩を叩かれる。
振り向くとそこには不安な顔を浮かべるルファがいた。
「帰ってしまわれるんですか?タクト様……」
自分に奴隷契約とは別に、生涯の忠誠を誓った天狐族のルファ。
私はそれに応えると誓った。
ルファの顔を見た瞬間。心の中で渦巻いていたモヤモヤとした感情が消え去っていく。
あぁ。最初に思ったほど、元の世界に帰りたいと思っている自分はもういないですね。
ゴミだクズだと追い出され、倉庫のような場所に放り込まれそのまま世界に放り出されると思っていた。
だけど今は違います。
師匠と出会い師範と出会い、様々な出会いを重ね今がある。
何よりルファやリィス達と出会えた。
そう思うと自然と口から言葉がでた。
「大丈夫ですよ。多分帰れないです。それに帰るつもりもありません。だからみんなで“ずっと一緒に”住める家を探しましょう」
トゥーレ君は父親の影響受けてますね。肉体派エルフを目指して頑張ってます。
最終回みたくなりましたが、まだまだ続きます。
昨日久しぶりに更新したところ多くの皆様からブックマークや評価を頂きました。
こんな遅い更新の中待って頂いた皆さん。ありがとうござます!




