おっさんの従魔登録とテイムの常識
「そうですか。すみません。では依頼の達成報告と従魔の登録をしたいのですが、どの窓口に行けば良いですかね」
心の中で突っ込みをいれ、声をかけてくれているギルド職員に改めて窓口を確認すると、ニコリと笑いゆっくりと一番近い窓口を手で示す。
「いえいえこれが仕事ですから。依頼の達成報告でしたら正面の窓口でお受け致します。依頼の達成の為大きな荷物をお持ち込み頂く場合が多いので、達成依頼と納品の窓口は一番近くに配置させて頂いております」
分かりやすくなっております。
と言う女性の開いた掌の指先には、4つの窓口が広く間隔をあけ設置され、受付嬢が依頼の達成の処理にあたっていた。
「ありがとうございます。えっと……」
「案内人のフレーシアです。」
こちらが聞く前にスッと上品に頭を下げる。案内人の名はフレーシアさんと言うようだ。
何処と無く気品を漂わせるその姿が非常に印象的だった。
「すみません。フレーシアさん。D級冒険者のタクトです。これからお世話になると思うのでよろしくお願いしますね」
自己紹介と共に、首元からコバルトブルーに輝くタグを出す。
「あら。丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね」
微笑みながら頭を軽く下げるフレーシアさんに、改めて礼を言いそのまま正面の窓口へと向かう。
朝のこの時間から依頼達成の報告に来る冒険者は非常に少なく、ほとんど並ぶ事なく順番となった。
「いらっしゃいませ。依頼の報告でよろしいですか?」
「はい。護衛依頼の報告をお願いします」
慣れた手付きで処理を進める受付嬢の手が止まる。
「おや。タクト様に返却金の入金がございますね。かなり高額になっておりますが、このまま一括で入金致しますか?それともギルドの口座へと入金致しますか」
「ちなみに幾らでしょう?」
多少は自分で持っていた方が良いだろうと思ったが、ギルド職員が一瞬でも手を止めるほどの金額が気になる。
「はい。こちらです……」
すっと金額の書いてあるメモが差し出されると、そこには小さく『16,000,000』と書いてあった。
金額が多いからだろうか。受付嬢がメモで金額を告げるのは……。
予想以上ですね……。
明細を見れば
返却金だけで1,280万トール。その他盗賊の引き渡しで150万トール。武器売却で50万トール。そして盗賊達がもっていたのが約20万トールであった。
すぐにギルドで預かって貰えるように告げる。
そんな金額を持ち歩くなんてとんでもない。
たしかに現金のないキャッシュレスな世界ではあるが、身分証でもあり財布でもあるタグから無理やり脅して奪うことは出来る。
その点ギルドならば安心して預かって貰えます。
作った口座に入金されるのを確認すると、やっと安心する。
ちなみに返却金が高額になった一番の理由は、宝石の散りばめられた短剣のお陰だ。
1,000万トール以上の高値のついたその短剣は、オークションに出し、売れていれば数倍の金額になっただろう。
ただ貴族の物を、敢えてオークションに出すのはあまりよいものではない。そこは欲張りません。
一通りの手続きを終わらせると、タグをしまう。
「そういえば従魔登録もしたいのですが」
報酬のやり取りが落ち着いたところで、肩に乗っていたリィスを一撫でしながら登録の希望を伝える。
どちらかと言えばこれが目的と言っても過言では無い。
「あら。その子達ですね。随分可愛らしい。従魔の登録ならここで大丈夫ですよ。依頼達成後などに従魔を従える事が多いので同じ窓口で対応しております。」
ちらりと肩の上に乗っているリィスとペルを見ると1枚の紙を取り出す。この街の従魔は荷運びや戦闘に使われケースが多く、リィスやペルのような小型で、さらに戦闘向きではない魔物を従えるテイマーは少ないと、優しい眼差しでもう一度リィスとペルを見ながら受付嬢が教えてくれた。
どうやらリィス達はペット的な従魔だと思われているようですね。
「はい。この2体の従魔登録をお願いします」
登録用紙に、リィスとペルをそれぞれスライムとビックバットとして記入する。
「はい。確かに承りました。ではそちらの従魔証を外しこちらへお戻しください。それとステータスカードをお出しください」
指示通りリィスとペルから従魔証を外し、カードと共に渡すと受付嬢は受け取った従魔証をカードへとつける。
その瞬間。従魔証から淡くひかる青い光がカードへ飛んだ。
「これは?」
「はい。これで従魔登録の完了です。門で受け取って頂いた従魔証はテイム状態になっていない魔物には取り付けられませんからね。ちなみに登録していない魔物は1度目は結界に弾かれます。なので街中にいる従魔証のない魔物は全てテイムされ登録済みの魔物ということです。安心してくださいね。それでこれを取り付けられた時点で魔力が登録されますので、その魔力がステータスカードに移ったのです。確認してみて下さい」
そう言って返されたステータスカードを確認する。
名前 タクト・マミヤ
年齢 17
スキル (融合) 採取Lv2 魔法操作Lv4 棒術Lv3 殺傷耐性Lv2 土属性魔法Lv3 生活魔法Lv2 火属性魔法Lv1 ステータスカード
輝度 43
その他
冒険者:D
∈ : S
従魔:リィス 《スライム》 ペル 《ビックバット》
(眷属 :リィス ペル キュリ)
奴隷 :ルファ
しっかりと従魔として登録されたリィスとペル。
眷属の欄は他人には見れないため、純粋にリィスとペルが従魔であると対外的に証明されたことになった。
キュリは見た目普通の少女の為今回は見送った。そもそもこちらの世界の常識では、アンデットをテイムする事などできないらしい。心を通わせるか、屈伏させた状態で自分の魔力を与え、魔物に自分の魔力で染める事で従わせるのがテイム。そして低位のアンデットに心はない。一方的に命令に従わせる操り人形のようなものらしい。そして高位のアンデットになると心がある者もいるが、その分一方的に操る事が難しく。それ以上に、高位のアンデットは魔力値が高く、屈服させ自分の魔力で染めるれるほどの魔力の質と量を持つ人族はいないと言われている。実際あの時のリッチも墓場にいたスケルトンを自分の魔力で操っていた。
ちなみに受付嬢が可愛いと表現したスライムやビックバットなどの小型で低位の魔物は魔力量も質も低く、すぐにテイムできるが役にあまり立たない為珍しいらしい。
まぁ見た目普通に小さなスライムとバットですからね……。
そして一番の理由は、なぜか魔物であるはずのキュリは結界に弾かれることなく門を通過出来てしまったのだ。アンデットだからかリッチだからなのか。それとも融合魔物はそもそも弾かれないのか。そもそも師匠から門の魔物用の結界の事は聞いていない。
忘れていたんですね師匠……。
普通に門で渡された2つの従魔証を受け取りリィスとペルにかけ、結界の事など知らずに門から街へ入ったが、受付嬢の説明の通りならばここで魔物を隠して入ろうとしても弾かれているはずだった。
この世界には鑑定石以外でこちらが許可しない限り、勝手に他人のステータスを視ることは出来ない。師匠の鑑定もこちらの許可なくしてステータスまでは見れない。冒険者や商人のように登録さえしなければステータスカードを出す事はないですからね。
まぁ暫くはこのままでいいでしょう。
「それじゃあ師匠のところに戻ろうか」
従魔登録を終え、ギルドから出れば目的地までは迷う事はないだろう。
この街のどこからでも見える。この街の中心。それが魔術学園だ。
今年最後の更新になると思います。
体調を崩してから、うまく筆が進まず更新が遅れてしまいましたが、多くの皆様に読んで頂き本当に感謝でいっぱいです。ありがとうございます。
皆さま良いお年を!




