本編開始前に断罪された悪役令嬢らしきものが俺の背中で泣いている
「ひっぐ……ひっぐ……あぐやぐれいじょうなのよわだじ……りーなの…らいばるに…」
俺の背中で、金髪縦ロールが泣いてる。
クラスで急に泣き出したから、その時話してた俺が医務室に連れて行く途中だ。
背中が段々しっとりしてきた。どんだけ泣くんだ。
恥ずかしいやつだな。もう俺たち10才なんだぞ。
こないだやった、リーナの机かくし。誤解だった悪いうわさ。そのお詫びで、この金髪縦ロールことロザリーは、半年以上リーナの家の酒場で働いていたらしい。今日それがみんなにバレた。そんなに泣かなくても。
リーナはすげえ奴だ。いじめをする悪いやつに学校を辞めさせるって、なんと教壇でタンカを切った。
机を捨てたのは俺だ。なのに俺はかっとなって、ばかにされて、思いっきり殴った。
女の子の顔を。
だけど先生が来ても、リーナは転んだの一点張り。
おなかのあたりがむかむかした。
なんだよ。かばうなよ。言えよ。ばかにするな。
なんか、だいじなひとことが、言えなくなった。
いつも、言おうとする。でもリーナはあれからいつも、俺のことわんわん君ってばかにするんだ。
確かに犬みてぇにみんなに言われて机隠した。
だからあのさ、言いたいことが。腕相撲じゃねえよ。なんで勝てねえんだよ。そうじゃねえよ。わんわん言わせんな。ああもういらいらする。
今も俺は、だいじなことを、言えていない。
だから、俺の背中をぐしゃぐしゃに濡らしてわめいているこいつは、すごい。
リーナの家で働いてた?なんだよそれ。俺も混ぜろよ。なんか、だいじなことは言えなくても、それならできるような気がする。
元々、ロザリーは俺たちと違ってお貴族様っぽいなと思ってた。でも、あれからいつも学校でぐったりしてて、手にすりきずも沢山つくって、隙さえあれば寝てばかりいた。
おまえ、がんばってたんだな。
俺と、違って。ちゃんとがんばってるよ。
「ひっぐ……ひっぐ……ずびー」
ちょ、ひとの背中で鼻かまなかった今!?
うええ、背中がぐっしょりする。
べたべたの手が、首の前に回された。
やけに細くて、弱っちくて、ぼろぼろだ。
胸のあたりがむずむずする。
わかったよ。おまえはすごい。だから泣くな。今度から、俺も手伝いに行くからさ。
おそくなったけど、一緒に、あやまるから。
医務室は、もうすぐだ。
なんでなのか俺は少し、遠回りをした。