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捏造の王国

捏造の王国 その2 “勝っては来たけど憂鬱だよー”byアベノ総理&“全部嘘さ、秋のオキナワ公約は幻~”byザキマ候補

作者: 天城冴

シリーズ前作で作成された”ホンネちゃん”がさらに意外な使い方をされてます。

「ガース長官、本日は満月ですねえ」

長官の側近であるニシムラムラ副長官はつぶやいた。中秋の名月の翌日、今日も遅くまでアベノ総理の演説の草稿作成やらスケジュール確認に忙しいが、たまには月でも眺めて心を穏やかにしたい、あの件もあったし。ニシムラムラがカーテンを開けようとすると

「だめだ、満月などみたくない」

ガース長官が止めた。いつものように静かな声だが、怒りというか苛立ちがみられる。

「は、はあ」

不思議に思ったニシムラムラがガース長官をみると、彼は両手で新聞を広げ、力いっぱい左右に引っ張っている。

「ちょ、長官、何を」

「気にいらない新聞を真っ二つに引き裂く、というアレをやろうとしているのだ」

それは漫画でしかありえない場面では、と言おうとしてニシムラムラはガース長官の持っている新聞をみる。

“トーキョーニチニチ新聞”

(げ、まさかガース長官の宿敵、マンゲツ・イソラがまた会見で鋭すぎる突込みをしたのか!)

「あの長官、し、新聞を引き裂くなら、シュレッダーで」

「いや、手でやる。マンゲツ記者にオキナワ知事選挙に応援に入った時に、応援演説でつい口にしてしまったモノレール車両の件で、“嘘ならどうなさるおつもりですか”と突っ込まれ、“そちらこそ嘘書くのなら新聞を引き裂きますよ、この手で”といってしまったのだ。私の手で引き裂かないと嘘をついたことになる」

(いや、普通に両手でビリビリ裂けば、って裂き方まで約束したのか)

ぐわわわわ、フン!

奇声をあげてガース長官が思いっきり新聞を引っ張る。

が、新聞は裂けるどころか、パンパンと音を立てて、その丈夫さをアピールする。

「はあ、はあ。や、やはり無理か」

いやそれは無茶すぎ、とニシムラムラは内心思っていた。

ガース長官はようやくあきらめてトーキョーニチニチ新聞を机の上に置いた。

「長官、やはり漫画のようなわけにはいかないでしょう、普通に前後に引っ張って引き裂けばよろしいのでは」

「しかし、試しに先ほどフジサンサンケイ新聞で同じことをやってみたら、すぐに引き裂けた。なぜトーキョーニチニチは無理なのだ」

(それはデマばっかりだから、じゃない紙の質や枚数の関係かも。トーキョーニチニチはいい紙を使ってるんだ、記事も良質だしなー)

なぜガース長官はそのことに気が付かないのか。フジサンサンケイより地方紙であるはすのトーキョーニチニチのほうが(販売店に押し付ける発行部数を除いた)真の読者数が多く、人気が高いから紙質もいいことに気づきたくないのか、長官は話題をずらした。

「例のホンネちゃんアプリをダウンロードしたスマホは記者会見場に持ち込み禁止にした。また、ザキマ候補の演説会や街宣ではスマホを持っているものがいないかチェックをしたから、デマだなんだと騒ぐ奴らはいないと思うが」

「しかし、その、携帯電話料金を下げるとか会議ニッポンとは無関係だとかを明言したのはよくないのでは」

ニシムラムラは不安そうだ。それもそのはずザキマ候補の明言した公約だの、経歴などは嘘と誤魔化しにあふれていた。いくら本音まるわかりスマホアプリ“ホンネちゃん”絶賛ダウンロード中を禁止したところで、すぐにバレるのは目に見えている。

「ザキマはギノギノワン市長選で、ディズニーパークの誘致を約束して勝っている。公約が実現できるかどうかはともかく風呂敷を広げればいいと思っている節があるのだ」

長官は演説で出まかせを言うなどたいしたことはないと思っているようだ。ニシムラムラはいつものように長官にお気に入りの玉露を淹れながら

「しかし、すでに嘘と見抜かれて」

ニシムラムラが言いかけると、同じく副長官のシモシモダが部屋に飛び込んできた。

「シモシモダ君、ノックぐらいしたまえ」

ガース長官の注意も耳に入らぬかのように、シモシモダは息を切らしながら

「た、大変です、アベノ総理が引きこもられて、部屋から出ないんです!」

ガース長官は飲もうとしていた茶碗を思わず倒した。最高級玉露が引き裂かれたフジサンサンケイ新聞の上に広がる。

「なんだと、そんな馬鹿な。総理は総裁選を勝ったのだ。なんで引きこもったりする。ジコウ党員の水増し幽霊党員票まで無理やりかき集めて党員票は過半数をクリアしたし、議員どもは連判状やら冷遇を脅し、役職で釣って八割の票をとったのだ。金と脅迫と誤魔化しとの非難が出ようと勝ちは勝ちだ!今はオキナワ知事選が一番の問題で」

「それがそのアベノ総理がスマホにホンネちゃんをダウンロードしまして」

「なんだと、官邸に出入りする人間はすべてホンネちゃんダウンロードを禁止したはずだぞ」

「何分、アベノ総理ですから、禁止されても」

禁じられても、抑制が効かず、ついやってしまうのがアベノ総理。その自己中ダメっぷりはわかっていたのに。ガース長官は総理からスマホを没収しなかった自分の迂闊さに歯ぎしりする。

「それが、なぜ引きこもりの原因なんだ!」

珍しくガース長官は怒りをあらわにしていた。天敵マンゲツに詰め寄られ、逆ギレして“私が答える場ではなーい”などと記者会見の席でトンデモナイことを口走ったときのようだ(作者注:ニホン国では表向き、政府公式記者会見では長官が記者のどんな質問にきちんと誠実に答える場ということになっています)。

「そのエゴサーチといいますか、ホンネちゃんを使って周囲の声を知りたいと」

「な、なぜそんな危険なことを、私なぞ絶対にやらないぞ」

周囲の本音を知ったらショック死するかもしれんと冗談とも本気ともつかぬ風にガース長官が言っていたのをニシニシムラは思い出した。

「ダウンロードしてから、すぐに官邸のものたちにスマホを向けられて」

そ、それじゃあ。ガース長官と二人の副長官は青くなった。


毎朝のウォーキング中、アベノ総理は付き添いのシモシモダが止めるのも聴かず、ホンネちゃんをダウンロードした。

「ふふふ、官邸だと煩いガースがダメっていうからな。外に出たときにやればいいんだ、僕ってなんて頭がいいんだろう」

子供のイタズラ的発想を自画自賛するアベノ総理。ウォーキングを終え、官邸に戻ろうとしたとき、門の警備員が挨拶してきた。アベノ総理は早速ホンネちゃんの入ったスマホを秘かに警備に向けた。

「おはようございます、アベノ総理(ホンネ:おはようさん、アベノ阿保バカ隠蔽捏造総理さまさま、帰ってきやがったか)」

「わあ、お、お前僕をバカにしてるなあ」

警備の本音に早々にキレまくるアベノ総理。そばにいたシモシモダが必至で抑える。もちろん自分にスマホを向けられないよう、シモシモダは総理の手首をしっかり掴む。

「ええい、は、離してくれ。こいつは嘘つきなんだあ」

事態が呑み込めずキョトンとする警備に

「す、すまない、気にしないでくれ」

とシモシモダはアベノ総理を抱えながら急いで官邸に入る。総理の手にスマホが握られているのをみて、警備はしまったというふうに口を押えた。

 暴れる総理を引きずりながら、シモシモダは総理の自室に向かう。

(は、早く自室にいかせねば、職員たちの本音を総理が聞いたら)

焦るシモシモダに女性職員の一人が声をかけた。

「シモシモダ副長官、アベノ総理の朝食はどうしましょうか」

「ああ、お部屋に運んで」

返事をするシモシモダの手が緩んだ。そのすきにアベノ総理は女性職員にスマホを向ける。

「ホ、ホンネちゃんがさっきのお前の台詞を訳したぞ!(ゴマすり長官の二番煎じシモシモダさん、阿保総理のご飯どうすんの?まったく大腸の病気のくせに贅沢いって面倒なんだから)って僕の大事な朝ごはんだぞ!」

女性職員は真っ赤になって走り去った。

「くそう、おべっか嘘つきめえ」

国会では答弁をはぐらかし、討論では論点をずらし、会見では誤魔化し、すぐバレる嘘ばかりつくアベノ総理に言われたくはないだろうとシモシモダは思ったが、思ったことを総理に知られると不味い。

「そ、総理。下らぬことはなさらないほうがよろしいですよ。スマートフォンをお渡しください」

スマホを取り上げようとするが、総理が聞くはずはない。

「いや、国民の生の声を聞くのが大事なんだ!働いている職員の声を聞くんだ!」

国民の声を聞くのにホンネちゃんを使うのは反則ではないかと思いながら、シモシモダはアベノ総理をみた。金と周囲のお膳立てだけで今の地位を維持する三世坊ちゃんが総理にふさわしいと思う人間が本当にいると思っているのだろうか。しかも、一応精鋭ぞろいとされた総理官邸に。内心の自由ぐらい確保してやればいいのに、そうすればうすうすわかっている不都合すぎる真実に目をつぶっていられるに、なんでわざわざ余計なことを。

 アベノ総理に呆れながらもシモシモダは総理を自室に連れて行こうと必死に廊下を進む。

「あ、総理」

今度はモップで廊下を掃除する清掃員の女性だ。彼女は以前、アベノ総理が靴底を汚したまま廊下を歩き回るので困ると愚痴を言っていたことがある。

「こ、今度は清掃のババア、お前もかああ」

まだホンネちゃんも向けてないうちからキレるアベノ総理。

(あ、やっぱりバカにされていることはわかっていたのか。で確認しようと、ホンネちゃんを使ったのか)

こういう勘だけは働くな、アベノ総理は、とシモシモダはため息をついた。


「それで、なんとか自室までたどり着いたのですが」

「で、アベノ総理はどうなされたのだ」

ガース長官が真剣な顔つきでシモシモダに尋ねた。

「朝食を平らげられました後、少しお休みになられました。今日はそれから地方議員らとお会いになりましたが」

「まさか、スマホを議員たちに向けたのではないだろうな」

「いえ、会食中はスマホを取り上げることに成功しました」

ホッと胸をなでおろすガース長官とニシムラムラ副長官。もし、地方議員の本音がバレたらどんな騒ぎになるかと思うと背筋が凍る。

「ですが、その後の予定がないのでスマホを返してほしいといわれまして」

「それでまさか返したわけではあるまいな」

「充電の必要とか、ウィルス対策ソフトの確認とかなんのかんのと理由をつけていましたが、部下の一人の目を盗み、スマホをもっていかれました」

「それからどうしているのだ、アベノ総理は」

「スマホを使って今度は支持者の本音を聞くんだといわれていたそうです。“金で雇われた官邸の連中とは違う、本当の僕の支持者の声を”と。それから部屋から一歩も出ていません、夕食ができたとお知らせしても出ようとせず籠りきりで」

シモシモダの言葉にガース長官は頭を抱えた。


「総理万歳、僕頑張ります。総裁選、本気で応援してます。ありがとうございます(ホンネ:あー、けったるい。金もらわなきゃ、こんなばかばかしいこと出来ねえぜ。金くれてありがとよ)」

総理は一人、官邸の自室でスマホを握りしめていた。真っ暗な部屋でベッドの上に背中を丸めて座っている。スマホを取り返してから数時間ずっと、撮影されたアキババラ演説会での自称支持者の言動やら、議員たちとカツ丼を食べたときの映像などをホンネちゃんで分析していたのだ。

「くう、アキババラに集まった支持者なら皆僕を心から応援してくれると思ったのにいい」

嘆くアベノ総理。真の支持者、ネトキョクウだの会議ニッポンのメンバーだのもいたことはいたのだが、二十人か三十人に一人の割合。一匹みればゴキブリは二、三十匹家にいるはずといわれるが、その逆である。

「ふ、ふん。全部確認すれば、きっと僕の本当の支持者のほうが多いに決まってる!」

 それは希望的すぎるというか妄想に近い願望であった。

次に観たのは手をちぎれんばかりに振る若い女性の映像。

「総理、握手ありがとうございます(ホンネ:あー肩凝った、バカ総理と握手なんて嫌だけど会社にいわれちゃねえ)」

その次はカツ丼をともに食べた議員たち。

「アベノ総理、勝ちましょう、このカツ丼で!アベノ総理(ホンネ:アベノ総理に勝ってもらわないと、カツ丼以上のいい思い出来ないからなー、阿保はいいよ)」

「アベノ総理、カツ丼ごちそうさまです(ホンネ:カツ丼ごときか、マスコミの連中は寿司なのにな。でもイシババ陣営もカツ丼食ってるっていうし、あっちのほうが安いけど)

「うう、こ、これが僕を支持した奴らの本音かあ」

そして側近たち。ハギュウダン次官の映像。

「カツ丼を総理と一緒に食べておきながら食い逃げが四人もでるとは(ホンネ:カツ丼ごときで買収できるとはおもっていなかったが。さては四人の奴ら、丼ぶりの裏に貼っていた金の板に気が付かなかったか。いや誰かネコババしたのか)」

「あー、やっぱり金を相当使わないと勝てなかったのかあ、ゲホゲホ」

長時間、頭を下げてスマホをみるという姿勢でいたので、血行が悪くなっている。夕食も取らなかったので空腹を感じた。そのせいか気分もわるくなってきたが、それでもアベノ総理はホンネちゃんを使い続ける。

「つ、次はジムムラ元大臣だ、次の内閣の閣僚を決めるためなんだ、本音をしらなきゃ」


秘かにつけられた監視カメラの映像からアベノ総理の様子をうかがうガース長官。

「ふう、カメラに映らないよう注意していてよかったな。さもなければ私の本音(コネも後ろ盾もなく、ボウセイ夜間卒業でクロイチゴ農家の子息の私なんぞ阿保のアベノ総理にとりいるぐらいしか出世の道はないのだ)が総理にわかってしまうからな」

ため息をつきながら、

「差別発言連発のミズタ・ミャクミャクもミズタと痴漢を擁護したトンデモ論文のオガワノ・エンサタロウも、奴らの論文モドキを掲載した「シンチョーニ45.5」の元オカルト雑誌バカザキ編集長も総理に群がる奴らはみな同じだが」

所詮、総理のまわりはアベノ総理が総理でないと今の地位を維持どころか、陰謀、捏造、偽造、デマ記事、似非論文を追及され、学会やら業界やら協会やらから追い出される奴らばかり。まともな思考能力をもつものは総理自身が追い出している。妬み、嫉み、ひがみ、恨みなどの塊なのだ。もっともその点が似たもの同士のネトキョクウや数少ない真の支持者などにウケているという説もある。

「だが、あまりにみっともない真似をされると困る。なんとかしなければ」

と、ガース長官がつぶやいていると、今度は三人目の副長官タニタニダが入ってきた。

「なんだ、今度は君か、タニタニダ君、何があったというのだ」

「ガース長官、それが、その」

「今はオキナワ知事選が最優先だ、たいしたことでないなら君らで処理を」

「そのオキナワ知事選のジコウ党候補ザキマ氏が鬱状態になりまして」

再びガース長官が目をむく。


「そんな、バカな!あいつは総理と同程度の知能で、会議ニッポンの要職についていたくらいだから面の皮は厚いはず。市民の情報をジエータイやJJTなどの民間企業に流したことがリュウリュウシンポーにすっぱ抜かれても平気な顔をしていたし」

ガース長官の声のボリュームはさらにアップ、怒りの度数も上がっているようだ。

「それがホンネちゃんのせいで」

「なんだ、ザキマもエゴサーチでも始めたのか!」

「いえ、演説会だの街頭演説の様子を撮影してホンネちゃんを使った人間が、ユーチューブにその動画をアップしたのです」

「それは、一体、どういうことだ、詳しく説明したまえ」

「つまりですね、演説会でのザキマ候補の台詞や支持者の意見と、ホンネちゃんで分析した候補や支持者の真の声をコラージュした動画が次々と流れまして」

「なんだと、それでは、ザキマの本音がバレたということか」

「はあ、彼が会議ニッポンに今も在籍していることも、酔った米兵に家に侵入され恐怖のあまり女子高生が幼い妹を抱えて逃げ出したぐらい大騒ぎすることじゃないと考えていることも、携帯電話料金値下げ公約の嘘であとで撤回するつもりのことも、裏でタマギギ候補のデマを流していることも、ザキマ候補自身の本音として流されています」

「それぐらい、突っぱねればいいだろう」

「それがその、ギノギノワン市の市長時代の言動からおそらくそれがホンネであろうと言われておりまして。青少年の情報をジエータイやJJTに渡したことや、女性差別の会議ニッポンに属していたことを会報で明らかにしたことも指摘されて、ホンネちゃんのほうが信憑性が高いと」

「しかしその程度に鬱状態になるのか」

「それだけではないのです、自分の本音がバレた上、本当の支持者の数が少なく、基地建設利権のためだけにチヤホヤし支持するフリをしているものが大半であることをもわかってしまったのです。さらにタマギギ候補は公約のWi-Fi無料も学生バス通学費無料も本気で実現するつもりであり、タマギギの支持者も本心からタマギギ候補を支持するものばかりだということにもザキマ候補はショックを受けているようです」

当然といえば当然のことだ。亡きオンナガ知事の正統な後継者であり、人気DJであったタマギギ候補と違い、ザキマはしょせんニホン政府の使い走り。会議ニッポンのメンバーで、政府の下僕であること以外何の価値もない男なのだ。

「ザキマ候補は“俺は基地の地主で親族が基地利権に絡んでいること以外取り柄はないのか。アベノ総理の忠実な下僕だから応援されているだけか。タマギギ候補と違って俺自身にはいいところなんてないのか、ジコウ党の仲間の誉め言葉もみんな嘘。顔も頭も人気も知名度も、すべてタマギギ候補より下なのか”と嘆いておりまして」

無意識に気づいてはいても他人から指摘されると痛い真実が、ザキマの強そうに見えて実は脆い精神にグサグサと突き刺さったようだ。だが、ガース長官は一かけらの同情もみせなかった。

「ふん、すべて事実だろうが。しかし厄介だな。下手に美辞麗句を並べ立てようとホンネちゃんをザキマが使ったら逆効果だ」

さて、どうするか。考えをめぐらしながらガース長官はハッとした。まさか…

「では、あのこともわかってしまったのか」

「はい、支持者、いや表向きの支持者たちが勤め先や元請け企業にザキマ候補と投票用紙に書かされ、その証拠をスマホでとれと強制されたことも知られてしまいました。その映像を撮影しホンネちゃんで分析した支持者たちの本音が流出しています、むしろ嫌々やったのだとホンネちゃんを使って告白するものまで出てきました。強制した会社のなかにはザキマ候補の義姉の会社も含まれているということもバレバレです」

「そこまでわかってしまったのか、メディア対策はどうなっているのだ」

「遅かったです、すでにアサアサ新聞に書かれ、マンゲツ記者も記事にするという情報もあります。これは不正選挙としてカッコクレンに訴える案件だとも」

マ、マンゲツ。ガース長官の最大の敵、彼女なら政府に不都合な記事でも圧力に屈せず書く、しかも諸外国を納得させるような記事を書いてしまうだろう。

「世界の大多数の国が加盟するカッコクレン、今はアメリカだけでなく中露ものさばっているからな。この件を知られたらオキナワから基地が取り払われてしまうじゃないか」

「は、はあヘンノコ移設は中止かもしれませんが、フデンマ返還はありえないかと」

「いや、もう米軍基地を置く理由がないとか言い出す連中がいるに決まっている。アメリカでも“ニホン政府から金もらっても他の経費がかかるんで引き上げたいんだけどー”という声が出ている、なにより朝鮮半島が統一されたら、存在意義がなくなってしまうのだ」

「フデンマが返還されるのはそれほど脅威なのでしょうか。他にも米軍基地はありますが」

タニタニダが不思議そうに尋ねる。

「もし、フデンマが返還されたらどうなると思う。タマギギは米軍の滑走路を使い大空港と隣接する観光及び商業施設を建てる気だぞ。農業や観光にも力を入れると明言しているし、農作物の輸出や観光客が乗り降りするための大空港の建設にも手を付けるに違いない。ひょっとしたらオキナワがオーサカ、トーキョーに代わるアジアの一大ハブ空港になってしまう!国際的大空港だぞ、オーサカより大きいかもしれん!」

ガース長官が珍しく興奮して叫びまくっていた。ニシムラムラがおそるおそる口を挟む。

「それでは空港建設利権に食い込めばよいのでは」

「基地以外で本土から利権が食い込めるか!しかも補助金は政府の思い通りだが、オキナワ県の空港の建設予算はそうはいかない。何よりオキナワが発展してしまうのだぞ」

「そのう地方再生もニホン政府の課題では」

「馬鹿、オキナワなんぞが発展して、本土よりも首都よりも国際的地位が上になったらどうする!アメリカに我々ニホン政府が従属できるのは、ニホン政府の下にオキナワだの地方の奴らがいるからこそ。オキナワやらが栄えたら、ザギマやガナバカのような奴らを従わせ、媚を売らせて憂さを晴らすこともできなくなる。なにより故郷東北より豊かになってしまうのが許せん!」

「あのう東北地方も原発などないほうが豊かになるとの試算も出ています、脱原発や小規模農業重視に切り替え、観光や特色ある大学建設に力を入れれば、かなりいい線までいけるのではないかと提案する学者も」

「だ、だめだ。そうなったらトーキョーに出てきて阿保バカな二世、三世議員に仕え、三代目のボンクラ社長を支え続けた我々地方出身者の忍耐と努力と苦悩はどうなるのだ!上京して夢破れて逃げ帰った奴らや田舎に残った連中を見下すこともできなくなるのだぞ!」

もちろん、地方出身者の大半はそのようなことは考えもしないだろう。しかし、上京して苦節ウン十年、愚かすぎるアベノ総理に長年仕え続けたガース長官は相当鬱憤がたまっているらしい。ホンネちゃんなしで生々しい本音をニシムラムラ副長官たちに吐き出し続ける。

「しかし、このまま放っておいたらオキナワ選ボロ負けどころか、カッコクレンの介入すら招きかねません」

「だが、今更ホンネちゃんを完全に禁止することも不可能。何よりホンネちゃんアプリごときの問題ではなくなっている」

では、どうするか。ガース長官は以前よりテカリが増した頭で考えこんだ。

「そうだ、オベッカちゃん開発したまえ」

「オベッカちゃん、とは何でしょう、ガース長官」

三人の副長官は同時に言った。

「ホンネちゃんに対抗するアプリだ。政権や与党候補らに批判的なセリフを好意的なものに変えてしまうようなアプリをつくればいいのだ。進化系本当のことちゃんでもなんでも、真実っぽい名前をつけて開発し、市場に出回らせろ。オキナワ選における不正を誤魔化し、世論を操作し、マンゲツや野党どもをかく乱させるのだ。それとこれが一番重要だが、開発したら試験段階でも構わん、真っ先に総理とザキマのスマホにいれさせるのだ」

「そ、そんなことができるのでしょうか」

「ホンネちゃんの開発者は素人の女性だというじゃないか。ならばこちらはカンボー機密費で本職を集め、早急に作成すればよい。総理のため、オキナワ選のためだ、金はいくらかかってもかまわん、何が何でも選挙に間に合わせろ」

「はい!」

同時に返事をしたが

(いや、いくらなんでも一週間足らずでアプリ開発は無茶すぎますよ)というのが三人の副長官の本音であった。


「あーオベッカ君って便利よねえ」

「ミダビさん、“真正ホンネ君”よ」

ジコウ党本部にて選挙対策に駆り出された年配の婦人たちがスマホをいじっていた。

「でも、どうせこれ本音じゃないでしょ」

「そうかもしれないわね。ザキマさんなんて手伝いに来た女子大生には甘い声で“いいよ、そんなことしなくても”とか言うくせに、私たちソンカ派婦人会には“お茶ぐらい淹れてくださいよ、何のためにここにいるんです”なんて言って怒りだすのよ、嫌になっちゃう」

「真正ホンネ君が“年齢、所属にかかわらず、すべての女性を大切します”ってザキマさんの台詞を訳しても、裏でそんなこと言ったらねえ」

「だいたいなんとかの一つ覚えみたいに台詞がいっつもおんなじなのよ。ザキマさんが何言っても“オキナワ県民を守ります”とか“女性を大切にします”とかばっかり。携帯電話料金の話でもそうなのよ」

「そうねえ、本音っていうより、はっきりいってお世辞よね」

「だからね、オベッカ君は落ち込んだ時、単純だけど甘い言葉をささやいてほしいときに使えばいいのよ、ビョンホ様の声に似ているし」

「あの韓国俳優さん、そんなに好きじゃないけど、確かに声はいいわねえ」

「だからうまく使い分ければいいじゃない、だってザキマさんだって」

女性の一人が壁際に座っているザキマ候補を指さした。

ザキマ候補は“真正ホンネちゃん(ホンネ君女性版)”を起動し、うっとりとその声を聴いている。

「どうせ若い女の子の声でおべんちゃらを言われて、いい気になっているんでしょう」

「ホント、男って単純よね、上手いこといわれてすぐだまされるんだから」

「あら、あなただって、この間、新宿の例のホストクラブで」

「それはいわないでね、主人に聞かれると困るから。主人のスマホもひそかにホンネちゃん削除してオベッカ君をいれたのよ」

「やるわねえ、見習わなくっちゃ」

と、ガース長官の意図とは違い、突貫開発欠陥アプリ“真正ホンネ君(女性版はホンネちゃん)”通称オベッカ君は、お世辞を言ってもらいたいとき用のゴマすりアプリとして普及していた。

 そして意外なところでも活用されていた。


“アキエコさんは素晴らしいですわ、総理の妻として、ファーストレディとしてふさわしい”

「ああ、これよ、このセリフが聞きたかったのよん」

アベノ総理の妻アキエコは“真正ホンネちゃん”の声に聞き入っていた。

「アベノの妻としてトップの妻としてワタシほどいい女はいないはずなのに、誰もいってくれないんですもん」

アキエコは自己評価と他人からの評価が天と地ほどもかけ離れていることを知らないというか理解していなかった。お嬢様大学への入学も拒否され、コネで入った広告会社便通ではお茶くみとコピー取りと宴会幹事ぐらいしかやらなかったアキエコの評判は身内、友人、会社でも最悪であった。しかし大会社の創業者一族の一員であったため、アベノ総理との見合い話が舞い込んできたのだ。完全な政略結婚。とはいえ、頭の程度、自己中心的な性格、自分に対する過大評価など夫と共通点が多く似たもの夫婦といえる。

“アキエコさまのすることはすべて素晴らしいのです”

「そうよね、ワタシのすることはいいことよね、じゃあ次は夫が推進するカジノにでも行ってみようかしら。ここだと、“アキエコは総理夫人らしく居酒屋はやめろ”とか“モリモリ問題で国会で証言しろ”なんて酷いこといわれるんですもの」

アキエコは国内に試験的に誘致された米国企業のカジノのパンフレットをパラパラとめくった。

「あ、そうかずっと泊っていれば何日でもいられるのね、一泊二十万円かあ。総理夫人だものそれぐらい、いいわよねえ、今までだって年五千万ぐらい使ってるし」

国家予算を湯水のように使う総理夫人にオベッカちゃんは

“アキエコさまは本当に素晴らしい”

と囁いた。


本音をしるのは勇気いりますねえ、でもオベッカばかり使われてもトンデモないことになりますので、気をつけましょう。

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[気になる点] 所々地域名、略称が現実のものと同一になっている点。 [一言] 毒が利いて面白い作品でした。 ホンネちゃんなんてものが現実世界で開発されてしまったら、自分のような人間は人との関係を断つ他…
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