『拷問と脱走』
アメリカ政府の月面異星人対策特別チームから厳しい尋問を受ける志門とミカ。だが、隈野出津速雄とコンタクトした後、魂の覚醒により強化されたミカはチームの者を打ち倒し、志門を連れて脱出を試みる。しかし、ミカの進む方向が地下へと進むため、不安に思う志門。
二人は、やがて地下ドックに辿り着くが、そこで思わず敵?と遭遇してしまう。
『拷問と脱走』
ミカの声に気が付いた志門は、上半身を起こして声の方へ顔を向けた。ミカが収監されている部屋は距離にして約百メートル、途中で廊下はクランクしている。
「ミカッ、ミカなのか? こんなダイレクトな感応は初めてだ………ミカ、大丈夫かっ?」、と僕は返した。
“大丈夫よ、あいつらには指一本触れさせないから! 志門は酷い事をされなかった?”
「今日は…………明日はもっと酷い事になるかも知れない……………ミカ、ごめん。何も出来ない………」、と僕。
ガチャッ、と入口ドアの監視用の小窓が開き、警護の歩哨が僕の方を見ようとした。
僕は慌てて身体を横にし寝ているフリをした。
………………………………………
翌日、審問と称した取り調べが始まった。それは昨日より厳しく、強行な手段が用いられた。
クラウディアたちは身体を拘束して、ヘッドギアを被せた後、強力な自白剤を僕に打った。
抵抗できず、ついに僕は前の世界の記憶を抜かれてしまった。
クラウディア観察者たちは、ガラスの向こう側でハイタッチして喜んでいた。
(クソッ………やられた……)、僕は力無くそう思った。
意識が朦朧としている時、部屋にクラウディアが入って来て、何かの薬剤を打とうとした為、僕は一瞬、腕をビクンとさせた。
「安心しなさい、もとに戻す覚醒作用のある薬よ。」、とクラウディアは言った。
「ウゥ〜ン……」、次第に意識が覚醒して行くのを感じた。
「坊や、目が覚めたかしら……貴方の記憶はしっかり頂いたわ。」
そう言うと、次に彼女は僕の拘束具を外し始めた。
それを聞き、僕は確かな事実に驚いたが、残念そうにクラウディアに言った。
「世界が世界なら…………お姉さんとも仲良く出来たかも知れないのにな………なんかゴメン。」
「何で謝るわけ?」、と彼女は?、な顔をした。
横に居た男が大笑いした。
「ヒャッハッハッ、こいつ、記憶を抜かれて落ち込んでやがるw もう、どうでもよくなったんでクラウディアにそんな事を言ってるんだ! それとも最初から彼女に気があったのか、坊主。」
これを聞いた僕は、身体の自由が効けば本気で殴りたい、と思った。
「おいっ、そこのお前。悪いが、こう見えても年は二十六だっ、結婚もしている。坊主はやめろっ! それと、お姉さんに気があったのは確かだっ!」、と僕。
クラウディアは無表情に手首の拘束具を外しながら僕に言った。
「貴方、本当にバカねぇ…………でも、そんなところは…………嫌いじゃないかもね。」
この含みの有る言葉に僕は何かを……彼女の過去には何かが有った、そう感じた。
拘束具を外し終えたクラウディアは立ち上がると僕の方を見た。身体の自由を取り戻した僕は彼女の右手を握り、彼女の顔を見入った。
それを見た、もう一人の男は、僕が彼女を襲うと思ったのか、慌てて前に踏み出したが、クラウディアは男に手を上げ制止した。
「なに?」
「お姉さん、……結婚してる?………いや、結婚していた、が正しいかな……目が、…」
僕が言い終わらない内に、彼女の左膝が僕の腹にメリ込み、その勢いで僕は椅子ごと後ろにひっくり返った。
「ウゥッ、……グッ…」、と僕は腹を押さえて悶絶した。
「調子に乗るなっ! 貴方はもう用済み、後は自由にしなさい。」
クラウディアは両手をパンッパンッ、と払うと他の者と部屋を出て行く。その様子を崩れた僕は見ていたが、先に僕を挑発した男は、バカな奴、という目で僕を見て、ドアを閉めた。
◆
酷い扱いを受けた、その日の晩、ミカからコンタクトがあった。
僕は声を殺しながらミカとコンタクトした。
「ミカ…………僕は、前の世界の記憶を抜かれてしまった。………ミカ、テレポーテーション(空間転移)は出来るか?」、と僕。
“隈野出津速雄とコンタクトしてから私の霊子の魂は覚醒し始めているけど、まだ私の身体が追い付いていない……”
「さすがに、そこ迄は出来ないか…………」
“だけど、この辺り一帯が壁を通り越して……何が有るか分かりだした。霊子スキャナーみたいな感じ………俯瞰するように本質を観る力みたいな……”
「霊子スキャナーッ! 透視能力かっ!?」、と僕は思わず声を大きくした。その時、警護の者が声を放った。
「何を独り言を言っているっ、寝ろっ!」
(ヤベェ………ミカ、聞こえる?)、僕は黙ったまま、ミカに呼び掛けた。
“聴こえてるよ……”
(明日はもっと酷い尋問が有るかも知れない。明日はミカが尋問される………僕たちは記憶と知識を抜いたら用済みらしい……ミカ、逃げられるかっ?)、と僕は聞いてみた。
“やってみる。”、とミカ。
(分かった、気を付けて……)
………………………………………
翌日、ミカが収監されている部屋の方向から凄まじい音が響いてきた。
“ドカァアアーンッ…ガランッガランッ……ガシャッ、ドスッドスッ、バキッ、ドサ……”
音の方から、警護の歩哨が走って来て、自分の部屋の警護を担当していた者に何かを告げると、一緒に走り去るような足音が聴こえた。
(なんだっ、何か有ったかっ!?)、そう僕が思っているとタッタッタッ、と走ってくる音が聞こえ、ドアの前で止まった………次の瞬間!
“ドカッ、バキャンッ!!”
鋼製のドアが「く」の字に折れ曲がり、次のバンッ、という音で、僕の前方に吹き飛んだ。
破壊の靄の中から部屋に入って来たのはミカだった。
僕は異常なまでに力を持ったミカに驚いた。
「ミカッ、……そんな力はなかったはずだ。」
「出津速雄とコンタクトしてから……力が増大して………」、とミカは苦しそうに答えた。
(ミカはまだ、力を制御出来ていないんだ!)、と僕は感じた。
「とにかく、此処から脱出しよう!あいつらは僕たちを消すつもりなんだ!」、と僕は叫んだ。
ミカは僕の手を取ると、初めから基地内を知っているように走り始めた。
途中、ミカが収監されていた部屋の前を通り過ぎようとした時、破壊されたドアと倒れたクラウディアたちが床に転がっていた。
僕は、いったん足を止め、ミカに言った。
「まさか……殺したのかっ!?」
ミカは首を振って否定した。
「安心して、志門。今回、急所は外した………貴方の悲しい顔は見たくない。」、とミカは悲しげな表情で返した。
僕はミカを引き寄せて言った。
「ミカ、ごめん………こんな世界に君を巻き込んでしまった。」
続けて僕はクラウディアの所に走ると、屈んで彼女の顔に手をやった。近づくと、微かに香水の香りがした。
(お姉さんもごめんよ………)
立ち上がると、僕たちは再び走った。
………………………………………
ミカは今、どこに居るとも言わずひたすらに走り続けたが、それは確実に地下を目指している。
不安になった僕は走りながらミカに言った。
「こっちで間違いないのかっ……?」
「私の魂が、そっちへ走れと言っている……確実に此処から脱出できる!」、とミカは返した。
途中、エアダクトの格子を外し、その中を地下に向かって降り続けた………。
かなりの深さの地下に降りた所で、ミカは格子を突き破った。
そこで見たものは広大な地下空間で、上を見上げると巨大なガントリーがそびえ立ち、その上には葉巻型の宇宙艦が接続されていた。
それを見ながら、ミカに引っ張られてガントリーの影から出た時、近くに居た二人の者と目が合った。
ミカは立ち止まり、走っていた僕はミカにぶつかった。
ミカとその者たちは互いに対峙した。
僅かな後、二人のうちの一人の宇宙服を纏った女性が腰のホルスターから銃を取り、構えた。
このエピソードはSFミリタリーアクション『機動空母リベレーター』第二部「エイリアン脱走」とリンクしています。




