『アベル(アメリカ政府)の使者』
拘束され、暫くの後、志門とミカはアメリカ政府から派遣された、月面異星人対策特別チームから審問を受ける。だが、それは審問と称した強制的な尋問だった。
チームの責任者、アメリカ国務省事務次官のS·クラウディアとCIA(中央情報局)のJ·ガトウ、SDA(国防省宇宙開発局)のR·マッキナー大尉は二人から必要な情報を引き出そうとする。
『アベル(アメリカ政府)の使者』
「誰だ、あんた………」、僕(志門)は彼女の容貌に少し惹かれながらも、ミカを自分の背中に隠した。
恐らく、175cmくらいはあると思われる彼女は、自分を名乗ることはしない代わりに、僕に侮蔑的な言葉を吐いた。
「Jap boy………風早志門ね。元T大学の鉱物化学の教授、……貴方が前の世界を潰したのね。こんな坊やが………」
(Jap boy? この人の頭の中、どうなってんだ………今の時代で言うか、普通?……)、と僕は目の前の女性に少しガッカリした。
彼女の横にいた男性が僕に向かって吐いた。
「風早志門、お前のやった事は既に情報と証拠が有る。」
(どうやら、これは………前の世界の情報、と言う事らしいな。彼女も前の世界を潰した、と言っている………だが、実際に僕とミカがやったと確信しているんだろうか?)
僕は暫く黙った。
………………………………………
翌日、審問と称して僕たちは部屋から出され、僕はミカから無理やり引き離された。
「ミカーッ!」
僕がミカの方へ伸ばした手を昨日の彼女が叩き落とした。
別の部屋に移されると、僕は椅子に完全に固定され、頭にはヘッドギアのような物が着けられた。椅子の横に置かれた台車の上にはサーバーのような箱があり、それと配線で繋がっていた。
これから始まることに、僕は今までに無い不安を感じた。それは自分の事ではなくミカの事だった。
(ミカもこれと同じような事をされているのかっ?……
…)
彼女と他の者はセッティングが終わると部屋を出た。
(なんだ?)、僕がそう思っていると正面の壁がスライドし、ガラス越しに彼女と他の者の姿が見えた。
(これって………よく映画で出て来るシーンだよな?………アメリカのCIAとか……マジもんか?)、と僕は思った。
ガラス越しに見える彼女はヘッドセットから口元に伸びるマイクを触ると、室内のスピーカーから声が聞こえた。
「これから貴方に聞く事は、前の世界で月の者とどうやって接触したかよ。私たちは十二年前に月のUFOが墜落しかけて、貴方の両親の乗った機体が行方不明になった………そこまでは分かっている。」、と彼女は言った。
この時、僕は上半身を動かそうとしたが、金属製の拘束具でしっかりと椅子に固定されていて身動き出来なかった。
僕は首を突き出し、次のように言い放った。
「………今更そんな事を聞いても意味ない。それと拘束を解いてくれないか…………これは審問じゃなくて尋問だろっ! 君たちは一体なんだっ!?」
これを聞いた彼女は、初めて自分たちの素性を明かした。
「私たちは自由主義同盟の盟主、アメリカ政府から派遣された、月面異星人対策の特別チームよ。私は責任者のS·クラウディア、国務省の事務次官よ。貴方には特別に私が幾つかの質問をしてあげるわ。光栄に思いなさい……」
なまじ、彼女の容姿が良いだけに僕の気持ちは胸糞だった。
(事が分かった以上、迂闊に喋るわけには行かないな。クラウディア…………彼女の狙いは恐らくカインの霊子技術だ。多分、アメリカは相手を上回る力を保持して置きたいんだろうな………確かに僕はこの世界を創造したけど、自分が望んだ世界じゃない。こんな場面は………)
僕はいったん気分を落ち着け、出来るだけ言葉を選んで彼女にお願いしてみた。
「お姉さんは偉い人なの? 僕に何かしてもらいたいんですか………僕はもっと友好的に話したいから、この拘束を解いて欲しいなぁ〜w」
彼女は僕の言葉に応じず、横にいるチームの者と何かを話していた。
(なにか調べてるな…………ヘッドギアかっ、こいつで僕の頭の中を調べてるんだ!)
そう思った僕は、意識を逸らすために全く関係ないことを喋り続けた。
「お姉さん、歳は幾つ? 凄い綺麗だね!(これは本当w)今日の朝は何を食べたの、アメリカの何処に住んでいるの、結婚してるの………」
最後の結婚の言葉を聞いた時、彼女の顔は僅かだが揺らいだ……僕は続けて喋った。
「好き好き、クラウディアお姉さ〜ん♡。 今度、一緒にご飯食べに行かない? メール交換してくれると嬉しいなw Xとかやってるの? アカウント教えてよ、イイねしたいし、………こんなこと言うのは自分でも恥ずかしいけど、一回だけ言わせて!………お姉さんの下着の色って何色? どんな色が好きなの? お姉さんは肌の色が白いから下着は濃い青色がきっと似合うと思うよ……他にアクセサリーとかは、どこのブランドなの? 香水は、服は? 僕はブルガリが好き………あっ、これって男性用だった。女性用はティファニーなんてどうかなぁ、僕は好きだけど………最近はエルメスや他のブランドも香水だしてるよね。 お姉さんにプレゼントしたいな。もし気に入ってる物が有ったら言ってね、用意しておくよ!…………」
そんな、他愛も無い一方通行の会話を僕は延々と続けた………
三時間後、彼女、クラウディアがヘッドセットを外すのが見えた。
◆
引き離されたミカには、男性が二人付き、クラウディアの時と同じ様に別室から審問を行っていた。しかし、ミカは激しく暴れるため、ヘッドギアや椅子に拘束することが出来ず、チームの男性、CIA(中央情報局:Central Intelligence Agency)のJ·ガトウとSDA(国防省宇宙開発局:Space Domain Awareness)のR・マッキナー大尉は酷く手を焼いていた。ミカの力は最初の時より増大しており、この部屋に連れてくるだけでも大変だった。
ミカは暴れ、自分を審問しようとするこれらの者を激しく罵った。
「私を自由にしろっ!! アベルのラスボスめっ! 言う事を聞かなければ、お前らを殺すっ、カインを舐めるな!、私に刃向かう者は七倍の復讐を神から受けるぞっ!」、そう言い、テーブルをひっくり返し、椅子を取って彼らの居る別室の観察用窓ガラスに叩きつけた。
“ドキャッ!!、ガランガラン………”
強化ガラスはミカの叩きつけた椅子の衝撃を受け止めたが、椅子はバラバラに飛散して床に落ちた。
「カイン……こいつの種族の名前か?」、とマッキナーはガトウの方を向いて聞いた。
「俺が知るかよっ!………なんにせよ、今日は無理だな。明日の事は後でクラウディアに話すか。」、とガトウは吐き捨てる様に言った。
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その日、志門は元の部屋に戻されたがミカは、そのまま審問室に監禁された。
その晩、ベッドに身を横たえた志門にミカの声が聴こえた。
“志門、志門………”
それはミカの確かな声、霊子感応で伝わって来た。
このエピソードはSFミリタリーアクション『機動空母リベレーター』第二部「事務次官S·クラウディア」とリンクしています。対極から描いたストーリーを楽しんでください。




