『未知とのコンタクト』
ミカの霊子感応により、皆神山の大深度地下に眠る太古の遺物、隈野出津速雄とのコンタクトに成功した志門たち。
志門は望美とエディを先に隈野出津速雄へ送り出すが、そこへ見知らぬ男がコックピット内に乱入し、志門に銃口を向ける。
『未知とのコンタクト』
志門とミカの行動は早かった。
翌日、エディ、望美らと共に、まだ他の宿泊客が起きない時間に宿を出た。
皆が車に乗り込もうとした時、道路の向こう側から、女性が女の子を連れて走って来た………、秋山ラーヤだった。
「おはようございます、ラーヤさん。どうしたんですか?」、と志門は聞いた。
ラーヤは肩で息をしながら両手を膝に突き、途切れ途切れに志門に伝えた。
「志門くん、皆…………気を付けて行きなさい。昨日、ECM(電子妨害装置)に小型のドローンが引っ掛かった…………この宿を調べていたのかも知れない。」
そう言うとラーヤは恐ろしく小型のドローンを手のひらに載せて志門に見せた。それは墜落した時に車に轢かれたのか損傷していた。
「このドローンには統合機動宇宙軍のマークが入っている………エディ、貴方も気を付けて。 志門くん、彼等が動き出している今、私たち(SVR:ロシア対外情報庁)が出来る事は限られてくる、気を付けて行きなさい。」
一緒に付いて来た女の子は娘の来沙だった。エディに走り寄り、彼女の腰に手を回して抱きつくと顔を上げて言った。
「お姉ちゃん、気を付けてね。また来てね………待ってるから。」
エディは腰を落とし、来沙と目線を合わせ頷いた。
「ラーヤさん、ありがとう。ご主人の航大さんにも宜しく伝えてください。それじゃ、僕たちは行きます!」
全員が車に乗り込むと、志門はラーヤの方に片手を上げ、車を発進させた。
………………………………
八月の早朝、まだ日は昇っていなかったが、既に辺りは薄明るい………
車がTR-3Dを隠した山頂の麓に辿り着くと、皆は光学迷彩のポンチョを羽織って車を降りた。
ポンチョはミカの分が足りなかったが、志門は自分のポンチョの中にミカを入れた。
志門はミカがポンチョから、はみ出ないよう彼女の肩を引き寄せた。彼の手の温もりをミカは感じていた…………それと同時に、自分が家で志門に行った仕打ちを激しく後悔した。
(自分はあの時、志門を殺しかけたんだ…………こんなに優しい志門を……)
志門の脇腹に回した手に思わず力が入る………気が付いた志門はミカに言った。
「ミカ…………大丈夫だ。」
そんな心情を意識で観ていたエディは、志門とミカの方を見ながら山頂に進んだ。
全員が山頂に登り着いたところで、エディは前と同じように周囲から意識が向いていないか意識感応(高次感応)で探った。
「大丈夫、行きましょう!」、とエディ。
エディがTR-3Dの機体表面に触れ底部昇降ハッチを開こうとした時、僅かな違和感を覚えた。
(なんか変!?…………気のせいかしら?)
「どうした、エディ?」、と志門は彼女の背後から声を掛けた。
「…………うん、何でもない。多分、気のせいね。」
そう言うとエディは皆を機内へ入れた。
コックピットへ入ったエディはミカと地下の遺物とのコンタクトのために準備を行った。
「地下遺物、機体のメインパワーとリンク………走査プロトコル、ago!…………第一次コンタクトOK……遺物から熱反応………地熱上がり出した。 ミカさん、準備操作は終わったからコンタクトを試して下さい。」、とエディはミカに言うとパイロットシートを空けた。
代わりにミカがパイロットシートに腰を降ろし、彼女は志門の方を向いた。お互い、僅かな間のあと頷くとミカは感応スティックに手を置き、目を閉じて集中した。
「感じる………とても強い霊子エネルギー………これはカインのループストライカーのそれを超えている!」、とミカ。
「中身とコンタクト出来るかっ、ミカ?」、と志門は聞いた。ミカは頷くと更に集中を遺物の中へと移した。
全員が見守る中、突然、ミカの周囲の空間に異変が起きた。
なんと、ミカを包む空間が白く光り出し、やがてミカ自身を包み込むと次に収縮し、跡形も無く消えた。
これを見た志門は驚いた様子で、エディの方を見てTR-3Dに人間の空間転送が可能なのか聞いてみた。
彼女は頭を横に振り、次のように説明した。
「TR-3Dは人間自体を転送するようには出来ていないわ! これは外部からのエネルギー干渉よっ!」
エディはパイロットシートに着き、コンタクトを試みたがダメだったが、次に気が付いた事があった。
「見てっ!、志門、望美さん。遺物の熱放射が収まっていくっ………これは、どういう事?」、とエディ。
消えたミカと地下の遺物からの熱放射が収まっていく様子を見た、エディと志門、望美は驚きのまま固まった。
◆
ミカは理由のわからないまま、真っ暗な空間に閉じ込められた。最初、彼女は慌てたが空間の温度が異常でない事が分かると自分の足元を確かめた。それは厚いゴムのマットを踏んでいる様な独特な感触だった。そこでミカは両手を広げ、ゆっくりと振ってみた。
(障害物は無さそう………特に変な匂いも無い。)
暫くして、周りの壁?が肌色に発光し始め、周囲の状況が確認できるようになった。
空間は凡そ三立方メートル、規則的な直線は無く、例えるなら何かの生物の中の様な感じがした。
ミカが動こうとした時、突然床が植物の根の様に伸びて行き、彼女の身体を拘束した後、頭部に伸びたそれは皮膚に融合した。
「キャッ、 イヤァアアアーッ、離せぇーっ!!」
ミカは恐怖で暴れようとしたが巻き付いた植物の根のような物で身体は身じろぎさえ出来なかった。そうしている内に何か得体のしれないものが頭の中に入って来るような感覚に恐怖した。
今まで体験したことのない恐怖で気を失いかけた時、頭の中に霊子感応で語り掛けてくるものがあった。
“貴方は天津神である……私は認証した”
その言葉の後、ミカの身体の自由を奪っていた植物の根のような物は拘束を解くと床に戻り消えた。
ミカはガクッ、と床に膝を落とし、床に手をついた後、フウ〜ッと息を整えると顔を上げ、正体の分からない者に尋ねた。
「ここは何処?………貴方は何者?」
次に見えない者は答えた。
“隈野出津速雄……高天原と葦原中国を結ぶ者………”
それを聞いてミカはハァ?、という顔をした。
「聞いたこともない………高天原って何?」
“貴方が思う所の「霊子世界」………自分の魂を忘れたのか?”
ミカは立ち上がると腕を組み、考えた。
(これは間違いなく、太古の遺物…………ループストライカーの無人機版……いや、機体自体が魂の形か? この事を早く志門たちに知らせないと!)
ミカは隈野出津速雄に幾つかの質問をしてみた。
「この船で高天原に行くには、天津神でなければ行けないの?」
“高天原に行けるのは私の認証か、呼ばれた者だけ”、と隈野出津速雄は答えた。
「分かった。ありがとうね、隈野出津速雄」
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一方、TR-3Dで待っていた志門たちは直接ミカの肉声を聞いた。それは高次感応を超えたハッキリとした声で志門たちの頭に響いた。余りのダイレクトな声にエディは思わず感応スティックから手を引いた。
“聞こえる、志門?”
「ミカ!? どうだった? 遺物と同期出来たのかっ?」と志門は返した。
“死ぬかと思った…………この遺物は隈野出津速雄……この船は意識を持っている! 私は認証を通ったみたい、この船は霊子次元と物質次元を往来する能力を持っている。だけど、霊子次元の深部に行くには出津速雄の認証が必要なの。”
それを聞いた望美は狂喜した。
「天の磐船、これは凄い事よ!隈野出津速雄はその名前の通り、神様たちを乗せて宇宙に凄い速度で出ていく宇宙船だったのよっ!」
「ミカ、皆が乗れるように出津速雄に懇願してくれないかっ!」と志門。
“分かった、お願いしてみる。”
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ミカとの霊子感応は途切れた。
エディは少しガッカリした様子で言った。
「私の高次アクセスでも、あの船とコンタクト出来なかった………私は認証されなかったのかしら?」
「そんな事はないよ、エディ。ミカの霊子感応は高次の意識感応とは別のもの…………上手く言えないけど、現代の通信に火を燃やして煙で知らせようとするようなものだ、と思う。出津速雄が最初、高温度を発したのは高次の刺激で目を覚ましたんだ。」、と志門はエディをホローした。
暫くしてミカの声が聞こえた。
“志門、出津速雄は願いを聞き入れてくれた。順次、こちらに転送するから。”
「分かった!先ず望美さんとエディをそっちに送る。」
志門はそう言うとパイロットシートの方へ行った。
エディはパイロットシートから離れ、志門と交代すると望美の横に行き、次にミカが消えたと同じように消えて行った。
「エディ〜ッ!」、と聞き覚えのない声がコックピット内に響く。
二人が消えたと同時にコックピットに見知らぬ男が乱入し志門をパイロットシートから突き飛ばした!
男が感応スティックに手を置くと、今まで機体から聞こえていた低い動力音は消え、代わりに機体内は静寂に包まれた。
志門はパイロットシートとコックピット壁面の間に挟まる形で転がった。
男は銃口を向け冷静な口調で志門に言った。
「喋るなっ! こちらの言う通りに動けば手荒な事はしない。」




