『カインの使者』第三部 第7章「大深度地下の遺物」
TR-3Dの高次元走査による皆神山山体と、その大深度地下構造の探査が始まる。ある深度に達した時、エディは地層の異常な発熱を検知し、更に地下深部へと走査を進める。そこで見つかった物は探査と同時に大量の熱を放射し始めた謎の物体で、その中心部にエディはヒヒイロカネに似た波動を感じる。探査データ―を見た望美は天の浮舟を発見したと言って狂喜するが、志門は見つかった物体との関連を問う。また帰り際に志門は今回の情報を守秘するよう望美にお願いした。
一先ず、宿へ帰った三人は今後の謎の物体へのアプローチに関して協議を行った。
『カインの使者』第三部 第7章「大深度地下の遺物」
「山頂より、地下深度300mへ高次元走査を開始!」
エディは目を瞑り他に自分の意識が行かないよう注意しながら高次センサーと同期した。深度を下げ、山体を走査する中で古代の石室や終戦前に築かれた戦争遺構が彼女の意識に送られた。
(山体部には特に同位体のような物は確認できない…地表面を過ぎた。走査面を地下へ下げる…)
高次走査波の面を地下へ潜らせていく中で、土に混じり巨大な岩塊を幾つも検出した。その中には横に伸び地下深部へ枝を伸ばす水脈も確認できた。
「望美さん、現在深度150m。特に高エネルギーを発している物はないわ、走査予定深度300まで残り120m……目標ポイントに到達!」とエディは望美に報告した。それを聞いた望美は腕を組んだ‥‥
「エディ、地熱の上昇は感じられる? このまま走査波を下げて行ってっ!」望美がそう言うとエディは頷いた。
「地熱の上昇を確認……? ちょっと待ってっ! まだ、それ程深い場所じゃないのに温度の上昇が異常に高くなっている。現在深度、凡そ450m…一端走査をここで止めるね。」エディはパイロットシートから離れると後ろに居た望美と志門に意見を聞いた。
「いくら何でも450mは浅すぎる………エディ、この地層に放射性物質の壊変は在った?」と僕は聞いてみた。それに対しエディは無い、と答えた。
「大体、高温度が確認できるのは1000m以上なんだけど…こんな浅い深度でマグマ溜まりは考えられないし……」と望美は頭を捻った。
エディは「もっと深度を下げてみる」と言うと再びパイロットシートへ戻った。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
暫くしてエディは「アァアアーッ ‼ 」と叫んだ。ビックリした僕と望美はエディに近寄った。エディはパイロットシートから離れキャビンに入ると中央の太いシャフトに触れ、そこに走査した情報を映し出した。後を追って来た僕と望美は覗き込むように映し出された情報に見入った。
そこに映し出された情報は地下の遥か下方に巨大なマグマ溜まりが確かに存在はしたが水脈の枝はそこまで伸びていない‥‥だが、650m辺りに高温度を発している物体が確認できた。かなり巨大な物で形状は岩のようだが100m近い。それが発している熱は周囲300mの範囲で地下に相当量の熱を放出していた。周囲の地層温度は240℃以上に達していた。そしてその熱が放出されたのは走査を開始してからだとエディは説明した。
これを聞いた望美は狂喜した。
「これは古代の天の浮舟よ、浮舟!」喜ぶ望美を傍目に僕はエディに聞いた。
「何で急に熱を放出したんだ? 何かと反応したのか……エディ、君の意識が干渉したんじゃないのか ?! 」と僕。エディは腕組みして俯き、暫く考えた後に口を開いた。
「この物体は光子結晶金属? とにかく励起状態にあるわ……異星人のUFOと似ているけど物体の中央からヒヒイロカネと同じ波動のものを感じる…いや、間違いなく在るわっ!」とエディは言った。
「物体の構造は解る?」と僕は更に彼女に聞いた。ちょっと待ってね、と彼女は言うと映し出された物体を拡大し内部を透過させようとしたが出来なかった。
「高次センサーでも内部を透過しない……これはもしかして…」エディはゴクッと喉を鳴らした。
「月の裏側に在った都市のUFOだっ! これは光子結晶金属じゃないっ ‼ 」とエディは叫ぶ。僕は不思議に思い彼女に言った。
「馬鹿なっ……月の都市セイルは、もう物質世界には居ないんだから…」そう僕が言うと隣に居た望美がタブレットを取り出して画面を開くと僕に言った。
「日本には天の岩舟の伝説や現在に近い話では江戸時代にはうつろ船の話もある……前者は日本全国に伝承が残っていて御神体として巨大な岩を祭っている所が在るわ!」と望美は狂喜と興奮を交えながら言った。僕は望美に現在確認している物体との関連を尋ねた。
「私はそれ等を代替の物として祭っているんじゃなくて、実際の天の浮舟だと思っているの……見かけは確かに岩塊だけど何かの原因か条件で起動するんじゃないかと―――」望美がそう言うと僕は笑った。
「んな訳ないだろっw」と僕。だが、よくよく考えて見ればループストライカーも粗、金属の塊でそれ自体が時空に干渉できる能力を持っている。以前、大勢で搭乗した時も内部スペースを外形の大きさに関係なく広げていたのだ‥‥この時、僕はミカも連れてきた方が良かったと思った。僕は前の世界でループストライカーには乗ったが、それは船本体ではなくミカの魂のサポートがメインだったからだ。船と同期していたミカなら、きっと良い助言をしてくれたに違いない。
「物体の温度が上昇している……どうする、志門?」とエディは僕の方を向いて言った。僕は一先ず探査を止めさせた。これ以上の高温度になれば物体の上に存在する地下水脈に何らかの影響が出ると感じた。望美は少し残念そうな顔をした。それに対し僕は次のように言った。
「望美さん、残念なのは分かるけど、これ以上温度が上がれば直上の地域に小規模な地震を誘発させるかも知れない。今回は何か有った!、だけで先ず良しとしようよ。」望美は渋々承知した。僕は続けて言った。
「この事は絶対に秘密っ! 大学のサーバーには情報を上げないでね。望美さんは今回の事が終るまで我慢して欲しい……情報が拡散したらエディにも危険が及ぶかもしれない。」と僕は望美に念を押した。エディは僕の方を向き、ありがとうと感謝した。
僕たちは一先ず探査を修了し、TR-3Dから出た。山頂を下りて車に乗り込み宿へ帰る事にした。
◆
夕刻、風呂へ入りご飯を済ませた後、発見した物体へのアプローチについて協議した。
僕は先ず、皆神山の戦争遺構について望美に聞いてみた。もし、地下へ続くシャフトが存在すれば、そこから進めるかも、と思っていたが望美の隣に居たエディは首を横に振った。
「戦争遺構の縦方向のシャフトはそう深くないわ。物体は深度650mよ、深すぎる、それに近づけても地層自体が物体の熱放射を受けて相当な温度になっている………これを掘り進めるのは専用の機械が無ければ無理よ。」とエディは言った。僕はエディに物体の中に在るヒヒイロカネに似た同位体に意識をアクセスできないか問うた。もし、物体が放射する熱源が、その同位体なら先ずそれを制御しなければならないと思った。探査時に相当量の熱を放射している事から、そのまま同位体を取り出す事は原子炉の燃料を稼働時に取り出せ、と言うくらいに無理がある。
「やってみないと分からない……同位体に同期できるか相性もあるし。」とエディは言った。
次に僕はエディの能力について聞いてみた。
「エディにはテレポーテーションの能力が有るって聞いたけど、今日探査した物体に人を送ることは出来るの?」と僕。エディは難しい顔をした‥‥
「志門にヒヒイロカネを格納台座からテレポートさせて手渡せたのは距離が近かった事と質量が大きくなかったから……今日、探査した物体は高次波を通さなかったからテレポーテーションでも中に何かを送る事は出来ないと思う。」とエディは悔しそうに言った。僕は望美の方を向いた。
「望美さんは何か良い案は無いかな?」と僕。しかし、望美はテクノロジカルな事は分野外と言って首を横に振った。
全員、腕を組んだまま固まった‥‥‥‥‥‥取り敢えず僕は一つの案を出した。
「先ずエディが物体か、その中に在る同位体に意識をリンク出来るか試して。もし、それが駄目なら………ミカを呼ぶしかない。」と僕が言うと二人は目を丸くした。
「エェッ⁉」と驚くエディと望美だった。それ等に対し、僕は次のように説明した。
「エディは高次元に通じた意識を持っているけど、カインのミカは最初から霊子の魂の持ち主だから、もしエディが意識を同期できなかったらミカに頼んでみる!」
エディと望美は固まったまま言葉が出なかった。
【文章補足】〈本文〉志門にヒヒイロカネを格納台座からテレポートさせて手渡せたのは距離が近かった事と質量が大きくなかったから……
↑
上記の場面はSFミリタリーアクション『機動空母リベレーター』Ep:28「月の潜入者」https://ncode.syosetu.com/n3174kl/28 を参照してください。




