『カインの使者』第三部第5章「遺跡の探索へ」
翌日志門と他の者は自分たちの立場を明確にし遺跡の調査の旅に出た。エディのTR-3Dの力を借りるため、それを隠した長野県北部を目指す。
初日、目的地の近くに登山客の偽装をして登山宿に入る志門とエディ、望美たちだった。日が沈み志門とエディは地上へ降りた時に助けてくれた夫妻宅を訪ねる。そこで二人が聞く事は複雑な世界情勢の様子だった。
『カインの使者』第三部第5章「遺跡の探索へ」
翌日僕は全員をリビングに集め、これからの行動をどうするか協議した。望美とエディは初対面ながら特にこじれる様な事も無かったので一先ず安心した。最初に自分がした事はエディの事を再度、全員に確認してもらう事だった。
望美はエディの事を聞くと非常に興味を抱いた。特にエディの乗っているTR-3Dが時空機という事も有り、それを今回の遺跡調査で利用できないか考えている様だった。TR-3Dは時空機という特性上、深々度地下に眠る古代遺物の探索には打って付けの物だったからだ。
「地中レーダーは中央の大学か地盤調査を行う大手企業くらいしか持っていないから、エディがTR-3Dを貸してくれると凄く助かるわ。」と望美はエディの方を見て言った。それに対しエディは少し考えた。
「TR-3Dは今、山中に隠してあるけど下手に動かすと宇宙軍の防空網に引っ掛かってしまう……だけど遠隔で出来るかも知れないから、先ずそれでやってみようと思うわ。」とエディは答えた。
僕は全員に自分の仕事の事を聞いた。前回、自分が動いた時一カ月近く家を空けなければならなかったからだ。逃亡中のエディは別として望美さんやミカ、そして僕は自分の現在の仕事に穴を空けれるか聞いてみた‥‥。望美は研究のために研究室を空けるのは特に問題ないようだ。日々の状況は手持ちのパソコンで研究室のサーバーとリンクして仕事ができるとの事、ミカはかなり厳しい、家庭が在るしパートの仕事も穴は空けられない。前回、月へ行っていた時はまだパートの仕事もなく娘の果南の事だけで、それは両親にお願いすることが出来たが、それが何回も重なると不審に思われてしまう。特に勘の良い父、来門には要注意だ。残るは自分だが、これも正直難しかった。自分とミカがこの世界を創ったとは言え、自分たちは普通の人で仕事の有る社会人なのだから‥‥
「ミカはこれ以上、動かせない。果南の事もあるし…自分も周二日、土日休みなら何とかなる程度だ……どうするかな(汗)」と僕は言った。その言葉に対しエディは不満げな顔をした。
「この世界の創始者たる貴方が世俗の仕事に囚われている、というのは…今はこの世界を救う方が優先じゃないですか?」と彼女は突っ込んだ。
「救う…か、何かのRPGみたいだな。自分は勇者じゃないけど、確かにその責任は存在する。」と僕が言うと望美が兄の事を言った。
「兄ちゃん、じゃなかった(汗)、うちの兄(始)はもう大学(物理研究機構)の仕事は除籍になっていますよ。教授も腹を決めて下さい!」望美は志門に強く迫ったが、それは大学の仕事は捨てろと言っている様にも聞こえた。僕はミカの方を見た‥‥彼女は特に何も考えていないようにニコニコしていた。
「あのぉ…ミカ。何か言って、僕が職にあぶれたら君や果南が困るんだよ…」と僕は言った。ミカはそれに対し条件付きで次のように言った。
「志門、貴方は仕事辞めてもいいよ。その代わり次の仕事は望美さんが保証してくれること!望美さんは大学の主任研究員だから人事課にも顔が利くでしょw」ミカはニヤリとして望美の方を向いた。対して望美はこう言った。
「教授の論文過程は調べました、以前、霊子金属について論文を出してましたよね、受けは余り良くなかったけど…でも、今回の私の研究とコラボすれば自論の正当性を強化できますよw」と望美。
僕は深い溜息を吐くと顔を上げた。そして全員に告げた。
「分かったよ、僕は自分の作ったこの世界のために日常を捨てようっ!」僕はもう腹を決めた、決めなければ前に動き出さないのは自分でも知っていたからだ。望美やエディとの出会いも、それを後押ししている様にも思えた。僕は望美とエディに握手をした、特にエディにはハグを重ねた。
(好き好き、お姉さ~んっ♥!)と僕は内心彼女に対し思っていた。エディは僕の下心を意識で観ていたようで次のように言った。
「志門、破廉恥な事を思わないでっ!貴方、奥さん以外の人と寝たでしょ、それがトラウマになってるっ!」
彼女がそう言うと、さすがにグサッと来た。僕は意を正して改めて言った。
「ごめん、でも正直な気持ち……君の大切な中尉さんも必ず助けるよ。」
それからニ週間の時間を取り、僕は大学の仕事から降りる事になった‥‥
◆
その後、ミカを除く望美とエディと僕は長野県北部の山、エディがTR-3Dを隠した場所を目指した。自宅から三百キロ以上離れたその場所へは車で移動することになった。
僕は車を走らせている時にエディの苦労を思った。彼女は僕の家に辿り着くまで自分の身一つで知らない所を進んで来たからだ。意識という方位磁石を頼りに良く来れたと思う…
家から出て四時間、目的地の近くに迫った時には既に日は傾いていた。地図で言うところの信濃大町駅近くで車を停め、駅でエディはお土産を買った。僕は彼女の行動を訝しがった‥‥
「誰に渡すの?」と僕は彼女に聞いた。
「この町に来た時に助けてもらった人に渡そうと思っている…」とエディは言った。
程なくして大通りにあるコンビニの駐車場で僕たちは車内で登山客の恰好に服を着替えた。ここのコンビニはエディが地上に降りた時に寄った店で困った事を本人が教えてくれた。
直ぐ近くに予約しておいた登山宿が在り、僕たちは一先ずそこへ入った。八月も半ばという事で宿のロビーは登山客で賑わっていた。僕たち一行は出来るだけ目立たないように部屋で寛いだ。エディは軽装に着替えると土産袋を手に立ち上がった。僕は望美に留守をお願いして彼女と宿を出た。高地の夏は日が暮れてしまえば涼しく、エアコンも使わなくても良いくらいだった。
エディは住宅地の路地を進み一見の家を指さした。それは小じんまりとしながら優しい雰囲気のするトレーラーだった。見た感じ、幅員3.4m、長さは12mくらいだろうか…合理的に作られたそれは住んでいる人を想像させるに十分な魅力を放っている。
エディは入口の階段を上り呼鈴を鳴らした。待ち構えていたようにドアが開き中年の外国人女性が素早く僕たちを中へ通した。入った所はリビングになっていて僕たちはソファーに座るように言われた。主人と思われる日本人男性と外国人女性は歓迎と自己紹介をした。外国の女性は男性の妻で名前は秋山・ラーヤ、御主人は航大さんとの事だった。
「よく来たね、そろそろ来る頃だと思っていたよ。君は風早教授だね、妻から聞いたよ。」と男性は言った。突然な事で僕は慌てた。
「何故それをっ⁉」と僕。妻のラーヤは僕の前に出て言った。
「ごめんなさいねw、驚かせて…エディさんの行方はこっちでマークしていたの。自衛隊やアメリカ軍はエディさんを血眼で探しているから保護するために先手を打って内の課員に張り付いてもらっていた訳よ。」
僕は更に慌てた。そして、この家が盗聴されていないかを尋ねた。ラーヤはアハハッと笑うと、大丈夫と答えた。僕は続けて彼女の保護の目的を聞いた。SVR(ロシア対外情報庁)の課員である彼女は淡々と答えて言った。
「彼女の乗物(TR-3D)には興味はないわ。本国ではそれ以上の物をアメリカに先んじて造っているからw……彼女と貴方を保護する理由は貴方がこの世界を創った者で彼女は今の世界を改変するためのキーパーソンだからよ。本国ではプレアデスとの交渉も行っていて貴方が月の人類であるカインと接触している事も、ここ最近の情報で明らかになっているわ。私たちの国は戦争を望んでいない、だけど国としての主権はどの国にも売らない。特にアメリカにはね…彼等はこの時代になっても〈自由と平和〉を謳っているけど本当かしら…」とラーヤはエディの方を向いた。
エディは少し複雑な面持ちでラーヤの話を聞いていると奥から主人の航大がアイスコーヒーを用意してくれた。僕はご主人にどんな仕事をしているか聞いた。それについて航大は以前、海自に居た事、故合って妻のラーヤと居る事を話してくれた。
「ご主人が海自に居た時にロシアへの橋渡しをしてくれたのが奥さんだったんですね。ご結婚されているんですか?」と僕が聞くと彼は頷いた。
「勿論、娘も居るよ、奥で勉強してるけど……私はロシアへ渡航を考えている時に妻にホテルで襲われて…」航大が言い終わる前にラーヤが笑いながら言った。
「襲うだなんてw……おねだりして来たのは貴方でしょwww」ラーヤがそう言うと主人の航大は顔を赤らめて恥ずかしそうにした。
(こうして見る限り、普通に仲のいい夫婦だなぁ…)と僕は思った。取り合へずエディはお土産を渡してお礼を言い家を後にしようとした時にラーヤは僕たちにシート状のものを幾つか渡した。僕はこれが何かと聞いた。
「何ですか、これっ?」と僕。
「光学迷彩よ。多分山へ入るんだろうと思うから、これを着て行きなさい。これは光透過で姿を見えなく出来るし、赤外線や他のセンサーに反応しない。衛星からの追尾も出来ないわ。」とラーヤは言った。
僕たちは御礼を言うとそれを受け取り、一先ず宿へ帰る事にした。
この物語に出て来る秋山夫妻の情報は『海上自衛官 秋山航大の軌跡』https://ncode.syosetu.com/n6521iy/をご覧ください。




