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カインの使者  作者: 天野 了
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「来訪者」

プレアデス船によって地上へ帰還した志門は再び日常の生活を送っていたが、そこへ独 始の妹が彼を訪ねる。妹の望美は大学の考古学研究室の主任研究員で日本考古学研究機構とも太いパイプを持つ人物だった。志門との会話の中、カインの剣の真実に話は迫る。


志門の真実の話を聞き、彼女はどうすれば兄の居る霊子空間に行けるか尋ねるが、志門の回答は冷ややかなものだった。



「来訪者」



時季は八月、暑い時期に入っていた‥‥



丁度七夕の時季、プレアデス船により地上へ戻った僕(志門)とミカは、今まで通りの生活に戻っていたが僕の内心は酷く落ち込んでいた。居候の身で家の外に知り合いは殆ど居なかったマーナ・マグダレネはともかく、地上で仕事や知り合いの多い独 始(ひとりはじめ)に於いては彼の行方を聞いて来る者が多かったからだ。




彼の両親、仕事仲間‥‥沢山の人が志門の元を訪れ始の行方を聞いてきた。彼はカインの月面都市セイルに行く時に僕の名前と住所を身内や知り合いに周知していたらしい。この前も彼の仕事仲間の二人、下衆 勝と春日井良子という人が訪ねて来たが勿論、彼が霊子世界へ旅立った、など真実は口が裂けても言えない。先ず理解されないし、もし理解出来れば、これが死別と同義だと思うだろう。彼等には旅行の途中で別れた、くらいしか言い訳が見つからなかった‥‥今日もまた同じことを言わなければならない。今日は午後に彼の妹の独 望美(ひとりのぞみ)という女性が来る事になっている。



彼女についてはSNSで公表されていて、居住地は大阪吹田市、仕事はH大学の考古学研究室の主任研究員(教授、博士号過程修了)で日本考古学機構ともパイプが有るとの事だ。僕も一応、大学の鉱物学者(教授)なので同じ学識者という点で彼女に興味を持った。




   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥




その日、僕は大学で午前中の講義を終えた後、家に帰った。ミカはパートの仕事に出ていて、娘の果南も幼稚園に居た。ミカに関しては家に居て欲しかったが外に出たいと言う本人の強い要望もあり了承した。自分で言うのもアレだが、ミカはとても綺麗なカインの女性‥‥平たく言うと異邦人という何か特別なプレミアの様なものが自分の中には在る、そして何より自分にとって、共にこの世界を創った特別な存在であり続けている、という事だろう。



ミカは十四時に家に帰って来た。彼女の仕事はスーパーのレジ打ちで多くの客の顔を見ているのが好きだそうだ。ミカの容貌の事もあり客や仕事内では彼女の評判はとても良い。



ミカはレジ袋から甘い和菓子と冷たいお茶を取り出した。


「貴方、お疲れ様~っ、これセールで安かったのよw、どうぞ…」とミカ。


「あぁっ、ありがとう…最近のミカって何か所帯染みたって言うか…」と僕は言った。

「地上の生活に馴染んで来たから…かしら?」


僕はミカを引き寄せ彼女を抱擁して言った。


「昔みたいにカインの言葉で喋って欲しい…自分の中の君のイメージはカインの…ループストライカー(霊子次元探査船)のメサイア(パイロット)なんだ。」僕はそう言い、続けた。



「生きるのも死ぬのも君と一緒だ…」そう言うとミカは優しい表情を浮かべた。



「志門、お前は私が欲しいのかぁ~っw?」ミカは笑いながらカイン訛りで言った。

「そうそう、そんな感じでもっと言って欲しいw」と僕。



ミカは優しく僕の手を解いて言った。

「私、もう少ししたら果南を迎えに行かないといけないから…」

「分かった、今日は十六時に始くんの妹さんが家に来る予定だから…」と僕。


「そう、それは楽しみね。」ミカはそう言うと部屋を出た。暫くして車が出ていく音がする‥‥ミカは幼稚園に果南を迎えに行ったようだ。



僕は自分の部屋を出ると前にマーナが使っていた部屋へ入った。部屋は出来るだけ前のまま、掃除以外はテーブルや小物入れ、全てそのままだった。僕はベッド下の収納箱を引き出し、中から彼女が着けていた服を取り出し、それを抱くとスゥーッと大きく息を吸い込んだ。クリーニングを終えたそれは既に彼女の残り香は無かった‥‥


(お姉さん…会いたいよ……お姉さん…いつか必ず迎えに行くからね)



僕はそれを畳み直し収納箱の中に戻した。そして掃除機を掛け、十六時に来る独 望美を迎える準備を始めた。






暫くしてミカが果南を連れて家に帰って来た。ブゥ~ンッというエンジンを空ぶかしをする音が聞こえる。相変わらず地上の乗物に彼女は手こずっている様だった。ほどなくして、二人が家の中へ入った。


「お帰りぃ~、果南。パパ寂しかったよぉ~っ!」そう言って僕は娘の果南を抱いた。娘はミカの血を濃く受け継いだのか、髪の色はプラチナブロンドのおかっぱで瞳は紫色のとても可愛い女の子だった。内心、自分に似なくて良かったと思う。



果南はググゥ~ッと両手で僕を押し離す。


「パパ、変態!」と果南。横に居たミカはそれを見て笑っていた。

「変態?何処でそんな言葉覚えて来たんだ。」と僕は笑った。果南の成長は早く色んな言葉を覚えて帰って来る。



そんな時、携帯に連絡が入った。ディスプレイに表示された名前は “独 望美” だった。


「はい、風早です…」


{あっ、独です。近くに来ています、暫くしたらそちらに伺いますのでよろしくお願いします…今回は少し話が長くなりますがよろしいでしょうか?}


「大丈夫ですよ、時間は取ってありますので気を付けて来て下さい…では…」と僕は返し、一端携帯を閉じた。


ミカは時間を見計らうように応対の準備をした。




      ◆




定刻通り彼女は来訪し、僕はマーナが使っていた部屋に通した。


「初めまして、私は始の妹、望美です。風早教授の事は兄ちゃん…失礼(汗)、兄からよく存じております。」と彼女は自己紹介した。


彼女の容姿は黒髪のストレートヘアー、スタイルはモデルと見紛う程のプロポーションだった。後で聞いた話では近年までモデルの仕事も並行して行っていたのが分かった。



「始くんにはお世話になりました…」僕が何を言おうかと思っていた時に彼女は側に置いてあった封筒から幾らかの写真を取り出した。


「教授はこれを兄から見せてもらいましたか?」と望美。


僕とミカは数枚の写真を受け取ると覗くようにそれを見た、その写真に映っていたものは‥‥


「カインの剣と…あの女性ネフェリーム・バリアントだっ ‼ …何故?」と僕は彼女に聞いた。


「この剣の事は兄からも調査依頼を受けていたんです。その後、材質を調べるために教授の所へ行くと…教授、兄はその後、何処に消えたんですか?」望美はストレートに志門に聞いた。



(これは、ある程度、始くんから事の次第を聞いているな…下手な嘘は吐けない、どうしよう、困ったぞ…)



僕はミカの方を見た。ミカは案外落ち着いていて、貴方に任せるみたいな感じで見ていた。僕は深い溜息を吐いた。


(ミカの唯一、良くない所は自分がこの世界を創ったという自覚のないところか…それとも、もうセイル(カインの国都市)が消えたからなのかっ⁉…クソッ、もう仕方ないなっ!)僕はミカの態度に少し不満を覚えた。



僕は望美さんに向き直って次のように切り出した。



「望美さん、今から僕が言う事を信じて聴いてください。これから話す事は常識を逸脱しているけど一ミリの嘘も有りません。」そう言うと彼女の表情が(にわ)かに変わった。


「言って下さい、教授。私は受け止めます。」と望美は覚悟を決めた様子で語気を強めた。



僕は記憶をたどりながら一つ一つ有った事を彼女に語った。先ず自分がミカと協力して現在の世界を創った事――、始との出会いから始まって彼と共に月の裏側に在るカインの国都市セイルへ行った事、プレアデスの支援を受けて彼が写真の女性と時空を超えて再会した事、そして彼は彼女と協力してセイルを霊子世界へ移行させたことなど‥‥etc




それを聞いた望美は戸惑いながらもやっぱりか、という顔をした。



「実は私が今の仕事に就いてから、おかしな話をよく耳にしているんです。仕事柄、日本考古学研究機構と話をする事もあるのですが、発掘した特定の遺物がアメリカのCIAによって国外に持ち出されたまま帰って来ない、それも日本で調査が進まない内に…という話をよく聞きます。教授の話と併せると、これらの遺物はとてつもないエネルギーを保存している物質、という事で間違いないですか?」と望美。



「その理解で合っていると思う。カインの剣の同位体は世界を創る程のエネルギーを持っている。始くんから預かったカインの剣とカインの人達は地上の…アメリカの軌道プラットフォームから攻撃の対象として見られていた……僕は、ミカたちの支援を受けて、そのプラットフォームに潜入した事がある。その時、黒い三角形の艦載機(TR-3B)にUSSFと書いてあったのを覚えているよ。」と僕は彼女に答えた。



望美は難しい顔をして腕を組み俯いた。


「どうしたら…教授の言う霊子世界という所へ行けるのですか?」と望美は呟くように言った。


「現状、無理だ……」と僕は言うとミカの方を向き説明を促した。









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