カインの使者 第二部 終章「性愛と家族」
地上へ帰還したミカと志門。自宅のマーナの部屋で志門は自分の思いを遂に行動で表す。それを見たミカは月で志門とマーナの間で何が有ったかを悟る。
翌日、二人は実家に立ち寄り託児所へ果南を迎えに行く。そこでは七夕会が行われ、それぞれが自分の思いを短冊に書く。夕刻、ミカと志門は果南を連れ、近くの河川敷の土手に腰を下ろし満天の星々を仰ぎ見ながら霊子世界へ旅立った仲間に思いを馳せる。
【注意】この章はR-18です。
第二部 終章「性愛と家族」
プレアデス船が地球を目指して飛んでいる時、私と志門が身に着けているボディースーツは突然ブレスレットに収納され、手首から外れると熔解し蒸発し始めた。
裸になった志門は驚いた。
「これは…何が起きてるんだ⁉」
「これは故障じゃない…セイルやループストライカーとのエネルギー連携が完全に途切れたの。霊子感応が出来なくなったのよ」と私は脱力した感じで答えた。
「要するにエネルギー基地局との連携が完全に失われた?」と志門は言った。
「その考えで合っていると思う…」と私。
志門は蒸発し往くブレスレットを見ながら呟いた。
「お姉さん…」
私は彼の呟きの中に何故か始の名前がない事に気が付いた。これが意味するところは……
暫く私たちは何も喋らなかった。それは安心したようでもあり、寂しさと悲しみの入り混じった複雑な気持ちで決して両手を上げて喜べるようなものではなかったからだ。
**********
船が地球の低軌道へ入った所で特使は降ろす場所を訪ねた。
「転送ポイントを言って下さい、そこへ降ろしますので…」
「日本の私の自宅内へ転送して下さい。服も無いので…」私はそう言い、詳しい座標を指示した。特使は日本上空に差し掛かると転送の準備を始めた。
皆で家を出て既に一ヶ月近くが経過していた。時季的にはかなり暑くなっている…多分、七月に入っている頃だ。
「準備が出来ました…」と特使は名残惜しそうに私たちに告げた。
志門と私は特使に謝意を示すため頭を下げた。そんな中、志門は特使に尋ねた。
「また会えますか?」と志門は寂しそうに言う。
特使は短い溜息を吐くと次のように答えた。
「いつか、オープンコンタクトが可能になれば…私たちもそれを望んでいます。今回の件は不安材料の一つが払拭されたに過ぎません…あなた方次第です」
「そうですか…」と力なく志門は言った。
私は彼に寄り添い、そして彼の肩に手を掛け特使へ転送をお願いした。
私たちの視界は一瞬眩い光で満たされた。
◆
次に気が付くと私たちは自宅のリビングに立っていた。
時刻は深夜、約一カ月近く空けた自宅は、もう何年も住んで居ないかのように静まり返っている。私たちは互いに裸だったが、そんな事は頭の中から飛んでいた。
志門は突然、顔を上げマーナの居た部屋の方を振り向くとドアを開け中に入った。六畳の小さな部屋には小物入れやテーブル、ベッドなど家を出た時の状態を保っていた。
(一体何を…?)
私がそう思っていると彼はマーナが使っていたベッド下のクローゼットの引き出しを開け、マーナが身に着けていたであろう肌着や下着をいきなり掴むとベッドの上にばら撒いた。
私は彼の突然の行動に驚きはしたものの、それは私の着るものを探してくれているのだ――そう思っていた。しかし、現実は違った…
志門はベッドの上にばら撒いたマーナの衣類の上に身を投じ、それを掴んで身悶えした。そして彼女の名前を叫びながら……彼のモノはいきり立ち、先端は体液が出て糸を引いた。
「マーナ、マーナ…お姉さん……お姉さん…ウッ、アァ…」
それを見た私は月で彼とマーナの間に何が有ったか思わずには居られなかった。サンヘドリンで行われた合議に遅刻した時の彼の動揺と、そしてマーナ自身がループストライカーの中で自分に過ちが在った事を仄めかす発言をした事など……
もし何事も無く普通の生活でそれがあったなら、今の私は爆発していたと思う。しかし…最早、責めるべき本人は存在しない。生きていても、それは隔絶した世界に居る、死別と同義なのだ。
私は彼の行為を白々と見ていた。私が見ているのは志門ではなく、只の人間の “雄” なのだと……私が次に取った行動は彼に志門という人格を取り戻させたかったから…なのか? 正直自分でも分からない。
私は志門の身体を引き起こし、ベッドの縁に座らせた。そして、前に立つと両手で彼の頭を掴み自分のアソコへ押し当てた。
「……?」志門は暫く動かなかったが次にスウゥーッと大きく息を吸った。そして、私の腰に両腕を回し呟いた。
「甘酸っぱい……ミカの匂い…」
「お帰り、志門……貴方」
◆
昨夜は疲れていたのか、そのまま寝入ってしまったようだ。朝、ベッドで目を覚ました私の横には志門が居た。ふと気が付くと自分の足の付根回りが冷たい事に気が付いた。毛布をはぐると私のアソコは彼の体液で激しく濡れていた。
(……仕方ないなぁ)
私はそう思いながらテーブルに置いてあったティッシュを取るとそれを丁寧に拭った。彼はまだ寝たままなので私はキッチンへ行くと二人分の朝食を作り、衣類を整え洗面所で身だしなみに気を配った。
暫くして志門は起き上がり裸でリビングへ入った。
「お早う、ミカ……何か良い匂い」
「朝食済ませたら果南を迎えに行くから…今日はやる事が沢山あるから貴方もよろしくね」
「ファ~イ…」志門は眠たそうな声で答えた。
*********
お昼前に志門の実家へ着いた私たちを迎えたのは仁王立で玄関で待つ彼の父、来門だった。
「お前たち、何の連絡も遣さずに…心配したぞ、何処まで行ってたんだ⁉」と来門。志門はゴメンと言った感じで片手を上げ、私は頭を下げた。来門の側に居た母の静香は応接室へ私たちを通した。
応接室の畳の間で私たちは正座し父、来門と対峙した。静香は用意していたお茶を淹れて私たちに出す。
「ごめんなさい、お義母さん。気を使わせて…果南は?」と私。
「託児所の方に居るわ。元気よ。安心しなさい」と静香は言った。一通り落ち着いたところで来門は聞いた。
「君たちは一体どこへ行って来たんだい? もしかしてミカさんの光の乗物で遠くへ行ってたとか…」
なかなか鋭いな、と私は思った。志門の父、来門は初めて私がここへ来た時、その事を直感で知っていた人だ。前の世界で起きた記憶も少しずつ魂の奥底で目を覚ましているのだろう。
「ちょっとドバイまで行ってた」と志門。それを聞いた来門はウゥ~ンと唸って志門に言った。
「お前の嘘は直ぐにバレる、スマホの位置情報はこっちで確認している。自宅に置きっ放しだろうがっ!」
「アッ‼ そうだったw」志門は何かテヘペロみたいな感じで苦笑した。
「まあ、それは良いか……それよりマーナ君はどうした? 私は彼女が居ないと何か寂しいんだよ」来門がそう言うと側にいた静香は目を吊り上げて彼の耳を引っ張り次のように言った。
「貴方、いい加減にしないと殺すわよ!六十が近い爺の言う事じゃないわねっ」そう言って彼女は凄んだ。
「話し相手くらいは良かろうがっ!」と来門。
「まあ、まあ…」と私は両親たちをとにかく宥めた。お茶を濁すと言うか、事実は絶対に言えない。言ったとしても多分、理解できる話でもないし、理解出来たら特にお義父さんの来門は憤死しかねないと思った。
とにかく、その場を上手く言い繕い、一通りの挨拶を済ませた後、実家を出ようとした。
玄関を出る時、静香は私たちに託児所で行事が有ることを告げた。
「今日は七夕会が有るって言ってたわね…果南ちゃんと楽しんできなさいね、ミカさん」
「七夕…ああ、今日でしたね。スッカリ忘れてました、ありがとうございます」
◆
託児所に着いた私たちは久しぶりに我が子と対面した。向うへ行っていた時は正直忙しくて頭の片隅から零れ落ちそうだったが、今こうして会った時、切ないくらいに自分の子供を愛している事に気が付いた。
「果南、長い間ごめんね。寂しい思いをさせて」この時、改めて自分の血を分けた存在、言い方を変えるなら家族というものを大切に思った。
( “これは私の子、私の愛する者である…” )私は不意に聖典の一節を自分の身に置き換えて心の中で読んでいた。
志門も果南を抱きしめた。
「只今、果南。寂しかった」
「おかえりなさい、パパ」と果南は嬉しそうにした。
託児所には七夕用の笹が用意され、其々が自分の思いを短冊に書いて笹竹に飾り付けた。
果南の短冊には平仮名で「みんななかよし」と書いてあった。私は志門にも、どのような願いを書いたのか聞いてみた。彼はフッと笑みを浮かべるだけで語らなかった。
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その日、夕刻を過ぎても少し蒸し暑いくらいだったので、私たち家族は夕涼みに近くの河川敷まで車を走らせた。
河川敷の土手に腰を下ろし空を見上げると満天の星が降る様に私たちの目に飛び込んでくる。そして長く広大な天の川銀河…
志門はそれを見て私に言う。
「この壮大な宇宙のさらに見えない遠くの世界に皆は居るんだ……また会えるかな…」
私は膝に果南を乗せ抱きしめると、宇宙を眺め彼に言った。
「私と貴方が出逢えたように……またきっと会えるわ」
涼しい風が私たちを吹き抜けていくのを感じながら時間は過ぎ、天空の星々は傾いて行く…
カインの使者 第二部 了




